記憶の中に
7月15日、雨が降り始めた、間が悪いと思いつつ少し早足で歩く、雨の音にまじり聞こえてくる、電車の音、人の声、車の走る音、そんな音が毎日のように聞こえてくる、、、
学校まで歩いていると、自分とは違う世界の人間が楽しそうに歩いてくる。そのグループの一部の人間はきっと愛想笑いだ、あの世界の人間は上下関係というものが自然と存在している。それを上の者は気づかず当たり前のように認識しているが、下の者は、きっとなにも言えずそれを当たり前だと自分に言い聞かせている、それを見ているととても苦しい、毎日見ているはずなのに何故かはじめて見るような感覚がする…
僕は神田 あきと、三重県の高校一年D組入学してからちょうど半年たったところで、この高校生活にも慣れてきたところだ、友達からは神田の神とあきとのあきでアキカンとあだ名を付けられた、僕がこのあだ名を気に入っていなければいじめのレベルでいじられている。
いつものように自分の席に静かに着く。
僕の席は一番後ろの一番窓側にある、だから落ち着く。
「おっはよう!アキカン!」
びっくりして、振り返ると友達の隅田だった。
「お、おはよう、隅田」
こいつは隅田 かい、入学式の日に金を貸してくれと言われて、僕は、カツアゲだと思ったが入学式の日に、もめるのは良くないと思い貸した、返って来るはずないと思っていたが隅田は返しに来たそれから隅田とは自然と友達と言う関係になっていった、もし漫画や小説なら僕が主人公のような出会い方だった。
この事がきっかけで、隅田は自分の中では、唯一信用していいとおもっている友達だ。
「もぉ〜最悪だよ、途中で雨が降ってきてめっちゃ濡れたよー」
僕は思わず吹き出す。
「笑うなよー、いいよなお前は家がすぐそこだもんな」
隅田は、よく見るとびしょびしょだ、カバンも濡れすぎて色が濃くなっている。
「それより、カ バ ン !拭いた方がいいんじゃないか?教科書とか濡れてないのか?」
すると慌ててカバンの、中を確認する。
「あ!いっけね、出さなきゃ」
慌てる隅田を見てまた吹き出してしまう。
僕は今の様な普通の高校生活が楽しい。。
隅田はカバンを確認した後、濡れてなかったらしく、思い出したように僕に話し出した。
「なーなー、あの話なんだけどさー、今日だからな、忘れてないよな?ちゃんと覚えててくれよ」
僕はなんの事だがわからなかった。
「なんの話だっけ?」
苦笑いしながら聞いた、すると隅田は呆れたような顔をして改めて言った。
「はぁー?青木の事だよ!恥ずかしいんだから言わせるなよ」
僕は、思い出した、なぜ忘れていたのか自分でも全くわからなかった…
昨日の夜の事だった、11時半過ぎた時、突然隅田から電話がかかってきた。
隅田が急に電話をかけて来たのは初めてだったが、僕はとりあえず電話に出た。
「もしもし、どーした?隅田」
隅田は少しモジモジしていた、スマホ越しでもわかるほどだった。
「あ、あのさ、言いにくいんだけどさ、お、おれ青木の事好きなんだ、だから明日告白しようと思うんだ」
僕はびっくりした、隅田がこんな事を話すのは初めてだった。。
青木 チカ、同じクラスの女子で家が僕の家の近くにある、あまり目立たないが、どこか華やかなオーラをはなっている、学年でもトップクラスの美人だ。
「そっか、頑張れよ応援してる!」
まだ、隅田はモジモジしている。
「うん、でも電話したのは宣言するためじゃなくて、明日俺が告白するところを見守ってて欲しいんだ。頼む!こんな事頼めるのはお前だけなんだ!」
すごく、隅田が新鮮だった。少し嬉しかったのかもしれない。
「いいけど、遠くから見てるよ、邪魔はしたくないしさ」
隅田は嬉しそうだった。
「うん!ありがとう、じゃあ、明日の放課後屋上で見ててくれ」
「でも、どこで告白するんだ?」
「本校舎と二棟との間の所に呼び出そうと思ってる」
「そっか、わかった、おやすみ」
「うん、おやすみ」
電話は10分程度だった、でも、この電話のあと、おれは、心のどこかで素直に応援してやれていなかった。
