自責と決意
今回はシャムス目線です。
side シャムス
ラピスをシャワールームへと送り出した俺は、小さく息をつく。
ここまでは順調。
ラピスが魔力酔いを起こしたのは想定外だったがたいした問題でもない。
あの目立つ服装は明日目立たないものを買い揃えれば問題ないだろう。
今のところ追っ手の姿は見えないが油断はできない。
ラピスだけでなく、俺もあの愚王に追われているのだから。
ふと部屋の隅の籠にタオルが置かれたままであることに気づく。
そこでラピスにタオルを渡し忘れたことに気づき、脱衣所も無いのでしかたなく直接タオルを渡そうと特に気にすることなくシャワールームの扉を少し開け声をかけた。
何故だか慌てた様子のラピスに外に出るように言われたために、タオルを持ったまま扉の外で壁に寄りかかりラピスを待つ。
しかしその直後に何かをぶつけたような音が中から聞こえた。
「ラピス、どうした!?」
慌てて声をかけるが返事は無い。
ラピス以外の人の気配もなく魔力も感じないので襲撃はないだろうと思っていた。
俺に気配も気づかれないほどの使い手の追っ手が来たということだってありうる。
舌打ちし、シャワールームに飛び込んだ。
目に入ったのは壁に頭を打ち付けてずるずると崩れ落ちるラピス。
やはりラピス以外の気配も魔力もなく、どうやら自分で頭をぶつけただけのようだった。
しかし今更になって気づく。
さっきまで魔力酔いであれだけぐったりしていたのだ。
また気分が悪くなったのかもしれない。
急いで手にしていたタオルでラピスを包み、抱き上げベッドへと運ぶ。
途中でも思ったことだが、ラピスは線が細いがその見た目以上に軽い。
こんな状態で無事アルデバランまでたどり着けるのかと心配になるが、彼を無事に送り届けることが自分の使命なのだと己を叱咤する。
とりあえずいつまでもタオルで包んだままでは風邪を引いてしまうだろうと、先ほどラピスに手渡した服を着せようと抱き起こす。
「・・・・・」
ちょうどそこで気がついたラピスと目が合った。
「気づいたか」
「う、きゅおおぉぉお!?」
ラピスは再び奇妙な悲鳴を上げ俺の手から逃れ、布団を頭からすっぽりと被り隠れてしまった。
なんなのだろう、この反応は。
「ラピス?」
少し訝しげに声をかければ、ラピスははっとした様子で布団から顔だけだしてこちらを見た。
「ごめん、その、あまり人に裸を見られるのは慣れていなくて」
「同性でもか?」
「あー、うん」
少し間があったように感じられるが、同性同士でも信仰する神の教えからあまり肌を見せ合わないようにするというという人々がいると聞いたこともある。
恐らくラピスもそういった類のものなのだろう。
そもそもラピスは異世界の人間だというのだから、俺が想像もつかないような習慣があっても不思議ではない。
「考慮が足りず、悪かった」
謝罪し、頭を下げれば慌てたようなラピスの声。
「違うんだ、シャムスは悪くない。むしろ私を助けてくれて感謝してる。・・・服着るから少し向こうを向いていてくれるかな」
こちらに身の乗り出すような姿勢になり再び布団から上半身がでてしまう形となったラピスは、がっくりと肩を落とし項垂れた。
今回は悲鳴は上げられなかったがなにやら落ち込んだような様子で、やはり俺に肌を見られたせいなのだろうなと思う。
次からはできるだけ気をつけるようにしよう。
「ごめん、もういいよ」
声をかけられ向き直れば、俺の服を着て申し訳なさそうにこちらを見て立っているラピス。
手足を折り曲げてなんとか動きやすくしているが、やはり服が大きすぎて服に着られている感が否めない。
それにしても男だというのに庇護欲がそそられるのは何故なのか。
一見女かと見紛う様な外見であるが、先ほど男だと痛感した。
ラピスのあの様子では見てしまったとは決して言えないが。
「色々あって疲れているだろう、今日はもう休んだほうがいい」
「・・・そうだね」
俺の言葉に頷くラピスの瞳に寂しそうな色が浮かぶ。
しかしその色もすぐに隠れ、ラピスはベッドに横になりすぐに寝息を立て始めた。
やはりかなり疲れていたようだ。無理もない。
ラピスは傷一つ無いきれいな体をしていた。手も剣など握ったことのない手だった。
それはつまり戦う必要のない場所にいたということ。
今まで命の危険を感じるようなことはない生活を送っていたのだろう。
俺も明日に備えて横になる。
警戒は怠るつもりはないが、休めるときに休む事は重要なのだ。
しばらくして、人の気配で目が覚めた。
起き上がることはせず視線だけで確認すると、月明かりの差し込む窓辺でラピスが月を見上げていた。
こちらに背中を向けているのでその表情はわからないが、きっとあの寂しそうな目をしているのだろう。
チクリ、と心が痛む。そんな表情をさせているのは俺やこの国なのだから。
この世界に召喚されてしまった原因は間違いなくこの国アルメイサンだ。
本来ならば俺やアル、そしてこの国の人間がやらねばならなかったこと。
しかしすでにこの世界の人間では手が打てないとリヒトが判断したからこそラピスが召喚されたのだ。
それが意味することを俺は知っている。
だからラピスにはとても申し訳ないと思うのだ。
そう遠くないうちにラピスはそのことに気づくだろう。
できる限りラピスの力になろう。
それがこの国の、俺の責任でもあるのだから。
しばらくしてラピスも落ち着いたのか、床に戻り再び眠りについたようだ。
それを確認してから俺もまた眠りについた。