悲劇ノ始まり
”アルゼニア帝国”
それは世界一規模の軍隊帝国である。
アルゼニア帝国でも、アルゼニア軍隊地では
軍のための施設。
軍のための人材。
何もかもがそろった優雅であり剣幕のある軍地である。
アルゼニア軍の抱負は
”経世済民であり、日々国民の為に尽せ”
それを教えつくされた軍員たちは日々平和のために戦っている。
魔術、武道、剣術。
全てにおいて、アルゼニア軍は世界で最強の名を語る。
アルゼニア軍地は、アルゼニア学園を中心に若者たちが住んでいる。
軍地には似合わぬ洒落た建物も多くある。
その中で若者たちは腕を磨き出世していくのであった。
「セレナ大佐!!至急幹部会議があるとのことです!」
慌てた様子で二等兵の制服を着た兵が走って来る。
ベランダから見える湖をくつろいで見ていた私に申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません…緊急らしいので…伝達遅れて申し訳ありません」
私は椅子から立ち上がり睨むようにして二等兵を見た。
「魔術映像もできないの?二等兵」
二等兵はビクッと体を震わせ、顔を顰めた。
「す、すみません…まだ会得していないもので」
私は、嘆息をつき、二等兵の肩軽く叩いた。
「…もっと意気を高めることね。伝達ありがとう」
「は、ハッ!お役に立てて光栄です…」
二等兵は素早く姿勢を建て直し礼をした。
私はどうやら、兵たちに恐れられているらしい。
まあ、まだ18なのに大佐なんてしてる自分の身分も恐ろしい。
私はセレナ・アルゼニア。
アルゼニア皇帝の娘だ。
剣術、魔術、武道全てにおいて優れた才能を持っていると評価され、大佐の身分にまでついた。
私は会議室まで歩きながら少し考えてみる。
こんな気楽な日々がずっと続けば良いのに…
戦は、好きではない。
人が目の前で死ぬのは良い気分なはずがない。
私の補佐であった、ミネア中佐もある戦で亡くなってしまった。
ミネアの死でも相当なダメージを私は受けたが、
父上は厳しく私に言う。
”人が戦で死ぬのに悲しみは必要ない。いるのは敵への憎悪だけだ”と。
私に悲しみを味わう暇などなく父上は私を訓練させた。
そんな父上に、少しばかり違和感を感じならが私は過ごしていた。
父上は今まで数え切れない人を殺してきたけれど、何故、悲しまないのだろう?
感情さえも消してしまったのだろうか。
私も今までたくさんの人を殺したが悲しみがない殺しなどなかった。
ただ父上は広がっていく自分の領地を見ながら嘲笑するだけだ。
狭い檻の中で育てられたように私はきつく縛られている気がする。
私はただの操り人形にすぎない。
憂鬱を感じながらきっと私はこれからも一生、生きていくのだろう。
「あれっセレナ、急がないのか?」
横を見るとゼイア・ローテス大佐がいた。
ゼイアは私と同期の大佐だ。
「あ、ゼイア。何か空飛ぶの面倒で」
空中に浮いてるゼイアはスッと地に足を付けた。
「お前らしい考えだ。俺もそう思う」
相槌を打ち笑顔でこちらを見る。
私は跳ね返すかのように鋭い視線を送った。
「でも飛んでた」
「バレた?」
気の抜けた言葉を発するゼイアへ呆れた風に私は見た。
「うん。その視線ゾクッとする~」
「ウザイ」
「ツンツンデレですかぁ?」
キリがないように話しかけてくるゼイアを無視して私は早歩きする。
「置いてかないでよ。嘘だって!でもさ緊急会議ってなんだろーね?」
私の横にまた並び疑問を浮かべた。
「どうせ、また戦じゃないの?」
私は呆れたように呟いた。
「それは緊急会議じゃあないよ」
「そ…っか…じゃあなんだろ」
「まあ、行けば分かるか」
賑わった町を通り過ぎ私達は大きなタワーの目の前にやってくる。
全体ガラス張りの逆光が眩しいタワーだ。
エレベーターに乗ると最上階である100階まで自動的に動き始めた。
不気味なほど静かなエレベーターの中で私は息を飲む。
何故か嫌な気がする。
「ねえ…何かいつもと違うくない?」
「俺も感じてた。殺気がする…」
私達は目を合わせて腰に差している洋剣を握る。
エレベーターのドアが静かに開いていく。
すると、目の前にあった光景に目を見開いた。
「…っ」
「歩いてきて正解だったようだ」
目の前にあったのは無残に散らばる死体と壁や天井、床に広がる真っ赤な液体だった。
死体は切り刻まれ形もなくなっていた。
「こんな…ひどい…」
私は剣への握る力が強まった。
死んでいるのは、皆幹部ばかり。
強い人ばかりだ。
それなのに、まるで野獣が襲ってきたかのようだ。
私達は恐る恐る足を踏み入れていく。