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異世界転生ハローワーク  作者: 鳥辺野 九
第三章 あなたの死後のお手伝い、或いは、あなたの明日をアップデート
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ダンジョンマスタリー

 赤眼鏡にお団子ヘアの、いかにも魔法使いですと言ったファサファサとした格好をした女が、酒場の壁に貼られたポスターを見て絶句した。


『ダンジョン入場者数3,000人突破記念! 入場者全員Sレアアイテムプレゼント! クリスタル購入時抽選アイテム当選確率アップ! レンタルガチャ、10連ガチャ50%オフ! 新イベント、バトルコロシアム実装! 挑戦者初回限定特別ガチャプレゼント! 新規友達2名紹介でガチャカード10枚!』


 ノーラは思わず魔法の杖を取り落としそうになった。前回、宗馬のダンジョンの様子を見に来た時よりちょうど一ヶ月の時間を置いて飛んできたのだが、ポスターの情報量が増えていた。すごい増えていた。


 ノーラを絶句させたものはそれだけではなかった。ダンジョンポスターの隣にもう一枚、やたら派手な色使いのポスターが貼ってあった。


『ダンジョンマスタリーコラボイベント開催中! 新実装バトルコロシアムにあの異種族間安全保障機構、I.K.A.H.O.が参戦! 参加ユニット大募集中! 今ならSレア名刀・三日月宗近、貰える!』


 どーんと真ん中にオレンジ色がかった明るい毛のモフモフしたオークのイラストが描かれていて、いやもう、情報量云々の問題じゃなくて見た事も聞いた事もない単語がゴロゴロ出てきている。


 ダンジョンマスタリーって何だ? イカホって何か、温泉地か? 三日月宗近貰えるって、時代考証も何もなしか。


 まだある。異種族間安全保障機構『I.K.A.H.O.』は現在正規メンバーを募集中です、と。君も僕達とともに古い概念を破壊してみないか? 信念なき破壊はただの暴力だが、高みを目指した破壊は創造の第一歩である、とかなんとか。


 ノーラの脳裏に嫌な予感が走った。きっとこれはあの二人が出会ってしまった事の相乗効果に違いない。本来の世界なら出会う事もなくすれ違うだけの人生なはずが、この混沌が渦巻く異なる世界で誇り高き社畜と意識高い課金奴隷が邂逅してしまった。


 たった一ヶ月でダンジョンをここまでえげつない発展をさせた宮原宗馬と、この世界に転生した後に一年間の準備期間を与えたつもりが短期間で期待以上の展開を見せる灰谷曜市。あいつらはノーラが手解きするまでもなく、出会ってしまったのだ。


 これが転生者の運命と言う奴か。使命を帯びた転生者は運命の車輪をより速く回してしまう。転生ハローワークの職員達のジンクスみたいなものだ。運命の車輪はなかなか思い通りに動かない。


 今回の二人に限って言えば、思い通りに動かないどころか、危うい速度で大回転してるんだが。どこかで歯止めをかけないと。宗馬と曜市は何を成し遂げようとしているのやら。ダンジョンマスタリーとI.K.A.H.O.がこの世界に与える影響とは。


 とは言え、このポスターから得られる情報は訳がわからないものばかりだ。まさに一ヶ月間ほったらかしにしていたSNS系ゲームに久々にログインしてみたら、その様相がガラリと変わってたって感じだ。


「さて、どうしたものかしらね」


 胸の前で腕を組んで二枚のポスターを見比べる。ほんと、どうしたものか。


 ノーラが持っているものは二つ。前回様子を見に来た時に作った冒険者カードと、初回入場記念ガチャで手に入れたオートナビブック。これらでまたダンジョンに潜って宗馬のいる管理人室、つまりはラスボスの部屋までダンジョン探索するか。でも確かパーティーメンバーを三人に揃える必要があったはず。そうとうめんどくさそうだ。


「おい、そこにいるのはノーラじゃないか?」


 と、酒場の喧騒の中、考えあぐねているノーラの名前を呼ぶ声があった。はて、転生者のアフターケアとしていろいろな異なる世界を飛び回っているとは言え、気安く名前を呼んでくるような顔見知りがこの世界にいただろうか。


