「身代わり聖女」と蔑まれた私は、隣国の冷徹竜騎士に拾われて極上のおもてなしを受けました。~実家の皆さん、今さら戻れと言われても無理です~
「エミリア、お前との婚約を破棄する! 聖女の力を持たぬ無能など、我が公爵家には不要だ!」
きらびやかな夜会の平原で、私の婚約者だったアラン令息の声が響き渡った。
彼の隣には、私の異母妹であるリリアが、勝ち誇ったような笑みを浮かべて寄り添っている。
「お姉様、ごめんなさい。でも、真の聖女である私の方が、アラン様にふさわしいのですわ」
私は、頭を下げたまま小さくため息をついた。
実家の伯爵家では、常にリリアが『本物の聖女』、私が『身代わりの無能』として扱われてきた。アランに婚約を破棄された今、私に帰る場所はない。
私は明日、魔物が巣食うと言われる隣国との国境地帯へ「厄介払い」として追放されることが決まっていた。
「……分かりました。お二人の幸せをお祈りいたします」
私は未練なくその場を去った。
彼らは知らなかったのだ。
私が毎晩、誰にも見られずに結界の魔力を編み、この国の平和を一人で支えていたことを。
そして、本当の無能がどちらであるかも。
国境の荒野にポツンと捨てられた私は、寒さに震えながらうずくまっていた。
すると、頭上から激しい風が吹き荒れ、巨大な影が舞い降りた。漆黒の鱗を持つ、美しい巨大な竜。
その背から降りてきたのは、冷徹と噂される隣国の総司令官、ゼクス・ヴァルハイト公爵だった。
「ふむ、君が噂の『無能令嬢』か。我が国へ来てもらう」
殺される、と私は目を瞑った。
しかし、彼に抱き上げられて連れて行かれた先は、恐ろしい牢獄ではなく、暖炉の火がパチパチと爆ぜる、最高級ホテルのような美しい城の一室だった。
「まずは温かいスープを飲みなさい。話はそれからだ」
差し出されたのは、じっくり煮込まれた極上のコンソメスープ。
一口飲むと、冷え切った身体が芯からじんわりと温まっていく。
「エミリア。君が国境を越えた瞬間、君の国の結界が完全に消滅した。つまり、その強力な聖なる魔力を維持していたのは君だ。違うかい?」
ゼクス様の深い琥珀色の瞳が見つめてくる。
私は驚きながらも、小さく頷いた。
彼はふっと、氷が溶けるような優しい笑みを浮かべた。
「やはりな。我が国は、君のような本物の宝を探していた。身を粉にして働いてきた君には、これから最高の環境と、ありったけの癒やしを提供しよう」
その言葉通り、私の新生活は信じられないほど甘いものになった。
毎日、最高級のシルクで仕立てられたドレスを身にまとい、一流のシェフが作る美味しいスイーツを好きなだけ食べる。
結界を張るお仕事も、「朝に少しだけ魔力を込める」という驚くほど軽いものだった。
それだけでゼクス様は、「素晴らしい! エミリアは国を救う女神だ!」と大絶賛してくれる。
「エミリア、今日は街で一番人気のタルトを買ってきた。あぁ、口元にクリームがついている。可愛いな」
冷徹と恐れられていたはずのゼクス様は、なぜか私をこれでもかと甘やかし、四六時中、熱い視線を注いでくるのだった。
私は毎日、美味しいものと彼の優しさに包まれて、みるみる元気になっていった。
それから数ヶ月後。私のもとに、実家の伯爵家と元婚約者のアランから、ボロボロになった手紙が何通も届いた。
『エミリア、頼むから戻ってきてくれ! リリアの魔力では結界が一日も持たず、魔物が押し寄せて我が領地は崩壊寸前なんだ! アランもリリアとの婚約を破棄して、お前を正妻として迎え直すと言っている!』
手紙を読んだ私は、そっとそれを暖炉の火の中にくべた。
今さら戻れと言われても、もう遅い。
「エミリア、そんなゴミの手紙は気にしなくていい」
背後からゼクス様に優しく抱きしめられ、耳元で甘い声が囁く。
「君を傷つけたあの国は、我が軍が完全に経済制裁を加えた。もう二度と君に近づけさせない。それよりも……」
ゼクス様は私の前に跪き、目も眩むような大きなダイヤモンドの指輪を取り出した。
「僕の生涯をかけて、君を世界一幸せにすると誓う。僕の妻になってくれないだろうか?」
「……はい! 喜んで!」
実家で虐げられていた私は、今、世界で一番不器用で、世界で一番優しい竜騎士様の腕の中で、最高に美味しいご飯を食べながら、とびきりのハッピーエンドを迎えている。




