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召喚された少女

そして今のこの状況に至る。


周りを見回してみても見覚えがない場所だ。

それどころかなんだか高そうなアンティーク調の家具が並んでいた。


あの突風に飛ばされて気を失ったところを通りかかった裕福な人にでも助けられたといったところだろうか。

落ち着かないし早めに家主にお礼をいって失礼しようかと思案していると、コンコンと控えめなノックの音がした。


「お目覚めですか?」


「あ、はいっ」


「では少々失礼してもよろしいですか?」


「もちろんですっ」


とっさのことで思わず声が上ずったがそれが仕方のないぐらいの美声だ。

慌てて佇まいを正して声の主が入ってくるのを待つ。


「ご気分はいかがですか?」


ゆっくりと静かに部屋に入ってきたのは、流れるような蒼の髪が印象的な青年だった。

しかしいわゆる美形と呼ばれる人種である青年は、白いローブという奇妙な服装だ。

そもそも髪が蒼という時点で奇妙すぎる。

いくら日本人の顔のつくりとはかけ離れた外人さんだからといって天然で蒼い髪というのは聞いたことがない。

これはちょっとオタクな友人が言っていたコスプレ趣味の残念な美形というやつだろうか。

それはさておき、助けてくれたことに間違いはないだろう。


「えっと、ちょっと痺れたような感覚はありますが大丈夫です。助けていただいてありがとうございます」


私がそう言うと、彼は髪と同じ蒼の瞳を細めて微笑んだ。

すべてを見透かされているような気分にさせる、そんな瞳だった。


「少しだけ失礼しますね」


彼はそう言って私の右手をとる。

かぁっと顔に熱が集まるのがわかった。

しかしそれも次の瞬間消えてなくなったのだが。


私の手に重ねた彼の手を中心に、淡い光が溢れた。

私はその光景をただ呆然と眺めるしかできなかった。


「いかがですか?」


そう言って彼が手を離して、やっと正気に引き戻された。

彼の言葉の意味が分からずに首を傾げれば、さっきまで動かすたびに感じた痺れが消えていた。


「・・・痺れが消えました」


「それはよかった」


「ありがとうございます」


未知の出来事に驚きを隠せずに、それでも不思議と怖いと感じることはなくお礼を伝える。

そして少しずつ、感じる違和感が大きくなっていく。


手から光が生まれて体の痺れが消える。

そんな治療方法を私は知らない。


チラチラと頭を過ぎるのは少々オタクな友人と付き合いで一緒にプレイしたゲーム。

剣や魔法が出てくるファンタジーものだ。


つぅと背中を冷たいものが伝う。


目の前の青年も残念な格好の美形な外人さんなどではなく、これが普通なのだとしたら?

残念なのは私の頭のほうではないだろうか。


「申し訳ありません。すべてはこちらが悪いのです」


そう言って青年は膝をつき、頭をさげた。

何だか嫌な予感しかしない。

ぎゅ、と手に力を入れて私は彼の言葉を待つ。


「すでにお気づきかもしれませんが、ここは貴方のいらした世界ではありません。いわゆる異世界という場所にあるアルメイサンという名の国です」


膝をつき、頭を下げたままの彼が苦しそうに告げる。

表情は見えないが、その言葉に嘘は感じられない。


「・・・・・」


そんなことすぐに信じられるわけもない。

でもそれが彼の狂言だと断言できないのも事実。


「あの、さっきの光は・・・」


「あれはリヒトの加護による治癒魔法です」


「魔法ですか・・・私のいた場所には魔法なんてありませんでした」


魔法なんて、私の暮らしていた世界にはなかった。

でも現にその魔法を目の当たりにして、その効果も実感してしまった。

あれは手の込んだ手品でこれがドッキリだといえないこともないが、そもそも私にこんな大掛かりなドッキリを仕掛けて誰にメリットがあるというのか。


「そうですか・・・この世界でも魔法が使える人間は少数です。それについては後ほどご説明しましょう」


「はい」


「それでは遅くなりましたが・・・。私はこの国の神官長を務めているアルファルドと申します。アルとお呼びください」


「私は葉山瑠璃といいます。瑠璃、が名前です。よろしくお願いします、アルさん」


慌てて名乗り、ベッドに座ったままだったがペコリと頭を下げる。

するとアルさんは少し困ったように笑う。


「私のことはアル、と。貴方は勇者様なのですから」


「は・・・?」


ユウシャ・・・?

今アルさんは勇者と言った気がしたがきっと聞き間違いだろう。

私が勇者だなんてありえない。


ちょっとオタクの友人に見せてもらった本にこんな設定の話のものがあったが、それはすべて作り物であり娯楽用。

実際に自分がその立場にならないから楽しめるのだ。

それでもあの友人なら自分の身に降りかかったとしても、小躍りして喜んだりするのだろうか。

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