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はらいたい

作者: カムネラ



午前の授業、もっと詳しくいうと二時間目の世界史が始まってから、俺は腹痛と激戦を繰り広げていた。

痛い。超痛い。産まれる。

そう叫んでしまいそうな程、小腸か大腸らへんからギリギリと締め付けるような鋭い痛みが俺を襲っていた。何度トイレに行こうと思ったか定かではないが、俺は授業中にはトイレに行きたくなかった。

何故なら此処で手を挙げてトイレ行きたいですと言ったら絶対に大便すると思われるからだ。いや、合ってんだけど、合ってんだけどさ。つらいじゃん?恥ずかしいじゃん?


そんな俺は腹痛が辛すぎて先生の声も入らず、ましてや友達にも助けを求める訳にもいかないので、黙って授業が終わるのを待っている訳だが、超つらい死ぬ。いやマジで。


「…おい加藤大丈夫か?顔色悪いぞ」


先生は腹痛で顔色が優れない俺を見た。はい。お腹が痛いんです。今すぐトイレに行かして下さい。と言える筈もなく、腹痛を押さえるのに必死で


「ええ、まぁ…」


としか言えなかった。

そんな俺を見てか、先生は気を使ってくれたのか、保健室にいけと俺を誘導してくれた。その言葉に感謝しつつ、もうこの先生をこっそりケツアゴと呼ぶのはよそうと心に誓い、席を立った。




教室から出た俺は、半ば駆け足で化学準備室近くのトイレへと向かった。走ってしまうと腹痛が増すのではと思った俺自身への配慮だったが、如何せん化学準備室の道のりは遠かった。

あそこは道のりが遠い為か、人が少なく、今は授業中なので誰かが入ってくる心配も無いので、俺はそこにしようと決めたのだが歩く事に増していく腹の痛さに、もう何処でもいいんじゃね?と思いつつも、俺の精一杯の自尊心が化学準備室へと歩みを進めていく。


そんなこんなで化学準備室も後少しだというときに、渡り廊下で三人の男が授業中にも関わらず、何かを囲むようにして突っ立っていた。

丁度ド真ん中に立たれており、渡り廊下も、生徒が本来使わない場所なので狭い作りになっている。

その為、なかなかがっしりした奴らが三人も真ん中にいてしまうと、俺の通るスペースもないわけで。

それにも関わらず歩む足を遅めずに進みながら、俺はど真ん中に立っている超迷惑な奴らを見た。

奴らはこの学校で悪い意味で有名人な奴らばっかだった。バイクで登校は禁止されているのだがそれにも関わらず、何食わぬ顔でバイクで通勤、そして他校の生徒との暴力事件で謹慎をくらったとの噂だ。


なんつー怖い噂だよまったく。

まあ俺の情報はは如何せん耳に入るのが遅いので、もっとなんかやらかしていると思うが、それより俺は早くトイレへ駆け込みたかった。

しかし前にいるのはその怖い噂で有名になっている野郎達だ。引き返すという選択肢もあるのだが、ぶっちゃけここを通れさえすればすぐトイレなのだ、腹の限界もあって今更引き返す訳には行かなかった。

云々とどうやって野郎達を刺激しないで此処を通るかと頭を働かせるが、一向に収まらない俺の腹は、早くしろと俺をせき立てる。

無理無理、腹が痛すぎて頭も働かねえ。くそ、なんか、腹立ってきた。なんで俺が一々奴らの事を気にかけなきゃなんねぇんだ。俺はただトイレに行きたいだけなのに、だけなのに!


