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風の中から夢の中へ  作者: 椎名未来
第一章 裁かれるもの
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第一章 裁かれるもの 四





 ビリッジビルから約四百メートルはなれた同じ港区内の高層ビル。四十五階と階数は少ないものの、建て増しをしている分、高さはほぼ同じだった。

 その屋上に件のビルをライフルのスコープで見守る人影が一人とその横で双眼鏡で見ているのが一人。

 二人ともうつぶせになって微動にしない。

「クリスト。退路の確保は?」

 スコープをのぞいている少女が横の栗色の髪を持つ白人の少年に声を掛ける。少年も同じく双眼鏡で観察したまま、

「大丈夫さ。買収した仲間がジェットヘリで来る手はずになっているよ。もっともうち落とされなければ、の話だけどね」

 そういって少し微笑する少年の顔を少女が一瞬だけ盗み見て顔をしかめる。

「あなたの速い仕事には感謝するけど、もっと仲間は大切にすべきね」

 すこし声を荒げるように言うが、少年はふん、と鼻で笑い、

「仲間……ねぇ。この場合、いったいなにが仲間で何が仲間じゃないかていうところから始めなくちゃならないけどさ。『レアノア』である僕らに他に仲間はない」

 自分の意思を断言するような発言に少年も、少女もお互いビリッジビル屋上を監視しながら黙る。少女が持っているライフル――VSR10の改造銃――は最大射程が約一〇〇〇メートルと巨大だがそれをあてるだけの技量を少女はもっていた。少女は今にも引き金に手をかけて、屋上に入ってきたものをすぐにでも撃ち殺す構え。

「『レアノア』はこんな目的のためにつくったんじゃないわ。南北の友好関係の狙いが本来の目的だったじゃない」

 少女の悲しげな英語の独白に、少年はなにも答えず、ただ双眼鏡でビル内を観察しているだけだった。

 ふいに少女のワイヤレスイヤホンマイクにピピっと通信受信の通知音。

『優衣、面白いのがきたわ。とりあえずいれるから、フォローよろしく。でも最悪の場合になっても手をだしちゃダメ。そっちは逃げてね』

「……わかった」

 少女は強くグリップを握る。





「これで八十三個め……っと」

 僕はそう一人で呟いて非常階段に仕掛けられていたパイナップル(手榴弾)のブービートラップを解除するとまた登って行く。先にこのビルに機動隊は五回の侵入を試みたが全て失敗。それも各フロアに仲間がひそんでいるのではないかと考えて階段からいったのだが二重三重に張り巡らされたトラップに大人数ではひっかかるの当然だった。というわけで。

「非常階段ってのは意外に安易だったけど……、大当たりだったなぁ……」

 ビル内に作られている非常階段ならそんなデカイトラップは仕掛けられない。通常の階段ならまだしも非常階段は「エレベータと階段に隣接しているため」そこふっとばせば自分の逃げ道もなくなるというわけ。

「……でもこの仕掛け具合からしてまるで逃げ道なんてなくてもいいような感じだな」

 たいてい、こういった場合の犯人は自殺っていうのが考えられるけど……。

「女子高生相手じゃ、あんまりだなぁ。ま、そこは僕の腕次第ってことで」

 そんなくだらないことを考えているとあっさり最上階の五三階に到着。ここから通常階段から屋上にでなければならない。

 僕は一応用心しながらドアをあけフロアにでる。確かこのフロアは社長室と秘書室、会議室くらいしかないはずだからざって見渡すだけでフロア内を確認できた。ふむ。まぁだれもいないが、問題は……。

「これだよなぁ……」

 通常階段の前には厚さ三十センチはある防火扉が降りてしまっている。僕の専門は人間であって電子系はまったくの門外漢だ。ここに早川さんでもいたら目をランランと輝かせながらこの扉を数秒もたたずに文字通り「バラバラ」にしてしまうだろう。

「なんていったら殺されるな……」

 ふぅっと僕は防火扉のよこの壁に背を預けた。単純トラップなら訓練でのスキルで切り抜けられたがこういう融通の利かないものはどうにもなぁ。

「しかし……」

 僕は目の前の廊下、数十メートル先のドアの上にある「社長室」というプレートを見る。どうしてトップに立つ人というものは一番上、という場所に自分のオフィスをつくるのだろうか。日本人ならいざ知らず、アメリカ人だってフランス人だってそうだ。べつに受付の横の守衛室の横の部屋に作ったって、営業課の隣りに作ったって社長の業務には支障はないはずなのに。これなら今起こってるようなテロが起こったとき、在室時間さえわかれば外から狙い打ち放題だ。と、

 僕の横の防火扉が勝手にゆっくりキシキシと音を立てながら上がり始めた。僕はくだらない益体事を考えるのをやめてそれをみるとガコンっと完全に上に上がり、屋上への階段が姿を現した。

「……自分でやりましたっていったら武藤さんも少しは大人しくなってくれるかな」

 そういいながら、このフロアに出てからずっと僕監視してた監視カメラに手を振り、階段を登って屋上の扉を開けた。

「こんにちわ」

 高い、女子特有のソプラノが数メートル離れているというのに僕の耳まで聞こえてきた。長谷川和美は相変わらずこちらに背をむけたまま、

「とりあえず隣りにすわりませんか?」

 自分が座っている落下防止用の「フェンスの上」の隣りを示した。







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