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風の中から夢の中へ  作者: 椎名未来
第二章 救われるもの
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第二章 救われるもの 三




 このビルは総務省との合同で使用されている官庁で、半棟が警察庁が使っているが。

「まずいな、武器保管庫は各階にあるな!」

 俺が叫ぶと最近の新入りがあたふた(本当にしてるんだから少しわらっちまうが)しながらパソコンの操作をして、

「あ、は、はい、五階ごとの西隅の資料保管庫と名前は変えられてますがその部屋に。しかし各局長の指示と鍵が、」

「アホかお前は!」

 イライラして俺が叫ぶ。

 八階廊下でおそらく刑事局のヤツラだろう、そいつらをいとも簡単にあしらってなぎ倒す少年。武器はなにか使っているようだが、まったく見えない早すぎる。

「全員殺されるぞ」

 これから来る事実そのまま言うとオフィスがシンとなる。それで改めて見渡すが課員は二十三名、事件の翌日で日中ともあって警察庁のほぼ全員が出払っている状況。

 だから、だからきたのかこいつは。

「おい、それで? どうするよ?」

 向かいのデスクでなんの緊張のかけらもクズもないような雰囲気でコーヒーすすってる御崎をちらりと見て、

「まず、相手の得物確認。御崎そいつ何使ってるかわかるか?」

 めんどくさそーに、というかこいつは本当に緊張感っつーもんがねぇな、監視カメラの映像をループして、

「おそらく、いや、ほぼ、ナイフ」

「正解」

 ビデオを見る限りじゃ、様々な体術をつかって相手をあしらって見えるが、中、長距離になると走って、腰や首、袖に手を回す仕草をときおり見せる。ということは、

「いいか、こいつは確かに体術には長けてはいるが、そんなの警察学校の格闘技教導程度だ」

 それって何かのフォローか? という声が聞こえてくるがとりあえず無視。体術レヴェルでのかなりの上をいくのに。

「これいつはそれを補助程度にしかつかっていない。格闘技にはそれぞれ弱点っていうもんがあるが、それをいろんな格闘技扱って相互に補っている。だからこいつは格闘専門じゃない」

「でもよー」

 また眠そうな横槍の声が入る。御崎はまだループしている動画を見ていう。

「格闘技っていうのはその弱点を補うワザもあるから格闘の技なんだろ? こいつはなんでいろんなの使ってるわけ?」

 なんだかもっともなことをいわれたので少し拍子抜けっぽい顔をしていると睨んでくるので部下共に顔を背けていう。

「何かの理由があるんだろうよ。とにかくこいつはナイフから格闘に入った、それで十分」

 オフィスは縦に長く、横に短い長方形型で部屋に仕切られ、居残り組みの俺たちは中央の開放演算室にいる。縦に机が十五に横に八とそれでもでかいが。

「南の傍受組み、A、Bチームは警視庁もろもろ敵さんの腹探れ。Cはこのまま監視。木村は組みは警視庁、自衛隊に即連絡、つってもつかえないだろうからICPの衛星中継でクラックしろ。あとは全員俺とドンパチだ」

 アイサー、アイアイ、わかりました、とかいいながらさっさと動くところはまぁ、やはりあっちもこっちもプロってことか。

「接近戦になったら先頭は御崎と俺が出る。あとは全員ひっこめ」

 そういうとげんなりしたように、というか本当に干物のように御崎がえー、といって、ポケットからタバコを取り出し口にくわえながら立ち上がる。

「わかりましたよ課長さん。でも俺はやらねぇけど。ほらさっさといくぞ野郎共」

 そういうと周りをひきつれて出口に向かう課長補佐様。

 その時。


 ドアが、ノックされた。


 全員がその場で立ち止まる。ノーパソの配線の替えをやってたやつも、オゾン式の三十のラビリの無線機をもったまま固まるヤツも。

 全員が固まった。

 俺が目だけを動かして出口付近にいるやつをハンドサインで退かす。

「だれかあれからあいつの動向を見ていたやつは?」

 誰も答えない。横の御崎をみると肩をすくめてやれやれと不精ひげをさわりながら気取った風にタバコをふかしてるだけ。

「誰もいないか?」


 ドアのノックがまたする。


 最短距離でもこの二十五階までは五十分はかかるとうのに。

「壁でもすけてとおりぬけられるんじゃねぇの?」

 気の抜ける御崎の台詞に、いい加減スプリンクラーでもまわって水でもふってくんねぇかなぁなんて考えてると、


「失礼しまーす」


 まるでどっかのガキが職員室に入るときにいうような適当な声がしてオフィスのスモークガラスのスライド式扉が開く。

 Tシャツに半ズボン、サンダルに首に引っ掛けたアウトドア帽子。後ろのリュックはでかいようで軽そうにみえる。

 そして長身の、少年。

 少年は固まっている俺たちをきょろきょろ左右みながら出口から七メートル三十四センチほど進んだところでピタリと仁王立ちでとまり、

「えーと、この前うちの友達集団の彩夏がお世話になった、梶原怜次さん? のお友達の高木慶一情報解析課課長さんは誰ですか?」

 ガキ特有のなってない、社会にでたことねぇような、敵な言い方で聞いてきた。俺は少し少年のしたからうえまで見て、袖は無理、リュックか腰に仕込み、と踏んでからいう。

「俺だが。こんなところまでなにいってんだ? 友達集団って何の話だ?」

 そして俺のほうに目をむけ、その長身をゆするように腕を折って頭を掻く。目線が同じ位置なのでなんだが不思議気分。

「ああ、そうでしたね。こちらではレアノアっていってるんでしょうけど。それの和美、彩夏、クリストがお世話になったはずで」

 ……クリスト? 前の二人の名前は聞いたことはあるけど。報告にあったフェイクの男のほうか?

「レアノア、ね。それで? ここに来た理由はなんだ? 俺とやり合うためか?」

 少年はそれを聞いて不思議そうに俺の靴をみてから肩をみて、そして上げていた腕を降ろす。

「いや。それもおもしろうそうだけどやめておきます。あなた、外見に似合わずかなりお強そうなので。横のタバコの方も」

 御崎がどうも、と相変わらず気の抜けたコーラみたいな返事を返す。

「用件は簡単ですよ。俺はあいつらを止めにきました。あんまりこういうのは好きじゃないんですよ」

 じゃぁなんで警備員全員ボコってんだ……、という空気がオフィス全体を包む。

「それで彩夏の狙撃のせいで動けなくなった梶原さんの代わりに俺を使ってくれませんか? ご迷惑をかけたし。一緒に行動したほうがいいですし」

 空気が再びコンクリート化する。

「ちょっとまて。お前だってレアノアのメンバーなんだろ?」

「まぁそうですが、少し違います。あいつらのやってることとは大違いですよ。それに俺は彩夏を迎えに来ただけです」

 ふーんと俺が韜晦する。

「それで梶原の代わりに?」

「はい」

「マジで?」

「なんですか『マジで』って?」

 さらにオフィスの空気が固まる。

 少年はにっこりわらって、

「冗談です」









「つーわけで、あいつをお前の治療中の後釜にすることになった」

 ………。

「なに言ってんの?」

「局長命令だ」

 そういってゴキゴキで首を回す高木。

「ついでに武藤さんからもオッケーでたし。上には内緒でライオン飼うことになったって感じだ」

 僕はひたすら痛くなる頭を振りながら窓の外をみて現実逃避をしようとした。




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