4限目の国語の時間、隅田の告白の時間が近づくにつれ、心がソワソワするのがわかった。青木とはあまり喋った記憶もないはずなのに、、
「神田くん!神田くん?」
ぼーっとしていたら先生が、僕を当てている事に気づき、僕は急いで立ち上がる。
「あ、すみません。聞いてませんでした。」
先生は心配そうな顔をして
「ちゃんと聞いときなさいよー」
と優しく言ってくれた。
みんなが少し笑っている中、席に座る。
そして、静かに時間が過ぎるのを待った。
それから、6限目も終わり、みんなが部活や、下校する中、1人で屋上へ向かった。
屋上に着いて下を見る、すると明らかに緊張している隅田が見えた。すると突然、その隅田の姿が記憶の中の誰かの姿と重なる気がした。誰かはわからなかったが、綺麗な目をしていて、その瞳の奥には何か悲しげなものがひっかかっていた…
しばらくして、青木がきた。隅田が話しかけている。そして青木が返す。
その瞬間、自分の頭の中に複数の感情が、一気に流れ込んできた。
あの、2人の表情を見る限り、隅田は振られた。僕の心の中は友達が振られて、悲しくて、苦しかった。だが、心のはしっこでホッとした自分がいた…そんな自分が許せなかった…
すると、急に青木と目が合った。びっくりして僕は慌てて目をそらす、一瞬だったがあれは確かに綺麗な目をしていた。。
数分後…隅田は笑いながら僕のいる屋上へやってきた。
「いやー、振られちゃったよー、だめだなー俺ってー」
と明るく言った。
その言葉は明るかったが、目元は赤く、泣いたあとがあった。
きっと、隅田は僕にまで心配させるわけにはいかないと思い、明るく振る舞ったのだと思う。僕は自分を殴ってやりたかった、、
僕は何故か、何処かの公園にいる。
しかも1人じゃない、誰か分からないピンクのワンピースで、綺麗な目をした女の子も一緒にいる、なんだかすごく楽しい、その女の子はボールを僕に投げる、だが、そのボールは全く違う方向へと転がっていく、僕はそれを追いかける、ボールを取り公園に戻ろとした時、そこは道路の真ん中で車が猛スピードでこちらに向かってくる、クラクションの大きな音が道路中に鳴り響く。
7月16日、僕はベッドから落ちて目を覚した、大きな音は目覚まし時計の音だったベッドから落ちた痛みと共にふと思う、あの綺麗な目は、あの透き通った目は、、青木だった。
いつものように学校に行き、静かに自分の席に座った、隅田はいつものようにニコニコしている。それを見るとなんだか安心する。
1限目が始まってそうそう、僕はあの夢のことばかり考えていた。
『なぜ、僕はあんな夢を見たんだ?妄想か?いや、それにしては最後車にひかれるのはないだろ、そしたらなんなんだ?』
急に肩を叩かれる。
「おい、あきと、飯いくぞ!」
隅田だった、おそらく何回も呼んだのだろう、少し怒っていた。
「あ、ごめん、ていうか、もう飯?」
驚いた顔で見てくる。
「なに言ってんだよ、ほら行くぞ」
僕は1限目から、時間を忘れるほど、考えていたらしい…
僕は二棟の入り口で、いつも隅田と昼食をとる、二棟の入り口には誰も来ないからだ。
昼食をとっていると、なんだか、夢ははっきりしたものから、ぼんやりしたものに変わっていく。しだいに夢で見た風景はもう思い出せず、また、消えてゆく…
暑い日が照っている屋上で青木はルミと昼食をとる。ルミはチカが何か考え事をしている事がわかっていた。
《ルミはチカの仲の良い友達、チカはルミになんでも話す》
「ねぇねぇ、チカちゃん、もしかしてまた告られた?」
と、からかうようにルミは言う。
「うん…」
「まだ、神田くんのこと、気にしてる?」
「当たり前だよ…だって…」
ルミは急に立ち上がって言う
「チカちゃんがそんなんじゃダメだよ、しっかりするんだ、青木 チカ!」
思わずチカは笑う、それから
「ありがとう…」
と笑顔で言う。
僕は家に帰ってからすぐに、母の所にむかった。母はハンバーグを焼いていたところだった、キッチンにはハンバーグのいい匂いが漂っていた。
