ばあちゃんの、宣言!
宮本たえ子、今日も元気に朝を迎えた。99歳とは思えない軽やかな足取りで、台所に立ち、コーヒーを淹れる。窓の外では雀たちがチュンチュンと鳴き、近所の人々のざわめきが朝の町を包んでいる。だが、この静かな朝は、たえ子のひと言で一気に嵐になることを、誰もまだ知らなかった。
「ひろし、私、再婚するの!」
リビングに座っていた孫のひろしは、コーヒーカップを手から落としそうになった。67歳のひろしでも、さすがにばあちゃんの突然の宣言には息を呑む。
「え、ええっ…ば、ばあちゃん…再婚って…その…ま、まさか本気で…?」
「もちろんよ。本気に決まってるじゃないの!」
たえ子はまるで晴れやかな春の風のように笑っている。ひろしは頭を抱え、目の前の現実を受け入れられずにいた。だが、そんな孫の慌てぶりなど、たえ子には関係ない。
「お相手はね、佐藤正一さん。100歳になるのよ、あの人。穏やかで、おっとりしていて…とっても素敵なの!」
ひろしの口から「えーっ!」という悲鳴にも似た声が漏れた。100歳の男性と99歳の女性…いや、たえ子自身も若干自覚はある。「まぁ、年齢はただの数字よ」とたえ子は笑うが、孫にとっては理解の域を超えていた。
その時、ピンポーン、と呼び鈴が鳴る。玄関を開けると、たえ子の親友であり、町内一の恋バナ大好きおばあちゃん、山口さちこが、まるで宝物を見つけたかのような輝く目で立っていた。
「たえ子さん!ついにその日が来たのね!やったわね!やったわ!」
「さちこ、落ち着いて…ひろしが心臓止まるわよ」
「心配ご無用!これは祝うべき大ニュースよ!再婚なんて夢みたいじゃない!」
さちこのテンションにひろしはさらに混乱し、頭の中で「ばあちゃん…どうして…こんなことに…」とリフレインする。たえ子は満足そうに微笑みながら、二人をリビングに座らせ、お茶を入れ始めた。
「で、まずはお見合いよ。私たち、正式に会って、じっくり話すの。ひろし、あなたもちゃんと応援しなさいね」
「応援…?いや、いやいや…応援なんて…できるか…」
「まあまあ、いいじゃない。人生、何歳になっても挑戦よ。あなたのばあちゃんが99歳で恋するなんて、珍しい話じゃない?」
たえ子の言葉に、ひろしは思わず目を細める。怒りよりも呆れよりも、少しだけ羨ましさが混ざっているのを自覚した。
その時、さちこがいきなり口を挟む。
「そうそう!お見合いにはね、ドレスと髪型が大事!99歳でも輝けるのよ!若作りしなくても、魅力は引き出せるの!」
「さちこ…私たちは普通に会うだけなんだけど…」
「普通?99歳が再婚を宣言した時点で、普通じゃないわ!さあ、準備よ!」
こうして、たえ子の再婚大作戦は、孫も友人も巻き込んで、ドタバタとした幕開けを迎えることになった。町中の噂もすぐに駆け巡り、近所の人々は「たえ子さんが再婚?」とざわざわと話題にする。誰もが信じられないようなニュースだが、たえ子本人は笑顔で胸を張っている。
「人生は何歳になっても楽しめるのよ。恋も、笑いも、挑戦もね」
この一言が、99歳のばあちゃんと、100歳の紳士・佐藤正一のハートフルでドタバタな再婚劇の始まりだった――。




