#008「湖沼」
――柱時計の中に隠れていた七番目の仔山羊は、母山羊と仲睦まじく、末永く幸せに暮らしましたとさ。
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助役「市民の皆様の憩いの場として、裏野市しらさぎ自然公園が開園の運びとなったことは、実に喜ばしいところでございます」
吉田、黒盆に載せられた白手袋と鋏を受け取り、テープカットの用意をする。
助役「それでは、参ります。一、二の、三!」
吉田、リボンを切り、頭上の楠玉から降り注ぐ紙吹雪を払い落とす。
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助役「立派な湖のある自然公園が出来たものだ。そうだろう、市民生活課長?」
吉田「遊園地が建つ前、ここは水鳥の戯れる沼地でした。あたしは、この地を元の姿に戻したまでです。(ケツに手を添えるな、このセクハラ野郎)」
吉田、尻に添えられた手を振り払う。
助役「謙虚で結構。市庁業務再編といい、今回の件といい、非常に優秀な働きをしてくれるね。上司として鼻が高いよ」
吉田「お褒めに預り、光栄です。(なかなか判子を押さなかったくせに、手柄だけ横取りするんだから嫌になる)」
助役「そういえば、見合い断ったそうじゃないか。もったいない。あんな優良物件、なかなか無いよ?」
吉田「えぇ。大学病院で院長代理をされてますし、スポーツ万能で、語学も堪能。その上、料理上手で音楽にも造詣が深い、とても素晴らしいかたでした」
助役「そうだろうとも。何が気に食わなかったんだい?」
吉田「食材が高級すぎて、胸焼けしました」
助役「なるほど。庶民の味方を標榜するだけのことはあるね」