はじまり
気がついた時にまず目に入ったのは見慣れない天井だった。
少し痺れが残る頭を振り、意識を覚醒させ現状を確認する。
少し体に痺れはあるが動けないほどではない。
服装は記憶にある通りの喪服代わりの制服。
「確か・・・お墓参りに行って・・・・・」
そう、私はお墓参りをしていたはずだった。
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物心ついた頃に両親が事故で他界してしまい、私と兄は母方の祖母に育てられた。
両親がいないことは寂しかったが、祖母の愛情に包まれて十分幸せな日々を送っていた。
しかしそんな些細な幸せも長くは続かなかった。
それは私が十歳になってすぐの事。
ある日、忽然と兄が消えた。
祖母が捜索願を出し、自身も必死で兄の行方を探していた。
しかし兄は見つからなかった。
行方不明になる直前の足取りさえもわからなかった。
もちろん私も探したが、やはり兄は見つからなかった。
それから色々とあった。
嬉しいことも、悲しいことも。
それらを全部、祖母と差さえあって生きてきた。
兄がいなくなって七年。
兄の失踪宣言が成立して正式に兄の死亡が認められた。
本当は生きていて欲しい。
でも今のままじゃ前に進めない。
兄を見つけることは諦めていないけれど、それをひとつの区切りとして受け入れた。
「これから新しいスタートだね」と言うと、祖母も少し悲しそうに微笑んだ。
その日の夜、静かに祖母は泣いていた。
それから数日後、祖母が倒れた。
今までずいぶん無理をしてきた祖母。その無理がたたったのだろう。
あっという間に祖母は両親の元へと旅立ってしまった。
「翡翠のこと諦めないでね」
最後にそうやさしく微笑んで。
祖母が旅立ってからはとにかく泣いて、泣きはらして、やっと落ち着いた頃にお墓参りに行く決心をした。
小高い海に面した丘にお墓はある。
季節は春。日差しが心地よい日だった。
きれいにお墓の手入れをして、ふぅと空を仰ぐ。
春とはいえお墓の手入れは重労働で、うっすらと汗が滲んでいた。
ざあぁっ
心地よい風が吹き抜けた。
海に面したこの場所は風の通り道になっている。
風がない穏やかな日でだったけれど、この場所は例外なのだ。
ふと違和感を感じて視線をあげると、太陽がその輝きを増したように見えた。
そして次の瞬間、ありえない突風に襲われた。
地面から足が離れる浮遊感。
白く霞む視界。
ずきずきと激しく頭が痛む。
わけがわからなくて、痛みで思考も麻痺してきて。
ふと人の声が聞こえた気がしたけれど、その言葉を理解することもできなかった。
理解しようという気すら起こらないほど思考は麻痺していた。