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貔貅乱舞  作者: Xib
其の肆 武の調律
29/74

追う者、追われる者

民を率いての大移動。

何処ぞの遊牧民地味た奇怪な行動は、劉備の仁義が成したものである。それだけ劉備が慕われている。あれでも、だ。

「勿論、叩き込むんだよな」

「まあ、だろうな」

曹仁はのんびりと答えた。特にこれといった感情もなく、普段通りに答えているように見える。だが、夏侯惇自体は、叩き潰す良い機会だ、と思っていた。己の内から、戦意が湧き上がってくる。劉備を潰す事については、前々から密かに考えていた事だっただけに、今漸く機会が来たのだ、と安堵の気持ちもあった。

劉備の移動速度は遅い。民を連れているからだ。おかげで、曹操軍は特に急がずとも追いつく事ができる。

「このまま行けば、長阪で当たる事になりましょう」

郭嘉が地図を片手に、兵に指示を出す。

相変わらず、顔色が悪かった。郭嘉は柳城以来、あまり人前には姿を見せなくなっていた。噂によると一人縁側で物思いに耽っているらしいが、定かでは無い。

「郭嘉よ」

「はい、何でしょう」

曹操の呼びかけには答えるが、声が虚ろだった。まだ、何か思案に耽っているとも捉えられる。

「お前は病中の身だ。それが、ここまで来て大丈夫なのか」

「お気になさらず。身体の具合は私が知っています。その私が判断した上で、同行しているのですから」

郭嘉は自信ありげに言うが、そう言われても心配なものは心配だった。荀彧、荀攸、賈詡などの軍師は揃っているが、その中でも飛び抜けた才を持つ者、曹操にとってはそれが郭嘉であった。素行は悪いのだが、敢えて目を瞑っていた理由もそこに有る。

ここで失う事があれば、と何度も考えた。が、今一覚悟が決まらない。

その時だった。夏侯淵が慌てて走ってくる。何事か、と言うまでもなく、曹操の前に着くや、片膝をついた。

並々ならぬ夏侯淵の様子に、曹操は目尻を上げた。その変化を気にすることもなく、夏侯淵は息を切らしながら告げる。

「曹操殿。長阪にある一本橋、そこで張飛が仁王立ちして行く手を塞いでいます。先陣にいた者はほぼ張飛に討たれたと、逃げ帰ってきた兵が」

「何だと。男一人に、か」

「はい」

「むう、あやつ、張飛で進軍妨害するつもりか。曹仁」

声をかけると、曹仁がすっ飛んできた。見ると、目が輝いている。恐らく、耳をそばだてていたのだろう。曹操が何かを言うまでもなく、曹仁が口を開いた。

「私めを先陣に。張飛は私が」

一度張飛に敗北した苦い記憶が、思い出される。曹仁は普段は冷静だが、中はまだ若かりし頃の熱がある。その時の屈辱を晴らす機会を待っていたに違いない。

「討たれぬ様、注意せよ。張飛だぞ」

念の為、念を押すと曹仁は不快だと言わんばかりに眉をしかめた。が、曹操の前である、特に発言はせずに頷いて去っていった。曹仁の姿が見えなくなった所で、漸く夏侯淵が立ち上がる。

「本気か」

夏侯淵の忠告に、曹操は黙って頷く。黙る曹操の代わりに、郭嘉が告げた。

「とは言えど、討たれる可能性も否定できない。夏侯淵殿、お目付け役として曹仁に同行して下さい。見届けた後は、好きに動いて良いですから」

「承知」

夏侯淵は頷いた。

外が、少し騒がしい。恐らく曹仁か誰かが、出陣の準備を始めている。

相手は、張飛。あの張飛である。張遼あたりを向かわせれば良かったか、と思ったが曹操は口に出さず、慌ただしい足音をただ黙って聞いていた。



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