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風の中から夢の中へ


「お兄様はいつもそうやってはぐらかします! そうではなくてもっとご自信の、」

「いいから。もう。そういうことはわかってやってるんだから」

 海辺に近い住宅街。またぞろ例のテロだのがでたそうでそこへ行く途中。うるさい妹がまたがなり始めた。ついてくるなといってもついてくるだろうし、拘束しても空から来るだろうしどうしようもない。まあ、どうしようもない事に力はつかわねーのが一番だ。まったく。

 どうしようもないなら、放って置くしかないじゃないか。それこそどうすればいいんだ。

「私はもう少し……私の心配もして欲しいということです」

 何言ってるんだこいつは?

「なんでお前の心配をしなくちゃいけないわけ?」

「――、どうでもいいことです! お兄様には関係のないことです」

 そう言って恥かしそうに横を向く。

「……はぁ?」

 時々こいつの言うことが理解できないことがある。言っている理屈と、感じている感情が違っているかのようで、口から出ることはまったく真逆だったり正方向だったりするからだ。

 だけどこの事件以来こいつの言動はますますおかしくなっているように感じられた。そもそもあれらと同類なんだからそれは当然であるとしても、そもそも俺はこいつのことなんて一から十まで興味はこれっぽちもない。

 というのに興味を持たなければならないというパラドックスに行き会っているわけで……さてどうしよう?

 とにかく、情緒不安定な身内はほうっておいて目的地まで歩いていく。

 黒い学ランの上に長いコートを着て、左腰の剣帯には日本刀を一本吊ってある。銃を持てとうるさい妹はじゃあ、お前が使えと言ったらあっさり持ちやがった。意味が分からない。

 夏が過ぎてすでに残暑になろうとしているこの海辺の町も、ようやくそれらしい衣替えをし始めようとしていた。風習で玄関先に笹の葉を飾るこの土地特有の習慣はいつみてもやっと夏が来たな、と思わせてくれるものだ。

 そぞろ歩きながら俺が考えることはいろいろあるが、これからあっちに出向いてどう対応するかだ。元々後ろのお荷物は置いてくる手はずだったので全力ダッシュでにげるか強引に縄で縛り上げて放置するか。

「お兄様はその、部長のことをどう思っているんですか?」

 明日はわが身であることもしらない愚昧がいきなり話しかけてきた。首を回してみてみるとハンドバッグに薄い白のワンピース、その上になんかTシャツを重ね着している。ファッションにはよくわからんがそれでサンダルは動きづらいだろうよ……。

 別に返答することもないんだけどまぁ暇つぶしにしてやってもいいだろう。

「部長? 部長、あああの人。あー、別に?」

「別に……って、どういうことですか!」

 怒鳴るなよ。

「別には別にだよ。別にどうもこうも考えてもいないし別に思慮することも別に思案することもねーってことだよオッケー?」

「ノー!」

 あーうざいうざい。その辺で轢かれて死んでくれないだろうか。もっとも轢かれた程度死んだから逆にビックリなのだが。こいつにも記憶や感情というものを知っているとしたら、それはそれでおもしろいことだろう。

「私達、特に私! 私です! 私、あ、いえ、部長さんのことはどうお考えですか別に以外で」

 妙に食い下がるやつである。いつもならこのへんで黙り込むのに。

「あー、えーと、部長さんには頑張ってもらいたいよ。俺のためにも赤井とかあのアホのためとか。いつぞやぽん、とでてきてお兄様だののたまってるお前よりは使える人だからな。別に俺達の側から言っていることじゃない。お前達の側から見ていっていることだ。長く見ても俺達とお前達は仲良くしていかなくちゃならねぇ。そのためにはあの人みたいな人物とか、もっと求心力があるようなすげぇ人が必要だろう。もっとも、そんな人が現れているんだったら俺がこうして動いているはずも無いんだがな」

