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貔貅乱舞  作者: Xib
其の肆 武の調律
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探り合い

褒美と聞けば、大抵の兵の士気は上がる。それ程に兵士というのは単純なものだ。

それが決して敵わない存在でも、関係なく士気は上がる。それを上手く使うかが、君主としての器量の一つなのかもしれない。

「行け。張飛を討て」

曹操の号令に合わせ、一斉に兵が橋を渡りだす。橋が激しく揺れ、例の悲鳴を上げるものの、橋は切れない。寧ろ、兵の咆哮に橋が歓喜している様にすら思えた。

「物好きだなあ」

李典が感心の声を上げる。

「物好きなのかなあ」

楽進が呆れがちに答えた。しかしその状況を面白がっている様にも見える。とにもかくにも、兵士達はここぞとばかりに張飛へと突進し、各々の武器を振り上げる。

恐らく討ち取られるであろう。その予想は、曹操でなくとも容易についた事だった。

「雑魚ばっかりかよ。てめえ等なんざ、俺の一撃でどうとでもなるわっ」

だろうな、と曹操が呟くまでもなく、早速一つの悲鳴が上がった。赤い、見慣れたものが舞う。もう見慣れすぎて、驚きも何も無い。唯、道具が一つ、使い物にならなくなった、という認識だけはあった。

兵をいたずらに失いたくはない。兵の一人や二人、消えた所で継ぎ足すことは出来るが、こんな余計な所で潰すのは後々困る事だった。

「俺が行く」

遂に許褚が痺れを切らしたか、馬に乗った。

もういいや、行ってしまえ、という声が背後から聞こえる。殺到する兵を見て、許褚が突っ走ってもまあ綱は切れないだろう、と判断したのだろう。

許褚が駆ける。途端、橋が今までにない軋みを鳴らした。流石許褚である、あの巨体は流石に厳しい所があった。

「貴様、よくもまあさっきまで罵倒云々と」

「乗るお前もお前だろ。阿呆か」

などと何やら低脳だとも思われそうな言い合いをしつつ、許褚と張飛が槍を交えた。力自慢の者同士だ。金属の打ち合う音は甲高く、そして鈍い。

しかし、と夏侯惇は首を傾げる。背後の狼煙、旗その他諸々、動く気配は無い。それに、今戦っているのはこの通り張飛だけである。張飛の手を逃れた者を徹底的に叩きのめすつもりなのか、それかまた別の策があるのか。

はたまた、あれは偽物の兵なのか。考えても仕方無い、といえばそれまでだが、仕方無い、が命取りになるのが戦である。

「あれは、偽物かもしれませんね」

郭嘉が呟いた。いつの頃からか、郭嘉が呟く時、目が鋭く光る様になっていた。その方が、妙に説得力がある。

「ならどうする。このまま張飛を無視して突っ込むか」

「それも一つの案でしょうね。ですが迂回路の地形、この橋といいあまり信じたく無いのですが、挟撃の可能性も」

などと言っている最中だった。遠く、恐らく殿の方から、ただならぬ状況に置かれ、慌てふためく兵、そして馬のいななきが聞こえ始めた。

考えられるとしたら。

挟撃。

まずい、ということは想像がつく。面倒だ、と同時に思った。

既にざわめきは戦のものへと変わっている。夏侯惇は慌てて殿の方へと駆けていった。



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