放浪者-出会いと買取-
稚拙な文章ですが、どうぞよろしくお願いします
活気のある通りを歩く放浪者が1人
その男齢20といったところ、名は『楽之介』
特徴など特になく、放浪している目的など
楽之介以外の誰にもわからない
楽之介自身でさえもその目的を半ば諦め
死ぬまでこの放浪生活を続けるのだと思っていた
何も得られず、無様に死ぬのだと……
-彼女を買うまでは、そう、思っていた-
見慣れぬ町、見慣れぬ道
道の両側には所狭しと店が並んでいる。
「この町はやけに賑やかだな……」
もう夜だというのに眩しすぎるほど明るい通り
楽之介は顔をしかめながらも改めて通りの奥まで見据える。
「いや、賑やかというよりも五月蝿いと言うべきか」
楽之介は飽きれ、文句を言いながらも通りを進んでいく
すると、ふと女の声が楽之介に向けられた、
「ねえ、そこのお兄さん」
楽之助は直感で察する、身売りの類だ。
男なら誰もが振り返ってしまう
色気があり、まさに誘っているような声が聞こえる。
「はぁ……」
だが、特に気にも止めず歩き続けた
多くの町を回って来た楽之介にとっては
この手の謳い文句など疾うに聞き飽きていた。
「ねぇちょっとそこのお兄さんってば!!聞いているのかい!?」
二度目の声には先ほどの色気はなく、少々怒気が交ざっていた。
(この手は無視するに限る、反応すればきりがない……)
経験を生かし、無視し続けるのが妥当と判断して歩き続けようとする
しかし、その楽之介の手首を娘が掴んで引き寄せられた。
「安くしておくからぁ、あたしを抱いておくれよぉ、場所もすぐ近くにあるしさぁ」
女が甘い声を出しながらもすぐ真後ろの店を指差す。
(反応すればきりがない……が)
実害をなされてはそうも言ってはいられない
楽之助は掴んできた腕を今度は逆に握り返し、
「あまり調子に乗るなよ、体売りの女」
睨めつけながら、腕を潰すような気持ちで思い切り握る。
面倒事が嫌いな楽之介にとって
どの町にもいるこの様な女が一番目障りだった。
(強く言って行動でも示したのだから早く立ち去ってくれるといいが……)
と、そこで女の言っていた店から急に鈍い音が鳴り響いた
具体的に言えば人が殴られた時の様な蹴られた時の様な、
そんな音だった。
思わず音のした方向を見ると、
たった今殴られたであろう長い髪の女子が一人
頬を手で抑えながら俯いて何か呟いている
どうやら殴られたのは頬らしい。
思わず見続けていると、丸く肥えた店主と思わしき男が女子に近づき
その長い髪を強引に引っ張り上げ無理やり立たせた。
その時、前髪で隠れていた女子の顔が顕になり
楽之助はその顔を見た瞬間、とある女性の顔と被り
「……っ!!」
体が動いていた。
直ぐ様潰す気で掴んでいた女の腕を離し、店に向かって進んでいく
そして入るやいなや店主の肩を掴み振り向かせ、
「その女子を買う。ここは体売の女共を客に買わせる場所なのだから
まさか異存はないだろう?」
そう言い放つと、店主に銭を投げつけ
あっけにとられる周りの人間をよそに、女子の手を引き
足早に店を出て夜の町を走り続けた……。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
あれからどれだけ歩いたろうか、
店を出て走り始めてから5分も経たないうちに
女子が疲れ果てたのか動かなくなったので
今はおんぶをしてとぼとぼと歩いていた。
-今から約10分前-
これからこの女子をどうするのか、
まずなんでこんな事をしたのか、
女子を背中に背負い
歩きながらもそのことばかりをずっと考えていた。
「あの時は、冷静じゃなかったな……」
ただ似ていた、それだけでここまで体が動くとは
自分でも思ってもいなかった。
自分の軽率さに嫌気をさしつつも
今更戻しに行くことなど出来ないという
現実と向き合っていた
(取り敢えず名前だけでも聞いておくか)
せめて名前を知らないとこの先色々と不都合があるだろう
そう思い楽之助はぶつぶつ何かを呟いている女子に問いかけた。
「ねえ、君の名前はなんていうんだ?」
-そして今に戻る-
「ごめ……なさい……ごめん……なさい」
何を聞いてもこれの一点張りで
結局何も答えてくれなかった。
楽之介が途方に暮れながら歩き続けていると
いつの間にか、人気のないところまで来ていた。
(考え込んでいる間にこんなところまで来てしまったか)
先ほどまでの眩し過ぎる明るさとは違い
少し遠くにわずかに町の賑やかな音が聞こえるような
月明かりだけが照らす仄暗く、薄気味悪いところだった。
しかし、周りに何もないというのは二人だけで話し合えるというのは
今の状況からすると絶好の機会だ、怖いなどと言ってはいられなかった。
「ここなら周りに人もいないから、まともに話が聞けるかな?」
女子以外誰も聞いていないこの場所で
怖さを紛らわせるためにわざとらしくそんな事をいいつつ
月明かりが一番強く当たっている場所に女子をゆっくりとおろした。