無知は善意も恐怖と感じた
子供の頃
私は生まれながらに大病を患っていた。
原因不明の病。
完治のみこみも緩和ケア方法も分からない
もしかしたら、超一流の名医診断を受ければ、何かわかるかもしれない。
治るかもしれない。
でも私の親はそうそうに私の事を諦めた
「せめて空気の良い田舎に送ろう」
「そうね」
たったこれだけのやり取りで、私はお祖父さんお祖母さんの住む田舎に送られた。
田舎で好きに過ごした私。
体調の良いある日、山に一人で登った。
比較的田舎にも慣れて油断していた。
普段使わない小さな道を登って行く。
探検だ。
そのうち道に迷ってしまった。
来た道を戻るか?
もしくは山を下れば大体戻れる。
そんな自信があった。
でも……もう少し山を登ってみたい。
病で過保護に育てられた私。
少し無茶をしてみたかった。
子供だった。
山
人が全くいない地点まで登る。
沢山の木々が生い茂る山道。
できるだけ歩きやすい地面を選んだ。
歩きながら、ついに人が全く手入れして無いエリアまで入り込む。
私はそこで訳の分からない者に出くわした
山奥に訳がわからない生き物がいた。
人の形をしている。
だけど何処かおかしい、人では無い。
人の真似をした何か
そんなふうに私は直感で感じる。
大きな体、長い髪、目は私の事をジッと見てる。観察してる。
しばらく、お互いにお互いを観察していた
大きな人に似たナニカはギョロギョロと光る目で私の事を見る。
私は怖かった。
私が警戒すると、大きなナニカが私を観察し終えたのか……
『スキ?』
とか
『ゴ〜〜ハン』
などと言う。
私がしばらく恐怖で硬直していると
『ダァイジョブ。オイデおいて〜』
と狂った発音で私を山の奥へ誘う。
私は動かない。
大きなナニカは山の奥へゆっくりと進む
私にオイデオイデと手招き。
怖くなった私。
でも……今更山を下るのも、
「このナニかを怒らせて、追いかけられたらどうしよう?」
不安と恐怖。
あるかもわからないネガティブな事を考えてしまう。
少なくとも、このナニカは上機嫌に見えた
私への敵意は感じなかった。
悩んだ
そして私は大きなナニカのあとをついていく事に決めた。
大きなナニカはユックリと歩きながら、時折ふりかえる。
私がついて来るのを見ると、たぶん満足してた。
「わぁ〜」
私はついつい声をあげてしまった。
大きなナニカのすみか
ひと目でわかった。
山の中には不似合いな建物
やたらと違和感がある。
少なくとも人間の家では無いだろう。
もっとこう泥や木を複雑にこねくり回した様な建築物だった。
私は大きなナニカについて行き中へ。
ナニカの住処らしき住居に入ると、ナニカはゴソゴソガサガサ何かを探している。
私は家の中を観察してみたが、何が何やらさっぱりわからなかった。
「ゴクリ。ノム〜。ゴクリ」
大きな人の真似をしたナニカが私にコップを差し出してきた。
コップの中には濃い緑色の液体が入っていた。
しきりに私にソレを飲めと言う。
人の言葉を真似た言葉とジェスチャー。
飲め。
そう言ってるのは伝わった。
私が拒否すると
ナニカに強引に口を捕まれ、液体を口の中に注ぎ込まれた。
不味い不味い不味い不味い不味い。
今まで口の中に入れたことの無い味。
吐き出そうとしたが、私を掴む大きなナニカは、吐き出すのを許してくれない。
ついに液体を飲み込む。
更に液体を飲ませようとする大きなナニカ
ギャアギャア騒ぐ私。
逃げようとジタバタ。
私はそこらで気を失った。
気がつくと人里
空き地で私は寝ていた、
「夢?」
夢にしては、やたらとリアルだった。
口の中に、刺すような痛みとエグみが……
私が体験したのが、夢なのか現実なのか?
わからないまま、時は過ぎる。
不思議な事に、私はその日をさかいに病気が嘘の様に治った。
元々原因不明に近い病。
自然に治っても不思議じゃないと医者に言われた。
大人になった私
ある日の事
私は家の近くで病気の猫を見つけた。
ひと目で病気とわかる猫
スマホで症状を検索する
と、放置してても治らない
でも薬をあたえると、すぐに治る病気だとわかった。
私は薬を買いに行った。
猫のいた場所に戻ると猫はまだいた。
警戒心の強い猫で近付くと逃げる。
「チッチっち」
と舌を鳴らして呼んでみたり
「にゃ〜」
と猫の鳴き声を真似したりした。
多少、猫の警戒が薄れた気がする。
薬のついでに買った猫のエサで猫を誘き寄せる。
猫近付く。
猫エサを食べる。
私はそこで薬をエサに混ぜた。
薬は飲みやすい様にスポイルに入った液体
猫のエサにかけた
途端に猫がエサを食べなくなる。
「ソレを食べれば元気になるよ」
私が猫に語りかけるが猫をはエサを食べなくなる。
困った私は猫をむりやり捕まえて、口に液体の薬を無理矢理飲ませた。
猫は大暴れ。
猫は力が強く、私は引っかかれた。
でも……薬を飲ませる事は出来た。
猫は逃げていったが……
あの猫の病気は治るだろう。
私はそこでようやく、子供の頃わずらっていた病気が何故か治った理由がわかった。
今の私と猫の関係。
たぶん、そういう事だった。
あの猫は、いつか私が命の恩人だとわかってくれるだろうか?
世の中には悪い人間だけで無く、良い人間もいると知ってくれるだろうか?
良い人間と悪い人間の見分けは……猫にはつかないだろう。
私も大きなナニカに再び会えたとしても、それが良いナニカなのか悪いナニカなのか
そもそも以前出会ったナニカなのか
見分ける自信が無い。
そもそも、近付く理由も無い。
それは向こうも同じかも知れない。
多分あの大きなナニカは、ほうっておけば人の力では助からない病の私を見つけた。
見るに見かねて私を助けてくれたのだろう
元気になった今の私は、大きなナニカには他とみわけがつかないタダの人間にしか見えないかもしれない。
見分けは……たぶんもうつかないだろう。
私の病気は治ったのだから。
もう私は病気の人間では無いのだから。
子供時代の不思議体験
わかってしまえば簡単な事だった。
無知だったから、わからなかった
無知だったから怖かった。
あの大きな人に似たナニカは、人の真似をしてまで私を助けてくれたのに。
私は無知だから善意と悪意の区別もつかなかった。
私達は無知だから、善意と悪意も区別もつかずに不安定な世界に住んでいる。
もしかしたら、無知でない人にとっては、善意と悪意を簡単に見分けられるのかもしれない。
そんな人には、この世は安全で平和な暮らしやすい世界なのかも知れない。
そこまで思いついて
私は賢くなりたいと思った。
そうすれば……
いつか……
私を助けてくれた大きなナニカが、
誰で
何処に住んでいて
どうすれば、もういちど会えて
どうお礼を言えば良いかも
きっと、わかるだろう
でも……そもそも
私を助けてくれた大きな優しいナニカ
彼は私が生きてるだけで、喜んでる様な気がする。
彼は見ず知らずの私なんかを助けてくれる
お人好しな優しいナニカなのだから。




