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風の中から夢の中へ  作者: 椎名未来
第一章 裁かれるもの
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第一章 裁かれるもの 七




 ヘリの風を切るローター音は、このファンのむこう側、つまり狙撃の相手側のほうから聞徐々にこえてきた。しかしビル上空は完全に封鎖されていたはずなのにどうやってって、

「色々意味不明なこといって逃げる気かよ……」

 そう無線に呟いたけれども返事なし。

 しかし、この近距離まで接近しないと気づかないっていうことは。単機?

 おそらく消音ヘリか。輸送用、いや、ジェットのほうか。ファンの周りには暑い空気が停滞しているけど、そのヘリの接近でどんどん向こうから冷気が流れ込んでくる。

 さすがに消音と入っても数百メートルの範囲に近づかれればその存在感は直ぐに知れる。

 いよいよこの近距離になってヘリの出す下降気流、ダウンウォッシュと風きり音がかすかに聞こえ、バタバタとほこりやらなんやらが飛んできた。ファンの影になって見えないが狙撃手ぐらいはいるだろう。

「武藤さん、そっちのSITの狙撃は無理なんですか!」

 とりあえず無線に叫んでみるが、……まぁ、無理だから今にあーやって飛んでるんだろうけど。

『……わかって聞いてくるのならおめーが落として見せろよ』

 はいはい……。しかし、なぜここで逃げなんだろうか。明らかにすでに僕を殺せるところまで来ていると言うのに、やらない。

 理由は?

 他の狙撃の仲間を見捨ててまで。

 和美ちゃんを回収にきたのは共犯だとしてもこんなあっさり見捨てるだろうか……。

「いや、違うか」

 僕は脇につるしておいた麻酔銃をファンの横から銃身だけをそっとだす。

「…………」

 何もない。よし、やっぱりか。

 僕は少し顔だして、ヘリを確認。僕のほうから北東にヘリが音もなく、建設途中のビル屋上に浮いている。ヘリの周りは電線が張り巡らされていて、さらに警戒してるのか、サイドのスライドドアからガトリング装備の男が見える。

「なるほどありゃ無理だ」

 なんとも納得しながら、そろそろ日没という太陽を目の前にして、僕はファンのかげからでようとしたとき。

 ヘリが急に方向転換。少し左に迂回しながら何の躊躇もなく僕のいる屋上まで一瞬で来た。気がつけばヘリが目の前で対空して、どっかの傭兵よろしく黒迷彩仕様の男が備え付けなのか、ガトリングを僕に標準を定めていた。

 完全ホールドアップ。

「……ていうか海軍ですか」

 くだらないことを考えながらヘリの機種確認。

 ヘリのダウンウォッシュを髪にうけて翻るワイシャツを気にしながらそのヘリの全容を叩きこむ。最新式のジョットヘリ、確かまだ実用段階に至ってないはずの『南』のイギリス軍が採用しているシーホークというヘリ。

 無音の風の中、ヘリは何をするでのなくただそこにいるだけで、僕はまた静かに無線を取り出して、言う。

「ここならどうにかならないすかね。武藤さん」

『めんどくせぇからいわねぇ。とりあえず投降指示でも言ってみろ』

 それだったら別のヘリ部隊でもよこして追いかけっこしてくれ、とげんなりしたけど一応仕事はしてみようか。というか航空支援が遅延しているのは一帯を封鎖しているから?

 それを狙ってか……。

「おーい! そこのヘリの方々! 今なら投降してくれれば司法取引で見逃してあげることはできるよー。どうかなー」

 ……不毛だ。かなり不毛だ。命狙われながら犯人説得なんて意味ないだろうが武藤さん。

 しかし艦載機っていうことは東京湾か三浦半島沖辺りに船がいやがるな……。

 海自に連絡を入れたいところだけど、確かほとんど南部海域へ出張ってる筈だから、海上保安庁か。期待できねぇ。

 と、急にヘリからワイヤーロープが降りてきて一人の青年がするするとSWAT顔負けの身のこなしで屋上に着地。和美ちゃんに近づくと、僕の上着を取り、よくよくみればなんともいろんな武器で武装している、陸戦用スーツをきらめかせながら僕のほうに悠然と歩いてきて、僕目の前で立ち止まり、スーツの上着を差し出した。

