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貔貅乱舞  作者: Xib
其の伍 水面、紅きに
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頭痛、苦悩

魯粛が劉備との面会で頭を抱える一方、周瑜もまた頭を抱えていた。

連日、うるさいのである。

抗戦派、同盟派、そのどちらもが周瑜を味方に引き入れようとして、連日周瑜宅で持論をこれでもかとばかりにぶつけてくるのであった。

面倒。

いい加減周瑜もうんざりし、面会拒否までする様になった。それでも、しつこく会おうとする者が跡を絶たない。

考える暇が無いだろうが、と怒鳴っていいのなら怒鳴りたい。実際彼等は周瑜の思考などお構いなしである。考えさせろ、と言っても聞く耳を持たない。

呉にとっては継続か滅亡か、その瀬戸際に立たされている様な感覚に陥ってもおかしいことではない。

とはいえど、である。

「頭痛がする。寝る」

周瑜はぶっきらぼうにそう吐き捨てるや、素早く立ち上がった。それを見るや、侍従が慌てて周瑜の袖を掴んで引き止める。

「お待ちくだされよ。今は呉の危機、彼等の心情も分からない訳ではないでしょう」

分からない訳では無い。周瑜自身も、決めかねているのは事実だった。だが、このまま聞き続けてなどいたら、本気で気が狂いそうだった。

「大体、危機というものはこの時だけでは無い。分岐点に立たされている時、それは全て危機なのだ。何をこの時だけ騒ぎ立てる必要がある」

この時の周瑜はかなり鬱憤が溜まっていた。自身でも実際、何を言っていたのかまともに覚えていない。今は、何も聞きたくなかった。やっていいのなら、酒杯の一つや二つ、誰かに投げつけてやりたい。黙れ、とでも叫びながら。

周りの視線は無視し、早足で自室へと駆け込む。戸を閉めた途端、あの鬱陶しい声、鬱陶しい視線が一気に遮断された様に感じた。

最近は常に苛々しているせいか、自分らしくないと我ながら思う程、部屋が荒れていた。書簡が、乱雑に散らばっている。机の上も、今までにない程荒れていた。

酒杯が、転がっている。そういえば、昨日の記憶がごっそり抜け落ちているな、と周瑜は思った。恐らく、飲み過ぎた。

酒も控えねば、と自身に言い聞かせつつ、酒杯を自室の前に置いた。こうしておくと、いつの間にか誰かが片付けてくれる。そして、次の酌の時に、洗われたその酒杯がしれっと出てくるのであった。それが、何となく面白いと周瑜は思っていた。

足元に散らばっている書簡を片付けようと、手に取る。呉にとっては機密文章とも言うべき内容の書かれた書簡を、こうも雑に扱うなど、本来はあってはならない事ではある。だが、それを思っていても、周瑜の精神はそれでいい、と体に命じていた。勿論、見られるのはまずい。だが、もう見られた所で知るまいと、そう思ってしまっているのである。

普段、寝ている場所だけは綺麗に片付けられていた。最近は床の上で寝ていたりしている為、そこだけ綺麗になっているのだ。

片付けようとして、手が止まった。

何をしているんだろう、という疑念が沸き上がってきたのだった。

状況は何一つ変わらない。それは、考えたく無くなる事実だった。

魏と結ぶ。劉備と結ぶ。改めて来た者を考えてみると、文官は魏、武官は劉備と結ぼうとする。武官は曹操の脅迫文に怒りを感じているのだろう。一方、文官は慎重過ぎるが故、大人しく魏に下ろうとする。

生憎、周瑜は感情的だった。曹操の文に怒りを感じたのは事実だ。曹操と交戦しようと、本気で思った。今は冷静さを取り戻してはいるが、それでもまだ曹操と交戦しようと思えている。

だが、兵力差が笑えない。戦は兵力だけでは無い。だが、それを覆す程の策が、周瑜には思い付かない。

せめて、劉備の軍師と会えれば、何かが変わるかもしれないが、周瑜は孔明を好まなかった。顔を会わせようものなら、嫌味を言ってしまうだろう。

しかし、である。

「ううむ、面倒な事になったな」

周瑜は頭を掻いた。頭が痛く、目を閉じて寝ていたいほどに苛々していた。

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