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炬燵の中でテレビを見ていると、玄関から元気な女の子の声が聞こえる。
「××ちゃんが来たよー」
遥香さんの声が聞こえる。
僕はそれがすごくうれしくて急いでコートを羽織って玄関に向かった。
「こんにちは、樹君。隣のおばさんがお菓子たくさんくれたから樹君と一緒に食べてきなさいってお母さんに言われてきたの。一緒に食べよ」
それから一緒に炬燵に入ってお菓子を一緒に食べながらたわいもない会話をした。
それは明日は雪が降るらしいからみんなで雪合戦をしよう、だとかやっぱり遊ぶ話だった。
「そういえばこの後みんなお寺で遊ぶって言ってたよ。樹君も一緒に遊ぶ?」
ここに来るのは年に数回にもかかわらず、みんな仲良く遊んでくれるからやっぱり僕はうれしくてもちろんと頷いた。
急な坂を××ちゃんとかけっこして登った。
××ちゃんは女の子なのに周りの友達の中で一番足が速かった。
どうだと言わんばかりの顔をして遅れて走ってきた僕を坂の上から見下ろしている。
太陽を背に立つ××ちゃんはまぶしくて目を細めた。
坂を上って少し歩くと湧水が湧いている。僕はこの湧水が好きでここを通るたびにいつも飲んでいた。
湧水を貯めている木の鉢は凍り付いており小さめの氷柱がいくつかできていた。
二人で体の芯から凍るような冷たい湧水を飲んだあ後、氷柱を何本か拝借しみんなに見せてあげようとポケットに入れた。
お寺の中に入るとまだ自分たち以外の子は来てはいないようであり、本堂の周りには先日降ったであろう雪が積まれているばかりだった。
本堂の脇にはお地蔵さまが並ぶ階段があり二人でそこに座ってみんなを待つことにした。
「ねえ樹君、ここ好き?」
「好きだよ。湧水おいしいし、お寺の鐘をつくの好きなんだ」
「そうなんだ、よかった」
そういうと彼女らしくもないどこか遠くを見るような寂しげな顔を見せた。
何故か僕はこの時彼女が泣き出してしまうんじゃないかと不安であった。
もし泣いてしまったらなんてなだめてあげようか、さっきのお菓子が残っているから少し分けてあげようかな、等ど考えているうちに彼女はいつもの彼女に戻っていた。
「樹君、またここで遊ぼうね」
「まだ遊んでないじゃん」
「そうじゃなくて明日も明後日も遊びたいねってこと。樹君があっちに帰っちゃってもまた帰ってくるまで待ってるから」
「うん次こっちに来る時は電話するよ」
「ありがとう、待ってるね」
待ってるねという彼女の言葉が頭に響いて離れなかった。
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はっと目を開けると宴会場の中だった。なにか懐かしい夢を見ていた気がする。
「どうしたん、涙が出るほど腹減ってんの?」
真の馬鹿にするような声で意識がはっきりとした。
「え、なんで涙なんて」
「トイレでも行って鏡見て来いよ。目真っ赤だぞ」
確かに少し目が腫れぼったいような気がする。
真に言われるがままにトイレに向かおうと立ち上がりもう一度子供たちの方を見たが、さっきの女の子は見当たらなかった。
トイレに向かう途中も周りを見て女の子を探したがやはり見当たらなかった。
「おかしい」
洗面台で顔を洗いながら呟く。
確かにさっき見た女の子と目はあったしここにいるはずだ。外にでも出ているのかな?
そう思いトイレの帰り道、玄関から外に出て辺りを見渡してみた。
すると入口の近くで座り込んでいる先ほどの女の子がいた。
突然消えたと思った少女が目の前にいた事に少し動揺したが、声をかけてみることにした。
「こんなところでなにしてるの?」
そう声をかけると女の子はこっちを見て少し不機嫌そうな顔をして
「なんでもない」
と言って立ち上がり玄関の中へ走って行ってしまった。
宴会場に戻りながら小さい子供に拒絶された事がショックで軽く泣いてしまいそうだった。
またトイレにでも寄っておこうかと考えているうちに宴会場に帰ってきた。
「ずいぶん長いトイレだったな。しっかり腹空けてきたか?」
「ご飯の前になんてこというんだ...」
真にはもう少しデリカシーを覚えてほしいと切に願った。