#003「ミラーハウス」
――ミラーハウスから出てきたあと「別人みたいに人が変わった」って人が何人かいるらしいよ。なんというか、まるで中身だけが違うみたいだって……。
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伊藤「その人が、その人らしいと思うところを聞いて回ったって、百人に訊けば百通りの答えが返ってくる。つまり、性格なんてものは、あらかじめインプットされたものではなくて、ケースバイケースで柔軟に、そして多様に変化するものだってこと。クオド、エラト、デモンストランダム。以上で、実証されたとする。第一、誰もがみんな、いつも同じ顔をしてるはずないじゃない。それなのに、ちょっといつもと違う振る舞いをしただけで別人みたいだ、なんて言うのよね。窮屈極まりないわ。アァ、あたくしとしたことが、下々の蛙鳴蝉噪に付き合わされるなんて、伊藤財閥の家名に瑕が付きますわ。それに目が回りそう。さっさと巡回を終わらせましょう。アラ?」
伊藤、一枚の鏡の前で立ち止まる。
伊藤「設計図によると、ここに鏡は無いはずなのに。書き損じかしら? それに、この鏡、少しばかり他の鏡と勝手が違うような。キャー」
伊藤、鏡に手を伸ばし、そのまま鏡に写る像に腕を掴まれ、引き寄せられる。
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局長「良かった。伊藤さんは無事だったんですね。さぁ、戻りましょう」
局長、安堵して腕を引くと、そのまま抜け落ちる。
局長「ヒャッ」
人形「あら、いけない。外れやすくなってしまってたのね。ごめんあそばせ」
局長、腕を投げ捨て、走り去る。