序章
暗い世界
どろりとした水が足を包む
呑まれる
沈む
コレハナニ・・・・・・・・・・・・・!?
耳元で大きな音が聞こえた
暗い世界から出たくて必死にその大きな音に向けて手を伸ばした
「っ!」
がばりと身体を起こす
勢いをつけすぎたせいかクラリと眩暈に襲われたがすぐに目を見開いた
「夢・・・?」
掴んでいた大きな音の正体は目覚まし時計で、時刻は起床予定時刻の6時
余りに濃密でリアルな夢に冷や汗が背筋を伝ったのがわかった
呆然としていれば時間差で設定していた携帯のアラームが鳴り我に返って漸く起き上がる
夢程度で遅刻なんてしたものなら上司から嫌味が飛んで来るだろう
時間に余裕はあるが、早めの行動は社会人としての常識
夢のせいで眠った感が無いが、時間は待ってはくれない
何時もと同じように支度をして、パンを焼いてコーヒーを一杯丁寧に淹れる
社会人になって、朝のコーヒーは外せない
その日一日をしっかり乗り越えるための気合を入れる意味も込めて心をこめて丁寧に淹れる
コーヒーを飲み干す頃には朝の嫌な感じは既に何処かに消え去り何時も通りの出勤前の私だ
ガスの元栓を閉め、カバンを持ち玄関扉を開く
当たり前に通路へと足を踏み出した筈なのにそこに通路はなかった
いや、地面そのものがなかった
声にならない悲鳴が上がる
これは何!!何が起こっているの!!??
目の前に広がるのは何時もの部屋の前の通路やその先の街並みではなく夢と同じ濃密な闇
震える私の腕を何かが掴んだ
【ミツケタ】
そうして世界は黒く塗りつぶされた
早朝、日本のとある町で若い女性の失踪事件がニュースで流れた
女性は突然攫われたかのように、通路には片足分のパンプスと仕事用のカバンが残されていたという