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風の中から夢の中へ  作者: 椎名未来
第一章 裁かれるもの
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第一章 裁かれるもの 一

 


 僕達が会ったのは偶然だった。

 でも必然だったことは皆がわかっている。きっとどうしたってこうなったのだから。

 そんなどうでもいいことが、偶然に偶然を重なって、そして、絆を作っていったのだろうと思う。

 僕達はどうしてで「あった」のだろう。


 出会ってよかった。

 でも




 出会ってしまった。





「ねぇ、カズミはどうしたの?」

 僕がぼんやりと海をみていたら向かいの席に座っているシルフィーに声を掛けられたので目を移した。彼女は南欧に特有の金髪碧眼で、その整った顔を心配そうな表情にくずして目の前のアイスココアを啜っていた。

「さぁ。僕もよくわからないよ。最近はよく一人でパソコンにかじりついていたからさ。今日も三号館のトレーニング実習室じゃない」

 僕は興味なさそうにそういうとまた海に目を戻した。僕はこの協力ができているというのにお互いの腹をさぐりあうようなこの行為が嫌いだった。そしてこんなことぐらいしかいえない僕自体嫌いだった。もう少しいい方って言うものがあるのだろうが、いつもつき離してしまうような言い方になる。

「……じゃぁ、トモユキのステディは?」

 茶化していないようのがわかるよう、声はそのまま悲しげだった。僕は少し眉を潜めるだけで何も答えない。

 やっぱりこういうふうにみられるのはいい気分じゃない。確かに回り公認の中だって言うことは僕だってわかってるけど、僕は十五歳なりに十五歳の意地、というか反発心がある。

 しばらくして溜息をついてシルフィーに向かって、

「ユイはまた海洋研究の実地調査に同行していったとおもうよ。ウェルズリー諸島で日本の海軍の残骸がみつかったとかさ」

「あ、ニュースでやってたの?」

 うん、と僕が生返事をしてオレンジジュースを啜った。


 半年前の日本の自衛隊海外派遣にともなって僕はこのリッチモンド州立大学付属高校(正確には中学校と高校をあわせたようなものだけど)に編入してきた。

 お父さんは始めての海外派遣で、そのほかの友達のお父さんとかも一緒に派遣される、大規模なものだった。だから始めは渋っていたお父さんだったけど僕とお母さんを連れてこのオーストラリアまできた。

 学校はなれなかった。日本大使館にある日本学校にかよってたけど、慣れしまうと外人と同じ教室で授業をうけきゃならなくなった。そんな僕を、いや、僕達、をしきりにかまってくれたのがシルフィーとクニック、ジュディ、クリストの四人だった。僕達は自然とまた四人だったのでいつしか八人でいつも行動するようになった。

 なんでもない中学生、なんでもない十五歳の生活、ちょっと違う生活だった。


 はずだった。


 二〇〇五年一〇月一七日、早朝。物凄い霧の中、イギリス軍の海軍が警戒していると、何かが甲板に当たる音がした。その兵士はそちらを見ると同時にさらにヘルメットに何か当たり、その反動で持っていた小銃の引き金引いてしまった。

 戦いはすぐに紙を燃やす火の様に広がり、イギリス軍、日本海上自衛隊、オーストラリア自治州クインズランド方面大隊の三すくみで交戦。結果三者とも甚大な被害がでた。自衛隊はイージス艦十隻は沈み、戦死者は三一人と戦後初めて争いでの戦死者。


 同時に僕達日本人の四人の父親もその中に含まれていた。


 僕達は落ち込み、なぜこんなことになったのだと大人達になんども怒り、悲しんで、そして疲れた。

 結果は引き金を引いた兵士に水鳥が植物の種を偶然落としてそれが原因だったとされた。


 くだらない理由だった。だから僕達は疲れた。

 そしてそれ以上に僕達八人は結束した。いつも以上にどうしたらこの戦争がはじまるかもしれない状況を変えられるか話あっていた。

 自分達のような人達を出さないために。

 自分達を救うために。

 この状況を変えるためには「誰かが」、必要だった。そう、皆そうだっただけだ。

 いつだったか、クリストが面白そうにいった。

「僕達はレアノアのようだな」

 よくわらなけどどうやら「集まり」って意味らしかった。そのときからしきりに八人の間でレアノアという言葉を使うになった。


「ユイもあんなに真剣にならなくてもいいのに。どうせ僕達だけの力じゃ、解決しないさ」

 シルフィーはふんっとはなを鳴らして僕に指を指して、

「あなた彼女、好きなんでしょ。だったら一緒にいくべきだわ」

 僕はそんな気はない、と両手をあげていらひらさせるとシルフィーはまた陰鬱な表情に戻る。確かに好きさ。ああ、大好きさ。でもユイみたく僕は真剣になれないのも真実だった。

 だって利用しているだけじゃないか。

 これが恋だというなら……

「これって本当に好きって言うのかな」

「え?」

 僕の日本語の独白にシルフィーが首を傾げる。僕は少し、唇を上げて、

「俺たちはレアノアだもんな。互いを心配しないわけないだろ」

 そういうとお互い少し笑う。海沿いのこのカフェテラスに強い太陽の光が入ってきて、シルフィーの影を薄くする。

「それでシル、お前はなにしてんだ?」

「サボり、中」

 そう意地悪そうに微笑んできた。

 僕達はいつまでこうしていられるのだろう。


 そして優衣と和美の二人が日本に行方を眩ましたのが半年後だった。


 オーストラリアその他の地域がイギリスから独立を宣言したのがあれから一年半後だった。


 渡航は制限され、緊急事態宣言が本国から発令された。


 僕達は同じ地上にいて分断された。


 

 

 日本へいけたのは随分後になってからのことだ。



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