#006「観覧車」
――廃園になった遊園地、人なんか誰もいない筈なのに……。観覧車の近くを通ると声がするらしい。小さい声で、『出して……』って。
*
吉田「裸眼視力二点零で目視した限り、どこにも異常は無いわね」
吉田、ゴンドラの前で歩みを止める。
吉田「こんな大名行列か総回診みたいなことしなくたって、二人か三人くらいで充分だっていうのに。こんなことしてるから、行政は無駄が多いってマスコミに叩かれるのよ。そもそも、都市整備局には無能な人材が集まりすぎよ。佐藤さんは締め切り間際までダラダラしてる怠け者し、高橋さんは自称ムードメーカーのお調子者だし、伊藤さんは広尾に実家があることを自慢する高飛車だし、山本さんは局長補佐で茶坊主だし、小林さんは他人の顔色を伺ってビクビクしすぎよ。しかもノルマを片付けて定時キッカリにベルサッサと洒落込もうとしたら、局長が会議に時間を取られて処理できなかった自分の書類を押し付けてくるんだから、嫌になる。自分だけアファーマティブアクションで優遇されやがって。どうせ巨乳を武器に助役に媚を売ったんだろう。オッパイ星人め、ボイン星に帰れ。アァ、考えたら腹が立ってきたなぁ、もぅ」
吉田、ゴンドラの扉を蹴る。
吉田「血税泥棒、ケーワイ、斜陽族、威張りん坊、小心者、ディーカップ!」
♪金属板をガンガンと蹴る音。
少女「そこに誰か居るんですか?」
吉田「中に誰か居るの?」
吉田、閂を外し、扉を開ける。
少女「良かった。ずっと出られなくなってたんです」
吉田「ずっと出られなかったって、どういうこと?」
少女「説明は、無事に逃げ出せたらお話します。早く、こちらへ」
吉田、少女に腕を引っ張られ、走り出す。
*
局長「吉田さん。どこに居るの?」
局長、ゴンドラの扉を閉める。
局長「まったく。扉を開けたまま、どこかへ行っちゃうなんて、何を考えてるのかしら。とにかく、一旦スタッフルームに戻ろう」