十話
正直言って、期待半分だったのだ
魔国だし・・・食虫ならぬ食人植物とかだったらと思って、ガッカリはしないように身構えて
けれどグラニールが降ろしてくれたのは一面の綺麗な花畑だった
疑ってごめんなさいね・・・
「凄い量ね・・・とても綺麗だし同じ種類みたいだけど、こんなに綺麗に色分けされてるなんて誰かが手を加えているのね」
赤、青、緑に白に珍しいのは黒色なんてある
バラバラに咲いておらずそれぞれ色ごとに固まって咲いているこの花はバラの様な形だ
これほど綺麗に色分けしているのだから自然なはずがない
育てている方に話して株で分けてもらえないかなぁ・・・と考えているとグラニールが尻尾をピンとさせある方向に身体を向けて低い体勢になっているのに気がついた
「グラニール・・・?」
「そこなサラマンダーは陛下から名を与えられているのですか」
急に声がしたかと思うと花畑の奥の方から三つの頭を持つ獅子が近づいてきた
「え・・・ケルベロス・・・?」
地球では地獄の門の番人として有名だった魔物ではないか
「知って頂けているとは・・・陛下は勉強熱心な方と伺っておりましたが、真の様で御座いますな」
そう言って獅子の顔が笑みの形を作る
「あの・・・・・・?」
「花が急に咲いたのと、貴方の魔力を感じて来てみたのですよ陛下
エルンストの言っていた通り、あの強大な魔力の塊を受け入れた様ですな」
「・・・・・・・色々、聞きたい事があるのだけれど、一先ず、私を連れてきたエルンストさんはともかくとして、なんでユリウスさんといい、貴方といい、一目で私が魔王だってわかるんですか・・・」
「あぁ、そういう勉強はまだなのですね。
それは簡単なことなのです陛下。
我等6大貴族・・・まぁこれは三代前の魔王陛下が決めた呼び名で、本来ならば六大種族と言うべきなのでしょうね。さておき、我等6大貴族の、最も力ある六人より、更に強い者はこの魔国においてもこの世界においてもただ御一人のみだからで御座いますよ」
ユラリと尾を揺らし近くまで寄るケルベロス
その大きな体に驚く
始めに声を掛けてきた当初どうやら彼とはそれなりに距離が開いていたらしい
「申し遅れました。私は六大貴族当主、ラース・クリューガーと申します
御存じの通り、魔獣の中の獅子族、ケルベロスで御座います」
厳つい姿とは裏腹に丁寧な物腰にホッとする
「魔王の柚希です。よろしくお願いしますねラースさん」
「臣下に丁寧な言葉遣いをされる必要はございませんよ」
「いえ、エルンストさんやユリウスさんにも言われましたが、習慣みたいなものなので。」
「・・・・・まぁおいおい慣れて下さい」
呼び捨てに、やら、もっと砕けた言葉遣いで!というのは二週間ほどエルンストさん達と格闘したが、元々平の会社員。彼らが年上という事もあり当分今のままだ
「ほう、植物を求めて城を出てきたと」
「ラースさんがこの花畑の持ち主なら、数株分けて下さいませんか?」
「私はこの場によく来るだけで育てているわけではないのですよ。この花は八代前の美しいモノが好きだった魔王が品種改良を繰り返し生みだした花で、八代前の魔王が此処に一株植えて以来、勝手に育っているのです
それに、この魔国は貴方のもの。国に生きる全てのモノは貴方のモノ
仮に私が育てていたとしても関係ありません」
「えーーーと、まぁその話は置いておいて
こんな綺麗に色分けされているのに手が加えられていないなんて魔国の植物ってなんて不思議な」
「一月前にここを訪れた折には今の花の三分の一程度しか咲いていなかったし、色も分けられていなかったですよ
この花は魔力とその性質に反応して量を変え、色を変えるのです
おそらく、陛下がこの魔国にいらっしゃってから一気に量を増やし、色を変化させたのでしょう
花の量は魔王様の魔力量
色は魔王様の魔力の性質を表しているのです」
「えーーーーーーーーーーどれだけなの・・・」
「前魔王様より数倍の魔力量に、全性質をお持ちのようですね」
性質というのは、魔族が操る魔術の属性の事だ
グラニールなら火属性
エルンストさんなら水属性
ユリウスさんならば地属性という具合にそれぞれ異なる
全部って言うのは、規格外すぎる
人外は人外でも規格外すぎてクラっときた