#007「エピローグ」
――あの遊園地には度々"子どもがいなくなる"って噂があったな。閉園した理由は知らないけどさ、そんな噂があるようじゃねぇ。
*
吉田「この回転バーの下を潜るの?」
少女「大丈夫。お姉さんは、その、……シュッとしてるから」
吉田「ありがとう。優しさに気遣いに涙がこぼれそうだわ」
少女、回転バーの下を潜り抜ける。
少女「さぁ、お姉さんも」
吉田「いま行くわ」
吉田、回転バーの下を潜る。
吉田「あっ、ケツが閊える。悪いけど、引っ張って」
少女、綱引きの要領で吉田を引っ張る。
少女「うんとこしょ、どっこいしょ」
吉田「あたしは大きな蕪か。鼠が手伝うまで抜けないじゃない」
*
局長「視察は終わりましたので、これで失礼します」
オーナー「もう、お帰りですか。何のお構いもできませんで」
局長「いえいえ。ただの視察ですから。こちらこそ、わざわざ施設を開けていただいた訳ですし」
オーナー「そうです。せっかく、開園したのですからね」
オーナー、局長の瞳を熟視する。
オーナー「夢の島のショーは始まったばかりですよ。お楽しみは、これからです。さぁ、童心に返りなさい。この島に、分別ある大人は必要ありません。そんなツマラナイことは、何もかも忘れてしまいなさい」
オーナー、顎に指を添える。
オーナー「そうですねぇ。まずは、園内を見渡せる観覧車に乗りましょう」
局長、オーナーが差し出す手を握る。
局長「はい」
オーナー、薄ら笑みを浮かべ、手を引いて歩き出す。
*
吉田「抜けた!」
♪シャッターが閉まる音。
少女「間一髪でしたね」
吉田「本当。モタモタしてたら閉じ込められてたわ。でも、どういうこと?」
少女「信じられないかもしれないけど、あのオーナーは人間じゃないの」
吉田「幽霊か何かだってこと? 足はあったし、普通に物を持ってたけど」
少女「どちらかといえば、妖怪に近いわ。マヨヒガって聞いたことある?」
吉田「たしか、道に迷った旅人を家に誘き寄せて、旅人の過去を消して、そのまま住まわせてしまうアヤカシだったような。ひょっとして、子どもがいなくなるって噂は」
少女「おそらく、事実よ。オーナーの毒牙にかかってしまったのね」
吉田「それじゃあ、あたしの同僚も」
少女「可哀想だけど、きっと、生きては出られないでしょうね。――檻から救い出してくれてありがとう。ようやく自由になれたわ。さようなら」
少女、白鷺の姿に変わり、飛び立つ。
吉田(あれは、白鷺、よね? 何で、こんな場所に居たのかしら)