 眉をしかめて振り向くと、そこにはずんぐりむっくりとした身体へめり込むような首に白いスカーフを巻き、大きくてゴワゴワした髭面の頭に白いベレー帽をかぶったドワーフがニコニコした笑顔で手をあげていた。


「あら、ドンガンじゃないの。またおんなじとこで会ったわね」


 前回一緒にダンジョン探索したドワーフのドンガンだ。偶然にも前回と同じようにポスターの前での再会だ。ちょうどいいとこで会った。あと一人見つければダンジョンに潜れる。


「久しぶりだな! あれから姿を見んかったから、どっかに旅立ったかと思ってたぞ。元気にしてたか?」


 ドンガンはちょうど目の高さにあるノーラの腰の辺りをバンバンと叩きながら大らかに笑って言った。


「ちょっと忙しくしててよその町に行ってたの。そっちはどう? 順調にダンジョン攻略してる?」


 ケツを叩くな、ケツを。ノーラはねじ曲がった魔法使いの杖でぐいっとドンガンをあっちへと押しやった。


「あー、いや、ダンジョンマスタリーは引退した。どうにも課金し過ぎて金が続かなくなってしまってな」


「ダンジョンマスタリーって、このダンジョン探索ゲームの名前なの? まあ、何にしろ課金地獄にハマらずに良かったわね」


「うむ。今ではI.K.A.H.O.メンバーとしてダンジョンに潜っているがな」


 背は低いがやたら厚みのあるごついドワーフが白いスカーフとこれまた白いベレー帽を自慢気に見せ付けてきた。


「全然引退してないじゃん。それにイカホって何さ、イカホって」


「知らんのか? イしゅぞくカんアんぜんホしょうオーガニゼーションの頭文字、I.K.A.H.O.だ。簡単に言えば多種族で構成された傭兵団だな。この純白のベレー帽とスカーフがメンバーの証しだ」


 なるほど。さっぱりわからない。何故機構だけが英語のオーガニゼーションなのか。どちらにしろ、曜市らしい意識高い系の香りがぷんぷんするネーミングだ。純白のベレー帽なんてのも相当意識高い系アイテムだし。


「へー、そーなんだ」


「異種族間での思想の融合と言う崇高さをいまいち理解できてないって返事だな」


「そんな事ないよ。意識高くてけっこう」


 課金制ダンジョンから引退した後に即意識高い系集団に入団とは、どのみち流行り物に飛び付きたい年頃のドワーフなんだろう、ドンガンは。


「で、このポスターなんか睨んで、バトルコロシアムにでも挑戦するのか?」


「コロシアムって何をするの?」


「バトルだ、バトル。モンスターとの集団戦もあれば、冒険者対冒険者と言う熱い対戦もあるぞ。お前さんも魔法使いとして参加してみないか? 初回限定ガチャも回せるぞ」


 引退したとか言っておきながら、まだまだガチャに未練がありそうね。これが廃人と言う奴なのね。ノーラはこの異なる世界に宮原宗馬と言う男を転生させた事にほんの少しだけ罪悪感を覚えた。ほんの少しだけ。これも仕事だし、しょうがない。


「まさか。か弱い私にバトルは無理。そういえば、あの子はどうしてる? ほら、何て言ったっけ、あの幸薄そうな騎士崩れの坊や」


「ああ、レイノか? ほれ、そこに名前が載ってるだろ」


 ドンガンが短く太い首をぐいと煽って髭もじゃの顎で壁を指す。


「名前?」


 掲示板にはもう一枚張り紙がしてあり、それにはたくさんの名前が記されてあった。何の名前だろうか。ノーラは赤眼鏡をくいっと薬指で上げて細かい文字列を睨み付けた。


 バトルコロシアム週間ランキング上位入賞者と書かれた名簿の一番上に、輝かしく飾られたレイノの名前が記されていた。


「あー、そう言う事ね」


 すっかり重課金者として君臨しているようでなによりだ。


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