放浪者-観察-
この話から早速展開が怪しくなってきますん
「ごめんなさい……ごめんなさ……い」
女子は必死に謝り続けていた
(まだ、言っているのか……)
一体何が女子をこうまでさせるのか
まさか女子の目には未だに店主の姿でも見えているのか
それとももしや、店主以上に恐ろしいモノでも見えているのか
背中から降ろしてから数分間楽之助はそんなことを考えていたが
結局答えは本人に聞く他ならない
(……だが)
結論が出たところで改めて立ち尽くしている女子を見る
体はやはり小さい、背丈など楽之介の7割5分程しかない
楽之介の身長が5尺5寸(約165cm)といったところだから
女子の身長は4尺(約120cm)といったところだろう。
足は細くて頼りなく、強く力を入れれば折れてしまいそうな程だ
それに腰周りは着物でよく分からないが
この様子だと痩せていることが容易に想像できた。
(ん?)
だがそこで、足から頭に向かって順々に眺めていった楽之介に
一つの疑問が生じた、胸が膨らんでいるのである
しかもその膨らみ方は女子の体躯には決して似つかわしくない膨らみ方だ
この背丈からすると歳もそういっていないはずだ。
しかし、目の前の女子の胸は着物の上からでも分かるくらい膨らんでいる
(きっと着物の下になにか詰めているのだろう……)
自問自答しながらも、これが一番と考えられる結論に
楽之助は安心した後、再び女子の外見を脳裏に焼き付けていった。
次に見る部分は今回楽之介が暴走した事の発端である女子の顔である
恐る恐る目線を顔に這わせ、楽之介の目が女子の顔全体を捉えた。
やはりその顔はどこかあの人の面影があり、他人というのには似過ぎていた
目を反らす事が出来ない、いや、したくないというべきか
ずっと見続けていたいと思ってしまいそうになる
しかし、楽之介がいくらそう思っても記憶がそうはさせてくれなかった。
見つめ続けていると不意に昔を思いだし強引に目を背ける
(って違う違う)
だが、直ぐに向き直り再び見つめ直す
整った顔立ちに、周りの夜の闇に溶け込みそうな綺麗な黒色の瞳
それと腰付近まであるその長い黒髪はそよ風に少しなびいていた。
思わず髪を撫でてしまいたくなって前に出そうとした右手を
必死に抑えつつも、つい先ほどでた
『本人に聞くほかならない』
という本来の目的に楽之助は観察を中断し素直に従うことにする
聞かなければいけない最初の事は、
「ねえ、君の名前はなんていうんだい?」
名前である
この質問は楽之介にとっては最優先であった。
名前を聞くことができればそこから色々とわかるかもしれないし
それに連れ出してから何十回と聞いたが返答は貰えてなく
その事が引き金となって、何が何でも聞いてやる、
という気持ちに楽之介を駆り立てていた。
目の前にいる女子からの返答を待つ
「…………」
しかし結局今回も何も答えてはくれなかった
というよりも
「心ここにあらず、か」
女子はいつの間にか呟く事は止めていたが
先程のように楽之介がいくら見つめ続けていても、
話しかけても無反応で、とても生気がある人間とは思えなかった
例えるなら、瞼が自動で開閉されるようになった傀儡だ
「しかしいくら何でもこんな所に何時までも二人きりでいるわけにはいかないしな……仕方ない」
そこで、あまり女体に触れたくない楽之介にとってあまり気乗りしない事であったが
よく考えてみるとおぶったり、手を引いて連れ出してきた時点で今となっては
完全に後の祭りだ、その事に楽之助は自分の中で軽く嘲笑しつつも
腹を決め、『女子の肩を揺らす』という最終手段に出ようと試みた。
ゆっくりゆっくり両手を女子の肩に近づけていく
まだ女子の反応はなにもない。
(この様子だと肩に手をおいても意味がないかもしれない)
楽之助の頭は徐々にだが、流れに任せていたせいで忘れていた焦りを
取り戻してしまっていた。
肩に手をのせる寸でのところで止める
頭の中ではどんどん最悪な方向へと想像が膨らんでいた
もし、これで駄目ならばこれ以上の手段を講じることは出来ない。
(その時この女子を俺はどうするのか)
必死に考えた
嫌な方向にいきそうな思考をなんとか戻そうとした
その答えはあってはいけないと気づいていないフリをする
(勝手に連れてきておいて今度はどうするというのか……)
楽之介の中には答えは疾うに出ているというのに必死に除外しようとした。
考えれば考えるほど一つの答えにしかたどり着かない
そんな自分が嫌で自分自身を心の中で叱咤する
(それではあの店主と何ら変わりない!!やっていることが違うだけで結果は同じだ!!)