半ば自暴自棄になっていた俺は、残りの力を振り絞り、奴らの元へ全速力で向かった。

奴らは何か揉めているようで、俺が奴らに向かっているにも関わらず、気づかずに話を進めていく。

馬鹿だこいつと思いつつも、今更止まる訳にも行かず、そのまま進んでゆくと、奴らが囲んでいた何かと目があった。


奴らが囲んでいたのは、頭をワックスでツンツンにした小柄な男子だった。ワックスでたたせた髪で身長をかさばってんのか、囲んでいる奴らがデカいのかなんなのか分からないが、身長の面では対極な男子だった。

制服もだらしなく着込んでおり、奴らが一方的にカツアゲみたいな事をしている感じではなかった。

その男子はいきなり参上した俺に困惑した表情を隠せず、奴らを見る。多分奴らの仲間なのかと思ったのだろうが、断じて違う。俺はただトイレに行きたいだけの一般生徒Aである。


その男子の目線に気づいた奴らの中の一人が此方に向いた瞬間。


「ごぱあ!」


俺の右手がその一人の腹にめり込んだ。

走った時の勢いもあってか、その一人はその巨大な身体を宙に浮かせて、お尻から床へ叩きつけられた。

俺の自分でも分からない不可解な行動と、奴らの仲間がいきなり襲撃に合った事で呆然と突っ立っている他のやつらとツンツン男子をあえて無視しながら、やっと開いた道を通る。勿論その一人の腹を踏みつけて。


「邪魔だ。どけ。」


いや、もう邪魔してないけど。

そう心の中で一人突っ込みをしつつも、歩みを進める。

途中でちょっと今の台詞格好良かったかもと思いつつも、俺の最終目的がトイレいって大をすることなので少しも格好良くはないのだが、この学校で有名な奴らを偶然と運で一人ではあるが倒せた俺を俺は自画自賛していた。

腹の痛さもピークに達したが、その後奴らが奴らの仲間を倒された為に怒ってやってくる事もなく、やっとの事でようやくついたトイレにほっと胸をなで下ろした。



トイレも無事に済ませ、心も身体もすっきりした気持ちで渡り廊下を歩く。

トイレに立てこもること数10分、俺がトイレからでてまず最初に心配になった事は渡り廊下に奴らが待ち伏せしているんじゃねえかということだった。

いくら腹が痛かったとはいえ、奴らに喧嘩を売るような事をしてしまった訳である。今更考えると何してんだよ!と過去の自分に激怒するぐらい俺は奴らの一人を殴ってしまった事を後悔していた。


「あ!」


いつ渡り廊下を渡ろうかと考えあぐねた時、後ろからいきなり声が聞こえた。みつけた!と言わんばかりの声に、心が急激に冷めていく。

ヤバい。殺される。

そう思いつつ、逃げだそうとしたが恐怖で足がすくみ動けない。何でだよ!こういう時動けよ俺の足!頑張れ、超頑張れ!


「やっぱり!さっきあいつ仕留めた先輩っすね!」


と思っていたら、先程の奴らではなく囲まれていたツンツン頭が俺を呼び止めていた。

っていうかなに仕留めたって、怖いんですけど。そう思いながら声のした方に振り向き、ツンツン頭を見る。

ツンツン頭は俺の事を先輩と言っていたので後輩なのだろうが、まあよく見ると見た目からも後輩だろうなっていうぐらいの幼さだ。目がぐりぐりしており、顔も小顔でどこかの女子の高校生雑誌のモデルを思い出した。なんだこいつ、女子か。

いやでも声は若干高いけれども完璧に男だ。

そんなどうでもいいことを考えていると、そのツンツン頭は俺をキラキラした瞳で見つめた。

さながら何か凄い物を見つけてそれに感動しているような…って、え?。


「さっきの腹パン格好良かったっす!弟子にして下さい!」


そう言ってツンツン頭は俺の手を力強く握りしめた。え、何々。怖いんですけど…怖いんですけど!


「いや、弟子もなにも…」

「弟子じゃ駄目っすか!やっぱ舎弟ですか!それでもいいです!」

「いやいやいや、弟子も舎弟もいらないから!」

「なる程!一匹狼ってやつっすか!パネェっす!」

「違うから!」

「まじパネェっす先輩!どこまでもついて行きます!」


あ、駄目だコイツ話聞かねえやつだ。

そう思った途端、収まっていた腹痛が再び降臨することになるとは思いもよらなかった。






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