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正義の味方はブラック業務  ——転生って異世界がテンプレじゃないの?(涙)——-  作者: G3


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静かすぎる街

第七話





あれは、ただの人間だった。


力が欲しかっただけ。

弱さを隠したかっただけ。


そこに“祝福”が触れただけ。


被害者は全員重傷。

だが死者は出ていない。


軽度個体。

ランクで言えば、いちばん下。


——チュートリアルには、ちょうどいい。


ノアは記録ウィンドウを閉じる。


コア破壊、成功。

他の人間に影響なし。

街への波及もなし。



教科書どおり。


……の、はず。


「出力、ちょっと高くない?」


制圧時間、想定より短い。


器は十六歳。高校二年生。

精神はオッサンだから、まぁ大人。

判断も早い。


適応が速い。


速すぎる。


「優秀なのは助かるけど、優秀なヤツってだいたい面倒なのよね」


自称クールビューティーは椅子を回した。


仕事は嫌い。

でも無能はもっと嫌い。


人間ごと消すのは簡単だ。

けれど、それでは意味がない。


削るべきは“祝福”なんて呼ばれる呪いだけ。


あれをばら撒く側を止めない限り、

同じことが繰り返される。


問題は、軽度個体ではない。


朝倉大河を殺した異形。


あれは、上位種。


そして、その背後。


「向こうも動いてる、か」


ほんと、面倒。


最終的に片付ける相手は、異形だけじゃない。


ノアは小さく息を吐く。


「仕事してよね、正義の味方」



この街は、まだ静かすぎる。



———————————



静香は、今朝の息子の背中を思い出した。


制服姿が、やけに板についていた。


目を覚ましたあの日から、もう一年と少し。


奇跡としか言いようのない回復だった。


うちの病院で考えられる最先端のリハビリ。

専門チームによる長期サポート。

慎重な経過観察。


できることは、すべてやった。


だが。


それでも。


——ここまで早く社会復帰できる想定ではなかった。


後遺症は、ほぼゼロ。


運動機能も、認知機能も。


医師として考えれば、説明がつかない。


けれど。


母としては。


ただ、嬉しかった。


ちゃんと食べて、

ちゃんと笑って、

ちゃんと学校へ通っている。


それだけで、十分だったはずなのに。


ふとした瞬間、思う。


やけに落ち着いている。


言葉を選ぶ、その“間”。


高校二年生にしては、少しだけ大人びている。


でも、不思議と嫌じゃない。


むしろ、頼もしい。


安心してしまう。


「……変なの」


あの視線。


どこか懐かしい。


強くて、まっすぐで、


少しだけ、不器用な目。


昔、どこかで見たような——


「似てる、なんて……」


誰に?


答えは、胸の奥にしまったまま。


医師としては首をかしげる。


母としては、ただ幸せだった。



————————



「白川!」


放課後。


校門脇でロードの鍵を外したところで声が飛んできた。


一拍。


反応が遅れる。


——ああ、今の俺か。


「……なんだ」


振り向くと、ロードバイクを押した男が手を上げている。


たしか、霧島拓実だったか……?


同じクラスの。


「お前んち、白川総合病院の近くだろ?」


「まぁな」


「俺も。母ちゃん、あそこで看護師やってる」


へぇ、と軽く相槌を打つ。


霧島は続ける。


「赤ん坊の頃から入院してたんだろ? 目ぇ覚ましたって聞いた時、マジでびびった」


目覚めた………


それが正しい表現かは分からんが……..


「奇跡ってあるんだなって思ったわ」


悪意はない。


ただの率直な驚き。


「方向一緒だよな? 一緒に帰ろうぜ」


「ああ」


二台のロードが夕焼けの道へ滑り出す。


信号待ち。


横目でじっと見られている気配。


「……なんだ」


「いや。白川さ、体つき締まってね?」


「は?」


「足の使い方。無駄ねぇ感じ」


一瞬、ペダルを踏む力がぶれる。


「なんで分かる?」


「俺、格闘技やってっから、人の動き見るのクセなんだよ」


にっと笑う。


どこか誇らしげだ。


「鍛えてんだろ?」


「まぁな」


否定はしない。


霧島は嬉しそうに頷いた。


「格闘技とか興味ある? 俺、町のジム通ってんだ。総合」


……..懐かしいな。


風が強くなる。


「興味あるならさ、見学来いよ。見てるだけでも面白いぞ」


軽い調子。


押しつけじゃない。


ただの誘い。


「……気が向いたらな」


「だな……」


霧島は笑う。


夕焼けの中、並走する影が伸びる。


普通の放課後。


だけど、少しだけ熱のある風が吹いていた。



—————————



コンビニ前で別れた。


「じゃあな、白川!」


「おう」


今からバイトらしい。


霧島は立ち漕ぎで加速する。


フォームは素直だ。

踏み込みも悪くない。


……母ちゃん、あそこで看護師やってる。


父親の話は出なかった。


母子家庭か。


同じだな。


いや。


俺は——


「せっかくのイケメンにしんみり顔、似合わないわよ」


横から声。


振り向くと、女が立っていた。


黒のジャケットにパンツスタイル。

三十代前半。整った顔立ち。


本人いわく、クールビューティー。


異形対策室所属の私服警官。


「また出たな」


「出たとは失礼ね。パトロール中」


腕を組む。


「青春してた?」


「普通に帰宅だ」


「さっきの子、いい目してたわね」


霧島が消えた方向を顎で示す。


「格闘技やってるらしいな」


「へぇ。納得」


くすっと笑う。


「あなた、ちょっと嬉しそうだった」


「気のせいだ」


「そういう顔してた」


からかうように覗き込んでくる。


「……人を見るのが仕事なんだろ」


「そう。優秀だから」


自称。


間。


信号が赤に変わる。


「この街、静かよね」


軽い調子。


けれど視線は遠い。


「嵐の前ってやつ?」


「たぶん」


あっさり肯定。


「次はちょっと手強いかも」


「軽度じゃないってことか」


「さすが理解が早い」


満足そうに頷く。


「でもまぁ」


肩をすくめる。


「今のあなたなら、たぶん大丈夫」


「根拠は」


「勘」


即答。


「警察官がそれ言うな」


「異形担当はだいたい勘で動いてるのよ」


信号が青になる。


「じゃ、高校生と歩いて職質されたくないから私はこっち」


(お前、警官なんだろ。)


数歩進んで、振り向く。


「無茶はしないでね」


「努力はする」


「またね、正義の味方」


軽く手を振る。


次の瞬間、もう人波の中。


ひとりになる。


霧島の背中を思い出す。


強くなりたい目。


母を守る目。


——悪くない。


小さく息を吐く。


ペダルを踏む。


普通の放課後。


でも、たぶん——

もう“普通”だけじゃ終わらない。

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