第8話 列車奪還
今回は、ナチ・セリエルの両方の視点から物語を進めます!
今日は皆でゆっくりしたかったのに・・・
テロリストに囲まれながら、ナチはふと思った。
1泊の旅行をするために、列車に乗って移動していたセリエル・ナチ・クウラ・フラメンの4人。しかし、運悪く彼らが乗車した列車がテロリストによってハイジャックされてしまう。セリエルの機転で、なんとかその場にいた覆面の男たちを抑える事に成功したが、彼らの仲間はまだたくさんいる・・・。そのため、二手に分かれて列車を奪還しようと試みていた。
「あれ・・・?」
「どうした?」
「いや、後ろとの連絡が途絶えてしまったんすよ・・・」
テロリストの一人がもう一人の仲間と話す。
「全く・・・よし。お前、後ろを見に行ってこい・・・!」
「へい・・・」
覆面を被った男は、ため息をつきながら、後部座席へ行くための扉を開く。
「・・・なんだ、てめぇ?」
目の前にいたのは、ナチだった。
「列車の客か!!?いいからおとなしくして・・・」
銃口を彼に向けたが、ナチはそれにもひるまず、にっこりと笑顔で立っていた。
しかし、瞬時に彼はしゃがみこむ。
「・・・え・・・」
ナチがしゃがんだのとほぼ同時に、後ろに隠れていたクウラが足を振り上げる。
ズガーーーン!!!
「何・・・!!?」
クウラの蹴りが見事に命中し、覆面を被った男は反対側の扉近くまで吹っ飛ばされる。
何が起こったのかと、周囲にいた乗客は、目を見開いて驚いていた。
・・・この調子だったら、クウラ一人で何とかなりそうな予感が・・・
床で気絶している敵を見ながら、ナチは内心でそう思った。
というのも、ナチは射撃を得意としているが、今回は列車内のために銃はなるべく使わないようにしている。それは、銃撃戦になる事を避け、乗客の安全を第一に考えた結果だからである。
「さて・・・あとは、あの女性が操縦室を奪還できるのを待つばかりか・・・」
考えている間もなく、クウラはその場にいたもう一人のテロリストを素手で倒してしまっていた。
「そうだね・・・」
“自分は何もできなかった”そんな残念そうな表情をしながら、うつむくナチ。
それを見かねたクウラは、ナチに向かってゆっくりと口を開く。
「ナチ。君は、お父さんから交渉術や心理学を学んでいるわけだし・・・今は、この保護した乗客達を安心させるのをお願いできないかな・・・?」
「あ・・・ああ」
正義感の強いナチにとって、自分が市民のために何もできないのが一番つらかった。
クウラはそんな彼の気持ちを汲み取ってくれたのかもしれない。
さて・・・セリエルさん、大丈夫かな・・・?
ナチは天井を見つめながら、ふとセリエルの顔を思い描いていた。
※
・・・まずは、操縦室の奪還ね・・・!
走行中である列車の上に立っているため、バランスを取りづらい状況になっているセリエル。何とか、風が進行方向と逆だったため、辛うじてバランスは取れていた。
ガタンガタン・・・
セリエルの履いている靴の足跡が地面に響く。
この下――――――――――
少しずつ前方車両の方へ進んで行くと、屋根で少し盛り上がっている場所に到達する。その先を見ると、彼女の視界に操縦室らしき場所が目に入ってくる。
という事は・・・真下が特別車両といった所かしら・・・
これまでのように、普通に進んでいたら、足音で下にいるテロリスト達に気づかれてしまう。それを避けるために、セリエルはこの特別車両の端から端まで、何とか飛び越えようと試みる。
「・・・はっ!!!」
逆風に押されながらも、何とか助走をつけたセリエルは、走り幅跳びのように飛び越える。
ガン!!!
しかし、風に煽られているせいもあって、一度では操縦室近くまでたどり着く事ができなかった。
「なんだ・・・!!?」
今の音を聞きつけたテロリストらしき男の声が聴こえる。
「・・・くっ・・・!!」
もう一度ジャンプしたセリエルは、それによって特別車両と操縦室を結ぶ連結部分の所に降り立つ。
「何だ、お前は!!?」
降りた瞬間、特別車両から出てきた男が、彼女に銃を向ける。
バチバチバチ!!!
敵意を感じたセリエルは、瞬時に右手から微電流を放つ。
「がぁぁぁっ・・・!!」
うめき声を立てた後、男は地面に倒れこむ。
咄嗟に魔法を使ってしまったけれど・・・誰にも見られていなそうだから、問題なさそうね・・・
本来、自分が魔法を使えるというのは、誰にも話していないし、知られたくない事である。そのため、この場に人があまりいなかった状況に心底感謝した。
「うっ・・・!!」
その直後、セリエルの左腕に一発の弾丸が命中する。
気がつくと、操縦室側にいたテロリストの男が銃を構えていた。
「さっきから後部座席からの連絡が取れねぇと思っていたが・・・てめぇらの仕業か!!?」
「・・・まぁ、これだけ派手にやればねぇ・・・」
セリエルがポツリと呟く。
「はっ!!例え、操縦室を奪還できたとしても、特別車両に人質がいる限り、我々は負けな・・・」
その直後、少し鈍い音が聴こえたかと思うと・・・テロリストの男は地面に倒れてしまった。
「!!!?」
何が起きたのかとよく見てみると・・・格闘家のような構えをして立っている、列車の操縦士さんだった。
「あ・・・・ありがとう・・・」
一般人とは思えない動きに驚きを隠せなかったセリエルだったが、お礼の言葉を述べても反応しなかった。
あら・・・?
