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ろくでなしの峠  作者: 峠茶屋
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クーラーの効いたバスから降りると、夏独特の肌に絡みつくような熱気が体を包んだ。

8月に入ってからは全国各地で猛暑日を記録しており、久しぶりに訪れたこの栗木(くりき)の郷もそれは例外ではなかった。

午後一時の日差しはジリジリと白い肌を焼くようだった。


バスを降りてからこれからお世話になる母方の叔父の家までの道のりはさして遠くもなかったため、大きなキャリーケースを転がしながら歩くことにした。


十年ほど歩いていなかった道にも関わらず子供の頃の記憶とは馬鹿には出来ないもので、地図を確認するまでもなく叔父の家に着いた。

叔父の家は何のこともない一般的な一軒家で、子供の頃と変わらない様子に安堵した。


インターホンをならすと家の中から返事が聞こえ、玄関の方まで人が来る気配がした。

建て付けの悪そうな引き戸が開くとそこには、昔から変わらない人当たりの良さそうな笑みを浮かべた叔母の姿があった。

「いらっしゃい。よく来たねぇ。あがってあがって」

「ありがとうございます。おじゃまします」

「ほんとに大きくなったねぇ、十年ぶりになるのかな?」

「丁度十年になりますね。親戚一同元気なおかげでなかなか会う機会もありませんでしたし」

そう言うと叔母は大きな声で笑い、ほんとほんとと呟きながら僕を居間へ案内してくれた。


久しぶりに入った家の中は、見たことのない物もいくつかありはしたが基本的に変わりがなかった。何もかも変わらない叔父の家に思わず涙が出そうだった。


居間に入ると今年で高校生になる従兄弟の(しん)がソファーでアイスを食べてながらスマホをいじっていた。

「よう真、覚えてる?」

「覚えてるに決まってるじゃん(たつき)。久しぶり」

「彼女とメールでもしてるのか?」

「んなわけあるかよ。あーあ、高校入学して三ヶ月で彼女できるほどのイケメンに生まれたかったよ」

「文句言うならお父さんに言いなさい」

とお茶を持ってきた叔母が口を挟む。


藤井(ふじい)(たつき)、これが両親から貰った僕の名前だ。

小学生低学年の頃は自分の名前が難しい字を使うのが自慢だったが、今となってはその漢字そんなに難しくないぞと小学生の頃の自分に説教したい。


「親父にそんな事言ったら栗木の川に捨てられそうだよ」

真はそう言いながら食べ終わったアイスの棒を見てごみ箱に投げ捨てた。


どうぞ、と叔母に出されたお茶を飲みながら昔話をしていると玄関の開く音がしてしばらくしてからまた懐かしい顔が居間に現れた。

「おお、樹よく来たな」

「久しぶりです、よっちゃん」

中田(なかた)義久(よしひさ)、通称よっちゃんは中田真の父親であり僕の母親の弟でもある叔父である。

中田家はここ栗木の郷の名所である温泉を営んでおり、昔から叔父の家に遊びに行くと夜は大きなお風呂に入ることが出来たので当時の僕は大喜びだった。

この温泉はここ栗木の郷の中ではかなり大きなもので、宴会場ではよく自治体の飲み会や冠婚葬祭での食事なども行われるような場所なのである。

義久ことよっちゃんは温泉のオーナーであり妻の遥香(はるか)さんと共に温泉を切り盛りしている。


「話は一通り聞いてたが案外元気そうじゃないか」

「うん、おかげ様で」

「じゃあ来た所すぐで悪いが風呂の方に顔だしに行くぞ」

「わかった。遥香さん荷物置いていっても大丈夫ですか」

「大丈夫大丈夫、二階に運んどくから任せといて」

「わざわざすみません、お願いします」

突然押しかけてきて荷物を運んでもらうのは気が引けたが、行為は素直に受け取ろうと思いお願いした。


何故十年も来ていなかった叔父の家に突然来たかと言うと、実家に逃げるように帰ってきてから一ヶ月。何をするでもなく食う寝るするだけの生活を送っていたところ両親から、

「家に引きこもっているくらいなら田舎の叔父のところでアルバイトでもしてこい、田舎なら空気もいいし少しはましになるだろう」

という至極まっとうな事を言われたからである。


別にこのことに関しては全く嫌な気はせず、むしろとてもありがたい話であった。

実際一ヶ月は家の中で引きこもっていただけで、何をするでもなかったため気分も良くなかった。


叔父叔母にこのことを話してから二日三日ほどで押しかける形になったにも関わらず、嫌な顔一つしない叔父の家族には本当に感謝してもしきれない。


叔父の車に乗り、五分ほどで温泉に着いた。

やはりここも十年前と変わりなかった。


「とりあえず事務所でいくつか書類を書いてもらってから早速仕事してもらうからよろしくな」

「わかりました」

と車を停めながら簡単に今日これからについて説明を聞いた。

「それと、夜は樹の歓迎会やるから覚悟しとけよ」

「そんな、歓迎されるようなことじゃ」

「別にそんなの気にしねぇよ。死ぬほどうまいもん食わせてやるからしっかり働いて腹すかせてこいよ」


簡単に書類を書き、仕事内容について簡単に話を聞いた。

どうやら基本的には掃除と宴会の皿洗い等が僕の仕事らしい。

大きな温泉ではあるが基本的には田舎であるのでそんなに忙しくは無いそうだが、なかなかに大変そうである。

過去にホテルでの住み込みバイトを経験しているためある程度の勝手はわかっているつもりだ。


事務所を出てから何人かの従業員と顔を合わせ、実際の仕事を見ながらあれこれを教わっているうちに日が暮れていた。


ごみ捨て場を教えてもらっているところでよっちゃんから今日はもういいから宴会場に来いと声をかけられた。


よっちゃんに連れられ宴会場に入ると、四十人ほどの老若男女が並んで座っている。

自分の歓迎会と聞いていてもっと少ない人数を想像していたため少し驚いた。

顔なじみを探そうと右往左往していると、おーいと真が声をかけてくれた。

真の隣の座布団に腰を下ろすと

「ここの従業員とその家族が来てくれたんだよ」

と向かいに座っていた遥香さんが教えてくれた。

周りを見渡すと子供たちが集まって話をしている。

すると一人の少女と目が合った。


肩を撫でるくらいの黒髪にぱっちりとした目が印象的な幼げな少女だった。


普段なら女の子とは目を合わせることもできないような僕だったが、その子と目を合わせた瞬間体に電気が流れるようだった。


たしかにとても可愛い子だったがそれだけが理由ではなく、忘れてしまった何かを必死で思い出そうと僕の体が叫んでいたからだ。


とても大切だった気がする。忘れてはいけないことだったはずだ、と手が、足が、胸が、脳が、心が叫んでいた。

ひどく頭が痛かった。目をつぶって楽になろうと目を閉じると意識が遠くなっていった。

1話目です。名前が出ました。

僕以外の人物も登場し僕の冒険の始まりって感じですね。


今回の話に登場する栗木の郷という場所はもちろん架空の場所ですがモデルになったところはあります。多分今後書いていくうちにわかる方はわかってくるんじゃないかと思います。


遅くなりましたがここまで読んでいただきありがとうございます。

拙い文章ではありますが今後もよければ読んでいただけると嬉しいです。

では次は2話です。

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