「母さん、正直に教えて欲しい…僕の小さい頃のこと」
僕は薄々分かっていた、あの夢は多分、記憶だという事が。
母は、その言葉に少し驚いたが、ハンバーグを焼いている途中にもかかわらず火を止め、ゆっくり僕の方を見た。
「ごめんさない、言わなきゃいけないのは分かってたの…」
母は悲しそうな表情で言う。
こんな母を見たのは初めてだった。
僕は母から全てを聞いた、、
僕はもっと早くにこの事実を、しりたかった、どうすればいいかわからなくなって、気づいたら僕は家から飛び出していた。
僕には困った時に行く公園がある、見晴らしのいい、少し山を登った公園だ。家から走って5分程度のところだか行き道は坂で夜は明かりもなく、真っ暗だ。その公園には小さく、所々さびた滑り台と3人くらいしか座れない小さなベンチがあり、1つだけ灯がたっているだけの本当に小さな公園だ。そこに行き、僕はベンチに座って考え事をする、いや、考えると言うよりも景色を見て時間が過ぎるのをただただ待っていると言った方があっている。風がふくと山の竹やぶがザワザワ鳴りだす。僕はこの音が好きだ。
すると、突然竹やぶの音に混じり、足音が聞こえてくる、それはだんだん近づいて公園に入ってくる、ゆっくり振り返って見るとそれは制服姿の青木だった。青木はすごく落ち込んだような顔をしていた。
「あきとくん、座っていい?」
急に聞いてくる。
「あ、うん」
僕はベンチの真ん中からはしっこに寄る。
しばらく、沈黙が続き、竹やぶの音がはっきり聞こえてくる。
「あきとくん、私の事覚えてる?」
僕は迷った、母から聞いた全ての事を覚えてると言って良いのか自分にはわからなかった。
「ごめん、覚えてはないけど、母さんから聞いた、全部。」
「ううん、あやまらなくちゃいけないのはのは私の方…」
僕はなんて言っていいのか分からなかった。
青木は突然僕の方を向き申し訳無さそうに言う。
「あのね、あきとくん、私、お父さんの仕事の関係で東京に引っ越すの」
僕は頭が真っ白になった、まだ思い出せてない事がたくさんあるのに、全く状況が掴めなかった。
「え?いつ?」
「7月31日の夜に電車に乗ろうと思ってるの、最後にルミと花火を見ようと思って」
僕はますますどーしたら良いのか分からなくなった。その気持ちと平行に青木への気持ちも自然と膨らんだ。
暑い、これは夏の夜だ、僕は何故か全力で走っている。公園に向かっている、それだけが分かる、だが、僕はどれだけ走っても公園にはつかない、つくどころか戻っていっていた。
7月17日、目覚まし時計がいつものように鳴る。いつものように目覚まし時計を止めて起き上がる。顔を洗い、朝食を食べ、歯を磨く、全くいつもと変わらず、学校に行く。
「おーっはよーう!アキカン!」
隅田が後ろから僕の背中を叩く。
「おはよう、隅田、今日は元気だな」
今日の隅田はやけに元気だった。
「だって、もうすぐ花火大会だろ?だから楽しみなんだよ」
「そんなに楽しみか?毎年やるだろ?」
「わかってないなー、同級生の浴衣姿だぞ、じっくり見なきゃ損じゃないか、しかも青木の浴衣姿も見られるかもしれないしな〜」
隅田は妄想を膨らませていた。
「それは無理だと思うぞ〜」
隅田は驚いた顔をして、僕に聞く。
「なんでわかるんだよ?」
「青木はな、その日、引っ越すんだってよ、花火見てから電車で東京へ行くんだってよ」
隅田は明らかに落ち込んでいた。僕は隅田には悪いと思ったが、知らなかったら隅田は立ち直れなくなるかもしれないと思ったからだ。
「そっか、なら仕方無いなー、同級生は青木だけじゃ無いしな」
隅田は意外にあっさりしていた。
きっと隅田なりに受け入れたのだと思う。
隅田は、僕の前を歩く、僕が見た隅田の後ろ姿は何かを決意した人の背中に見えた。
僕はその日以来、記憶の夢を見る事は無くなり、なにも思い出せなくなった、、
それから、何もなく日々は過ぎ。
7月31日、花火大会の、日になった。
この日はちょうど学校も終業式で8月からは夏休みに入る。