「なかなか楽しめたよ。僕達はこれでさようならする」

 栗色の白人少年だけど目はゴーグルで隠れて見えない。僕はなんでもなく上着を受け取ると、

「君、『南』の子だね? もう一度聞くけどなんでこんなことするんだ? テロをするならここにいる僕たち全員を殺してそこの和美ちゃんのあとを引き継いで実行するのが定石だろ?」

 ヘリに三……四人。こっちは手持ちの麻酔銃に……、いや、反撃は無理か。狙撃チームに頼るしか……。

 狙撃は今狙ってるのか……。それとも僕が障害になって撃てないのか。

 栗色の髪の少年は僕の言葉にすこし嫌そうに笑い、

「驚いたね。やっぱりプロ同士はこうじゃなくちゃね。色々質問があるみたいだけど、あいにく時間がない」

 そういって左腕の腕時計を確認して、今度はいよいよ去るらしく僕から離れて和美ちゃんを抱きあげる。

「『彼女達との約束はこれで終わり』だ。いい加減全員で行動しないといけないんでね。あとは説明をうけてくれ」

 なんだかわからない台詞を残して彼は和美ちゃんをかかえたまま、ワイヤーのウィンチで引き上げられながらそのままヘリに戻り、ヘリがいよいよ屋上から離れる。

「狙撃、観測全チーム! 撃てるやつは撃て! 撃て撃て撃てっ!」

 僕は無線にそう叫ぶが誰からの支援もない。 なんだ?どういういことだ。

 僕はそのまま手すりに走りよって去っていくヘリのローターを麻酔銃で狙うが、

「くそ!」

『そこは三班だけが視認できるが反撃される可能性がある、無理だ』

 武藤さんの声を聞きながら、僕は去って、夕日に照らされ、途中で消えるようにいくジェットヘリを見送る。

「さっきのイギリスの最新式のシーホークですよ。どこかの湾岸に艦載機の船があるはずです」

『わかってるよ。今警察庁と連絡とって早川に探させてるよ』

 すかっ、といって僕は手すりから離れる。


 なんだかおかしい。


 あっさりしすぎている。


 なぜ僕たちを殺さなかったのか? 顔を見られたんだったら、いや、違う。彼は説明を受けろとかなんとか。


 そうだ。武藤さんの敵は約四百メートルに、それに、


 銃弾が先。音が後。


 と、一瞬、左足がガクンっと落ちた。


 なにがおきたかわからなく、膝をついた左足太ももをみると、撃たれた銃創があり、血がじんわりとスラックスに滲んで、


「くっそったれ!」

 痛みのあまりその場に僕は思いっきり転がりながら仰向けに倒れた。少しでも狙撃を避けるために。

 そしてターンっという銃声。

「やっぱり、いたんじゃないか、よ、くそっ……」

 計算狂いどころか、全員が騙された。


 距離四百からの狙撃じゃ銃声と音はほぼ同時のはずだ。


 音が後からくるならば弾丸が音速を超える前提が必要。ならば、最低一キロ以上離れていなければ銃声は遅れて聞こえない。


 和美ちゃん自体が複線。ミスリード。

「武藤さん! どこからですか!こっちのフォローは!」

『こちら観測三班、狙撃はここから二キロ以上離れた同程度の位置から発射された模様』

『宮崎よ! もう一機ヘリが高速接近中! 早くそこから離れて!』

 後ろに伏兵。初歩じゃないか。どうにもならない。この状態で屋上入り口まで行けそうにないし、そもそも『彼が僕たちを見逃したのは僕たちを全員殺すため』だ。起き上がったとたんに撃たれる。


 彼はフェイクだった。撃っていたのはもっと後ろの長距離のとこからの、

「こいつらね……」

 僕の足元の方向にさっきと同じ消音のシーホークが滞空していた。しかし今度は長い黒髪を持った、ワンピースにキャミソールの私服姿のどこにでもいそうな少女がごつい狙撃銃を僕に狙点をヘリのサイドから定めていた。ていうか、くそ、いって……。

「あなたが、和美をやったのね?」





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