その答えを、考えをなくそうと心の中で喚くが
結論はその一つに統一され今にも口を突いて出そうになる
押さえ込もうとした、しかし他に何も案が出てこない
そんな現状に体の、心のどこかが嫌気が差したのだろう
自分の中の何かが楽之介の口を使い言葉を呟いた。
(これでも反応が無い場合は……)
「置いていく、この子をまたひとりにして……」
呟いた瞬間
今度こそ頭の中からその考え事振りほどくように勢いよく首を左右にふったせいで
その反動で手にも力が篭もり、思い切り女子の両肩を掴んでしまった。
「……っ!!」
女子は声にもならないような短い悲鳴を上げて
ペタリ、とその場に崩れ落ち項垂れてしまった。
(南無三!!)
そう思ったところでもう遅い
肩を掴んでしまった両手は虚しく空を掴んでおり
楽之介の精神は混乱と自分に対する怒りとで
決して冷静などと呼べる状態ではなかった。
「だ、だいじょうぶか!?」
慌てて立ち膝になり、不自然な体勢をとりつつも
項垂れている女子の顔を下から覗き込む
すると
(え……?)
次の瞬間、楽之介に戦慄が走った
目があった途端女子の顔が笑みを浮かべたのだ
その事に驚いた楽之介は姿勢を維持できず
なんとか倒れまいと抗っていた結果
更に不格好で無理な体勢になってしまった。
(女子が何を考えているかは分からないが、まずは体勢を戻さないと)
立ち上がろうと体に力をいれたその時
先程まで傀儡の様に全く動かなかった女子が
その両腕を伸ばし楽之介の肩にあてい、地面に倒すように力を込めた。
「……うわっ!!」
只でさえ維持が辛い体勢をとっているのである
そこに力が加われば、維持など出来ずに押された方に倒れるに決まっていた。
ゴンッ、鈍い音が楽之介の頭に響く
倒れた時に地面に少し後頭部を打ったようだ
「いっ……!!」
予想外の痛さに思わず目をつぶり頭を抑える
(何で、こんな事を!?)
元々混乱しきっていた楽之介の頭は沸騰しかけていた
しかし、その混乱は一気に冷静に引き戻された
ズシリと腹の部分に重たさを感じた。
温かさを感じるあたり、これは女子が上にのってきたのだろう。
(まさか……)
今の楽之介の頭で考えられることは一つしかなかった
(やはり、無理やり連れ出してきたから怒っているのか)
当然だった、こっちの勝手な都合で連れ出したのだ
そうされた女子には選択肢など無い
もうあの場所には戻れない
そうさせた男が今無様にも目の前で頭の痛さにのたうち
動けずにいるのだから、追い討ちをかけるのは至極当然の事だろう。
(少し大きめの石ならそこら辺にあるか……)
いくら体が小さくても、石を力いっぱい何度も叩きつければ
人間の頭部など直ぐに再起不能になるだろう
このまま自分が殴殺される姿を想像したが、
それでも抵抗など微塵もしようと思わなかった。
(自業自得だ)
後先考えずに連れてきた結果がこれなら仕方ない。
その瞬間を待つ間に女子の顔を痛む頭で必死にもう一度思い出す
(名前……聞けなかったなあ……)
しかし、今となってはそんなことはどうでもいい
あの顔をもう一度見れたのだ、厳密に言えば全く違うが
こんなにもよく似た顔を見れたのだ
この女子になら殺されても何も言わない
寧ろ嬉しいとさえ思えるだろう
何故なら結局最後まで見つけることはできなかったが
その人の子供の頃の姿にとても似た人間に手を下されるのだから。
探し求めていた人、それは最愛の人であり、放浪者となった理由
「姉さん……」
その時上に乗っていた女子が動く気配を感じた
(そろそろか……なら、せめて最後に……)
もう一度だけあの綺麗な顔を見たかった、十分に焼き付けながら死にたかった
だが、期待をして目を開けた途端
楽之介のその殺して欲しい、殺されてもいいなどという
甘い考えも期待も思惑もその全てが一瞬にして裏切られた。
次回は性的描写的な物が少々入ってきます
そのものが苦手な方、上手い文章じゃないと
見たくない方はここでストップ推奨です