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風の中から夢の中へ  作者: 椎名未来
第二章 救われるもの
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第二章 救われるもの 二






 窓の外はまだまだ日中のクソ暑い熱気満ちていて、そしてうざいほどの数のセミが病院の木に張り付いて大合唱しては僕のイライラ感を増させるばかりだ。今年の夏は例年より小笠原などの気団が活発で猛暑だとかニュースでいってけれども冷房きかせりゃそんなものも意味がない。

「と、このように人類は地球を破壊してるわけですねぇ……」

 暇なんでニュースをみながらそんなくだらないことを考えながら独白してベッドサイドにおいてあった新聞を広げる。

 三日前のビリッジビルの騒動がまだ国際関係の間で尾を引きづってるのが一瞬でわかる。

 連絡手段を一切遮断された米軍側の糾弾。

 国内にオーストの手引きがいたのではないかと言う疑惑。

 容易に東京都上空をAV-8M、ハリアー戦闘機を侵犯させた危機管理の甘さに対する国民と与党から政府と国防総省への抗議。

 犯人を追い詰めておきながら完全に取り逃がした航空自衛隊対テロ対策部隊作戦情報四課への非難やらの議論。

「……やっぱり『レアノア』については一切出さず、触れず、か」

 犯人たち、おそらく子供たちのいっていたレアノアと言う言葉。組織名のようなものとあの少女がいっていたからには違いなだろうが、どうにもひっかかる。

 レアノアは一つであって一丸じゃない。

 それでは中には「彼女達のようなテロ行為をしないもの」もいるのか、いや、いるんだろう。事実彼女はいったんだから。穏健派もいると。

 それじゃぁ、統制は誰がとってる? まさか構成員全員が自由に行動をとってそれで、まとまっていると?

 ……まぁわからない。考えてもな。

 ふと新聞の日付を見る。

 二〇〇七年八月一五日。

「もうあれから二年か」

 トレス海峡のことがあってからもう、

 そこでいきなり今時めずらしいスライド式が勢いよく、バーンっ! と開いた。

「おう! 暇だから見舞いに来てやったぜー!」

 ……。

 扉入り口にはスーツを着た男が立っていた。左手になんかの見舞い品くさい饅頭だかなんだか知らない物を持って、なぜかニコニコしている。

「お前なんでここにいんの?」

 入って来た男、警察庁情報局情報解析課で南関連の事件で忙しいはずの高木慶一。でもって僕の同期で、警察庁のキャリアから外れて自衛隊に下った僕を未だにかまい続けているヤツだが。

「随分とご挨拶だなぁ。こっちはやっと仕事がだいた片付いてこうやってきたってーのによ」

 なんかよくわからないことをいいながらベッドの横にある椅子にどっこいしょといって座る。

「はい、うちのボスからのお土産、故郷の三重の赤福とかいうやつらしいぞ。食うか?」

「……いや、いい、っていうか色々つっこみてーんだが」

 はいはい、といって包みをサイドテーブルにおいて首を回す。

「つまり順番に話せっていうわけね?」

「そうだっつーの、ていうかそういうふうに引っ張るのは昔からかわんねぇなあ」

 僕が少し笑う。実質こいつと会うのはかなり久しぶりだったりする。高木は右腕ぐるぐる回しながら意外そうな顔をして僕を見る。

「そうか? まぁ、そうだな。例のトレス海峡事件以来だからなぁ。ま、今回きたのもうちのボスから命令半分だからな」

「ボス、って佐々木真奈さんから? なんで?」

 そういうとうーん、と考え込むようにして今度は左腕を回しながら、

「今回の功績は梶原君のおかげ、とかいってたからご褒美に情報漏洩して来いってさ」

「なんだそりゃ……」

 もうよくわからん、つーか真奈さん、局長なのに情報漏洩とか簡単に言うかなぁ……。

「単刀直入。例のお前らがいってた『レアノア』。その一人、捕まえたぞ」

 …………。

「はっ?」

 なに言ってんだこいつは。事実この前逃げられたろうが。

「だから説明するって言ってんだろうが。一番割り食ったのはお前だから俺がこうやって来てんだろ」

 そこまでなにやらやっていたストレッチをやめて真剣な顔をして僕に向き直る。






「おい、イギリス海軍ニューギニア分隊が伝達してるぞ」

「米軍の三日づけの公式手続きはどうした! 今将校がきちまってるぞ! おい」

「このハッキングはペンタゴンか? いや、イタリアの内務省くさいな。国際間で腹の探りあいか」

「ソロモン諸島のISAFにもぐりこんだカルス3からの報告書どこいったー?」

 ………いやー。

 俺はそのカオス的なオフィスの状況しげしげと見ながらパックのジュースをズズッとっ啜って、

「暇だなぁ」

 そう呟く。

 例の関東広域テロ、それに港区のビルのテロをあわせても忙殺的な忙しさだといっても全部俺の畑違いだから俺は俺で。

「おいー、少しは仕事しろよ」

 そういって向かいのデスクにいる同僚の御崎が高速ブラインドタッチしながらいってきた。

「してるっつーの。南の通信網に編み張って例のテロ屋の尻尾つかまえようとしてんだよ。これでも二徹してんだ文句言うな」

「俺は三徹だボケ」

 例のテログループの一味は艦船は所有してただろうが小笠原沖で艦船を自ら爆破している。おそらく潜水艦まで所有していただろうっていうのが上の見解だけども。

 やっぱり暇だ。こんなのらりくらりした話が出来るうちは暇なんだろう。なんて考え、今度は栄養ドリンク二ダース買って来ようと考えながらパックジュースをずるずる眠い頭で啜っていると、

「おい! 全員監視カメラ見ろ! 一階ホール!」

 同僚の怒声で一発で目が覚めた。全員が作業中止、パソコンに送られてくるファイルを開いて、

「なんだこりゃ……」

 一階には警備員がかなりの数が転がっていた。おそらく一階常駐の警備員四二人全員……か?

 画面をかえて、二階、レストハウス、トイレ、連絡通路。

「敵さんはなに考えてんだろうな、全員四番見ろ!」

 俺が発見して全員が画像を回す。

 五階通路をTシャツ、半ズボンリュックを背負った背の高い子供が、人質にとったのか警備員を前にして黙々進んでいる。





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