三話
目覚めた時はだだっ広い部屋に一人だった
先ほどはきちんと見れなかった部屋は本当に広い。大の男五人が大の字になっても余裕のある超キングサイズのベッドに
ふっかふかのソファ
洗面所は大理石造り
部屋の天井には豪華なシャンデリア
裸足の足が軽く沈む絨毯
部屋の各所に邪魔にならないよう配置された調度品は庶民な私から見ても品があると思う
バルコニーに出れば眼下には想像していたより普通な街が見えて、溢れる溜め息
ふわふわと着心地の良いワンピースが風に揺れる
「夢落ち希望で。」
「現実逃避か?魔王様?」
突然独り言を返され驚き声の方を見れば、エルンストさんとはまた違う美形がバルコニーの端に立っていた
「どなた?」
「意外と冷静に現実を受け止めているのか、それとも驚き過ぎて突っ切ったかのか
さておき、我はユリウス・ミュラー。一応六大貴族の当主を務めています。
御会いできて嬉しく思いますよ」
無表情を少しだけ緩めエルンストさんのように胸に手を当て礼をする
鋼色の髪を纏めて赤い結い紐で結び、深い翠の服は軍服のようで身長高くガタイの良さもあってとてもよく似合っている
「魔王様?」
「・・・あぁ、不躾に見てごめんなさい。私は雀部柚希。えーと、ユズキ・ササベよ」
名前を言いながら、そういえば此れが初自己紹介だなあ。と思う
エルンストさんには一方的に名前を尋ねただけだ
「ユズキ様・・・異世界の御名は不思議な響きですな」
「多分日本人だからだと思うけど。」
「興味深いですね。」
「ワタシは貴方が此処にいることの方が興味深いですよユリウス」
「おやエルンスト」
「魔王様のバルコニーに無断で侵入するとは・・・。今回は何処に行くつもりだったのですか」
「大広間に向かっていたはずなんだがな」
「大広間に向かって何故魔王様の私室のバルコニーに辿り着くのですか。」
大きく息を吐いたエルンストさんに、さてな。と肩を竦めるユリウスさん
どうやらユリウスさんはかなりの方向音痴らしい
人は見掛けによらないなあ
「とりあえず、部屋に入りますか?」
いい加減空飛ぶ巨大な蜥蜴からの視線が痛い