光の神と月の女神
お菓子に浮かれていた私は、その後旅の大変さというものを思い知った。
真新しいブーツは足に合ってはいたが、長く歩き続けたために靴ずれができ足が痛む。
そうでなくても長く歩き続けた足はパンパンで鉛の棒のように重い。
暖かく春のような陽気だが夜は冷え、毛布に包まっても疲れとなれない野宿のこともあってあまり眠れない。
幸いなことに男の体のおかげか、それでもなんとか歩けている。
馬車でなら一日で着く距離を歩き始めて三日目。
本来ならもう次の街に着けているのだろうが、私のせいで今日も到着できなかった。
シャムスは私の足の状態をわかっているのだろう、急がなくてはいけないはずなのに急かしはしない。
だからといって負ぶったりと私を甘やかすことはない。
これぐらいで音を上げていてはこの先アルデバランには到底たどり着けない。ただ必死に足を進めていた。
野宿の為にシャムスが木の枝を集め、手を翳すだけであっという間に火が付く。
これも魔法。でも加護とは違うものなのだという。
手伝うことも、手伝えることもない私は隣で膝を抱えて座っているだけだ。
「ごめん、シャムス。私のせいで」
「何を謝ることがある?ラピスは十分頑張っているだろう」
「でもっ・・・!」
「いいから足をだせ」
このやり取りもすでに恒例になってきている。
しぶしぶ靴を脱いだ私の足にシャムスがすりつぶした薬草を塗る。
薬草を塗られた場所がじんわりと暖かくなり、痛みがすこし和らぐ。
魔法で痛みをとったり傷を治したり出来ないのかと尋ねたら、シャムスはその魔法の適正が低くて実用的とはいえないものらしい。
リヒトの加護で癒しの魔法がつかえるらしいので、私も少し覚えてみたらどうだとも言われた。
加護があっても適正があるので、どの程度使えるようになるかはわからないらしい。
ゲームのように・・・例えば神官ならLVを上げれば誰でも回復魔法が使えるようになるというものではないようだ。
「明日にはルトの街に着く。一日そこで情報収集がてら休息をとろう」
「ん。了解」
少し楽になったところで横になる。
シャムスも木に背を預け、剣を傍らに置き目を閉じる。
さすがにこの世界に来てから四日目。
ずっと一緒にいたのでさすがに慣れてきたとはいえ、シャムスが美人さんであることに変わりはなく。
目が覚めた時など、不用意に視界に入れると心臓に悪い。
人目に付きにくいように進む森の中で、木々の間からすっかり細くなった月が見えた。
モンドが言っていた朔まであと三日。
そういえばあれ以来モンドからの連絡(?)はない。
その影響か、モンドの加護で使えそうな魔法がないかと考えたのだが魔法が思い浮かばなかった。
落ち着いたら色々自分で調べてみるべきだろう。
色々と適正が高いはずなのに実際はまだ男になる魔法しか使っていないなんてもったいなさすぎる。
モンドの加護についてしっかり理解し、この魔法が高等どころか失われた秘術とまで言われるものだったと知るのはもうしばらく後の事。
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ふらつく足取りでルトの街に着いたのは次の日の太陽が真上に昇った頃になってからだった。
宿に入り、上着と外套を脱ぎぼふんと音を立ててベッドに倒れこむ。
たかが数日のことだがこのベッドの感触が懐かしい。
「ラピスは夕飯までここで休んでいてくれ。俺はちょっと街で情報収集と買い物に行ってくる」
「ふぁーい」
荷物を降ろすとシャムスは外套だけ外して告げた。
すでに睡魔に襲われてウトウトしていた私は枕に顔を埋めながら返事をする。
「ゆっくり休め」
優しい声とぱたんと扉が閉じる音が遠くで聞こえた。
気がつくと目の前にはシャムスと同じ柔らかそうなやはり美形の金髪の男性とその傍らに幼い女の子が立っていた。
するとトタトタと女の子が私に駆け寄り抱きつく。
「どうしてもあいたくて、おねがいしたの。あなたのところへつれていって、って」
幼いけれど、将来は間違いなく美人さんになると断言できる。
とてもきめ細かい白い肌に流れるような銀髪。
モンドの面影がみえるこの子はモンドの隠し子だろうか。
「これはモンド本人だ。力が弱まると・・・つまり朔が近づくとこのように幼い姿になってしまう」
こちらの考えたことがわかるのか、男性が少女をべりっと私から引き剥がし教えてくれた。
へえぇ、と感心してモンドを見る。
上目遣いでこちらを見つめるモンドはそれはとても可愛らしい。
「あぶないの!きけんがちかづいてるの!」
その可愛らしい顔が苦しそうに歪められる。その瞳には涙が浮かんでいる。
それを見ると、私も苦しくなってしまう。
ポンポン、と男性がモンドを落ち着かせるようにその頭を叩いた。
「大丈夫、彼女には私の加護もあるのだから。ただ私たちが直接出来ることは限られている。力の使い方を知って、自身でも気をつけて欲しい」
「はい・・・」
男性はにっこりと微笑み、モンドを抱き上げた。
私が返事をすると男性は満足そうに微笑み、二人から光が溢れ出す。
・・・この人がリヒト。私をここへ呼んだ存在。
次第に強くなる光に目を細める。
「もうっ!ルリになにかあったらリヒトのこときらいになるからねっ!」
「大丈夫だ。モンドが悲しむようなことがないよう俺が障害をすべて消し去ってやろう。国ごとでもな」
溢れる光が強くなりぎゅっと目を閉じる。
光が収まり目を開けると、そこは見覚えのある宿の部屋だった。
思ったより長く眠っていたらしく、窓からは夕日が差し込んでいる。
体には倦怠感が残る。それは間違いなく・・・
「あのバカップル神・・・」
モンドが幼児化しているのには驚いたが仕方のないことのようだし本人にもどうしようもないことなのだろう。
そんな状態で注意するように警告しにきてくれたのだろうからありがたいと思う。
それよりもリヒトの去り際のあの言葉。
モンドへの溺愛ぶりが伺えるその言葉を思い返すとなんともいえない疲労感に襲われるのだった。
月の設定については現実とは違う点が多々あります。
異世界ということでその辺はスルーしてくださいませ。
ちなみに朔以外は月は何かしらその姿が見える、という感じです。
新月も朔のあとの初めて月の見える夜、という本来の意味に近い形で使っています。
天候などの都合を除いて、月がない夜は朔だけという設定です。