「ふむ……そうですか、そーですか」

 なぜか凄くがっかりした口調でつぶやく。

「じゃぁ爆破の中心地にいたあの方のような人ですか?」

「いやー、あいつみたいのじゃないさ。もっと頭使ってるようなやつ。戦闘に特化して一騎当千みたいんじゃなくて頭脳で一騎当千みたいなのがこの事件に必要なんだろうよ。あっち側もこっち側もそれで躍起になってるんだ。そもそも山崎のやつとかほら、わけもわからんうちに恋人? とかになりやがってからに。あれで面倒なことになったんだよ」

「面倒、じゃないと思いますけど」

「楽天ではあるがな」

 ふっと俺が一息をつく。

「まぁ上の首都あたりでいえば天才とかそういうっぽいのがいいわけ」

「具体的に?」

「――神、みたいなやつ」

 夢想することがよくある。こいつらと付き合っていくと俺まで毒されていくんじゃないかと。寝るときにまさか夢ん中まででてくるんじゃないかと結構ビビっていたりする。殺人思考だのテロだの破壊衝動だのそんなものは全て妄想と創造のものだと俺は思う。つまりあいつら、いやこいつもそんくだらねぇものにただ惑わされているだけ。なんの不思議はない。

 俺に斬られるか。誰かに撃たれて死ぬかただそんな風の前のクズに等しい存在。

 存在だけいうならこいつらはそういうものから妄想に逃げ込んでいるんじゃないかと思う。

 そんなこと。知ったことじゃないが。

 夢の中にまで逃げ込めるなら人類はこんな徒歩での移動なんかしなくていいほど科学は発展してるだろう。自分の立ち位置が把握も出来ねー上で破壊思考へと逃げ込む。とんでもイカレ組みだ。

「それでお兄様、お仕事の内容ですが」

「なーんでお前が仕事内容しってんの?」

「それは部長さんとあの外人さんから言われたからです。お兄様はちゃんと私が見張ってないとお仕事しませんからね」

 立ち止まって振り返ると腰に手を当ててしたり顔で俺を見つめてくる。腰まで届く漆黒の髪はツインテールに纏まって風に揺れてる。

 あー超斬りてぇ。マジ斬りてぇ。

「あー……まあ、そうだけどな。とりあえずお前は何もすんなよ。一切なにもすんな? 分かったか?」

「分かりました!」

 分かってないな。

「それで目標はちゃんとわかってますか?」

「んあ? あーなんだっけ、マッケンジー? なんとか大臣ってクソ長い名前のイギリスのおっさん」

「ダメですねー全然ダメダメですねお兄様。やっぱり私が着いていなくちゃ。アルヴィン・マッケンジー英国外務・英連邦省アジア国連担当閣外大臣ですよ」

 なにそれ肩書き超なげぇ。覚えられるわけねーだろそんなRPGのラスボスみたいなもん。ただはっきりいうのが面倒くさかっただけだ。

「あー、そんな名前だったか。つか、お前目標の素性知っちゃまずいだろ……。もういいけどさ」

「それですでに許可は降りているんですよね」

「当たり前だろー。夏期講習だってのに本庁から召集掛けられてこれから東京とかマジ笑えねーっつの。イギリスのお偉いさんもすでに許可だして、暗殺の準備のバックアップ万全だとさ」

 駒として使われるのはあんまりいい気分じゃない。命令されて斬るだけ。こいつらと同じようで嫌な気分だ。

 残暑の照りつける道路を永遠と二人で歩いていく。あと少しで駅のはずだ。

「それでそのお役人さんは何か悪いことでもしたのでしょうか? 日本とイギリスとアメリカとえーとあとどこでしたっけ? とにかく殺されるような恨みとか」

「お前が殺される恨みなんて言ったら俺はどうなるんよ。さーな。危険思想だのよくわからん政治の思惑じゃねーの。火曜の夜九時にやってそうな」

「お兄様は仕事熱心ですねー」

「まぁ俺が斬って終わり。いいか、お前は、何もすんじゃねーぞ? 何度も言うがその場で一緒に斬っちまうからな?」

「はい! 私はお兄様の殺害を全力でお手伝いします」

 はっ、と笑いが漏れる。

「お前、本当に歪んでるよ」

「お兄様がそう言うのならそうなのでしょう」

 二人は風に吹かれながら海沿いを太陽に照らされながら歩き続ける。




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