学校まで歩く途中、隅田が後ろからいつものように近づいてきた。
「おっはよう!アキカン!」
「おはよう、隅田」
隅田は嬉しそうに言う。
「今日は、花火大会だし、明日からは夏休みだなー、もう、最高じゃん」
僕もそう思ったが、何故か心に引っかかっているものの方が大きかった、、
終業式が始まって、まずは表彰式だ、僕はこの時間が嫌いだ、部活動に入っていない自分がみじめに思えてくる、表彰式が終われば、いつもの校長先生の話だ、夏休みの過ごし方や、ルールなどの毎年恒例の長い話だ。そんないつもとなんら変わらない終業式を終え、帰宅する。家に帰ると母が着替えを用意してくれていた、その着替えの上には【交通安全御守護】と書かれた御守りが置いてあった。
隅田との待ち合わせの時間になり、着替えて、御守りを持ちあの公園に向かった。公園に着いて5分くらいで隅田がきた隅田は自転車に乗ってきた、自転車に乗るほどの距離でも無いはずなのに。。
15分くらいして、急に花火が鳴り始めた。僕と隅田はベンチに座り花火を見た、僕は花火に圧倒されたその瞬間小さい頃の記憶が戻ってきた、、
母はあの日僕に全てを話してくれた、、
僕は小さい頃、チカとずっと遊んでいた、だからチカは僕の幼なじみってやつだ。僕とチカはいつも一緒で本当に仲良しだった、チカはおっちょこちょいで、チカは魚が好きで魚を見つけて足を滑らせ、川に流されそうになった時も僕が手をギリギリでつかんで助けたらしい。だけどそんな日々は続かなかった、、花火大会の日、僕はこの公園でチカと花火を一緒に見る約束をした。チカは新しく買ってもらったピンクのワンピースを着て来ると言って嬉しそうだった。
「ねぇ、あきと、私、公園で待ってるから、あきとは王子様みたいに私を迎えに来て」
僕は、王子様と言うものがよくわからなかった。
「王子様みたいにって?」
「ん〜とね〜、走ってきて、ギュッと抱きしめてくれたらいいよ」
僕は少し恥ずかしいと思ったけど、子供の頃だったから、あまり気にしなかった。
「わかったよ、待っててねチカちゃん」
「うん!」
チカは凄く嬉しそうな顔で笑った。
僕は走って公園に向かっている途中に車にはねられた、、後から母から聞いた話だがチカは自分に責任があると思っていたらしく、それから僕とチカは遊ばなくなり、僕はその頃の記憶を失い、記憶力低下という後遺症も残った。
思わず、
「ハッ」
と声がもれると同時に涙があふれ出てきた。ちょうど花火も終わり、僕は急に公園から出て駅に向かって全力で走り出した。
隅田は驚いていたが、勘づいていた。隅田が自転車で僕の前まで来て止まった、
「駅だろ、乗れよ!」
僕は戸惑った。。
「早くしねーと間に合わなくなるぞ!」
僕は急いで隅田の後ろに乗った、
「ありがとう!隅田」
「何言ってんだよ、似合わねーよ、バカ!」
と隅田は笑いながら言った。
「もうすぐ駅だから、止まったらすぐ降りろよ!」
「ああ、ありがと」
「チカちゃん、東京行っても連絡ちょーだいね、バイバイ」
ルミは駅で明るくチカを見送る、
「うん、送るって〜、バイバイ」
そして、チカは改札を抜ける、すると大きな声で
「チカー!!」
チカは叫びながら、走ってくるあきとに、びっくりする。あきとは改札を飛び越える。
駅員さんは止めるがあきとは走ってチカの所へ向かう。
そして、あきとはチカを思い切り抱きしめる
「好きだチカ!昔も今も、大好きだー!」
チカの綺麗な目には自然と涙があふれ出る。
「あきとくん、私も好き」
「王子様だろ、バカやろう」
あきとは照れくさそうにひっそりと言う。
するとチカはあきとの胸で泣きじゃくる。
冬になると私は切なくなる、早くあったかくならないかと、待ち遠しくなる。
春を過ぎると、胸がドキドキする、虫が増えて、早くセミが鳴かないかと、耳を澄ましている。
気づけばいつも、
「あきとくんと」
「チカと」
「花火が見たいと思ってる。。」
読んで下さりありがとうございます。
この話についてアドバイスや、感想など、書いてくれたら助かります。