返事すらしない操縦士の瞳は、血のように真っ赤であった。そして、その表情に生気を感じられなかった。
「・・・そこのお嬢ちゃん!!大丈夫かい!!?」
すると、操縦室の奥から、また別の人物の声が聞こえる。
「!!!」
その声に反応した操縦士は、いつの間にか瞳が元の色に戻っていた。
「はい・・・大丈夫です・・・!!」
セリエルに声をかけてきたのは、もう一人の操縦士だった。
「おかげで、いつも通りの操縦ができるわい・・・!そんでもって、わしらに出来る事はあるかね??」
セリエルが来るまでずっと銃を突きつけられたまま操縦していたため、操縦士のお爺さんは気分良さそうな声でセリエルに呼びかける。
「では・・・安全運転でお願いします・・・!」
操縦士に一言告げたセリエルは、再び特別車両の方に視線を向ける。
「あ・・・そうだ」
“操縦室の奪還成功”という合図にもなる照明弾を打ち上げる。
すると、照明弾は弾ける音と一緒に、真昼間の空にパァッと光った。
「セリエルさん・・・!」
「・・・了解」
特別車両の付近で待機していたナチとクウラが、セリエルの合図に気がついたようだ。
そうして、前後からの挟み撃ちを利用して、彼らは何とかテロリストのリーダーを拘束する事に成功する。
※
「ご協力ありがとうございました、ナチ少尉」
「いえ・・・とりあえず、乗客に怪我人が出なくて幸いでした・・・」
その後、列車は司令部のある街に到着し、憲兵達が速やかに対応していた。
テロリストは全員拘束され、乗客の内何人かは事情聴取を受け、人質に取られていた将軍一家も無事保護されていた。
「貴方と同行されていた、クウラという方。・・・憲兵司令部に勤めていると聞きましたが、とてもそれだけではないような・・・」
「あ・・・・あはははは・・・」
クウラの仕事ぶりに首をかしげていた憲兵が、ナチに対して呟く。
しかし、“特務員”の仕事に関してはクウラ本人に口外無用とされているため、ナチは何とかごまかした。
憲兵との会話を終えた後、ナチはフラメンの所へ行く。
「あれ?フラメン・・・セリエルさんは・・・?」
ナチに声をかけられたフラメンは、きょとんとして辺りを見回す。
「さっきまで、あそこで傷の手当を受けていたはずなのに・・・どこへ行っちゃったのかしら・・・?」
その後、ナチは一人考え込む。
セリエルさん・・・腕を怪我しているのに、大丈夫かな・・・・?
そう考え込みながら、ナチはセリエルを探し始めた。
※
ナチがセリエルを探し始めていた頃、当の本人は駅の近くにある崖の麓にいた。
「私にお話がある・・・とは、一体どういったご用件ですか?」
セリエルは、事情聴取の終えた一人の女性と一緒にいた。
すると、この水色の髪の女性の方を向いてセリエルは口を開く。
「・・・テロリストと対峙していた時、私を助けてくれた操縦士がいました」
真剣な表情をしながら、セリエルは話し続ける。
「あの時は考える余裕がなかったのでわからなかったけど・・・先ほど、貴方の姿を見た時に確信しました」
「・・・・・」
「あの場で操縦士を操り、私を助けたのは貴方ですね?」
その台詞を聴いた直後、水色の髪をした女性は一瞬黙り込む。
「貴女は一体・・・何の話をしているのですか?」
女性は笑顔でごまかそうとするが・・・
「あの時、操縦士(あの男)の瞳が真っ赤で・・・しかも、“人ならざる者”の気を感じた。今の貴女と同じ“気”を・・・!!」
セリエルの瞳がギラッと女性の方へ向く。
周囲では冷たい風が吹き、両者の間では緊迫した緊張感が走っていた。セリエルもその女性も、一言たりとも言葉を発しない―――――――
「今日は・・・暇つぶしでここを訪れただけなのにね・・・」
「・・・・!!!!」
先に口を開いたのは、水色の髪の女性の方だった。
すると、女性の背中から白い羽が出現する。その様子を見ていたセリエルは驚いていたが、すぐに我に返った。
「天使・・・・。しかも、堕天使にお会いできるとはね・・・」
「私の方こそ、こんな場所で会えるとは思わなかったわ・・・。“世界の心”・・・」
セリエルは、堕天使の刻印が刻まれている相手の額を見つめ、女性はセリエルの右目下にある痣を見つめながら述べた。
「・・・貴方たち“天使”と相反する“悪魔”は、2つの世界を行き来できると“星の意思”から聞いている。どうして、私を助けた・・・!?」
セリエルが深刻そうな表情をしながら、銃を構える。
それを見た女性は、その場でため息をつく。
「そんな物騒なモノを向けないでほしいわ・・・。それに、私は貴女と戦うつもりはないし・・・」
「何!!?」
セリエルは両手に汗を握りながら、堕天使を睨む。
“天使”っていうからもっと穏やかな“気”かと思っていたけれど・・・こいつから感じるのは、殺気のように手ごわいかんじがする・・・
セリエルは内心、そう考えていた。
「貴女が死んでしまったら、我々の“計画”が台無しになるから・・・」
「え・・・?」
堕天使はその場でポツリと呟く。
それを聞き逃さなかったセリエルは、口をポカンとさせた。しかし、余計な一言を告げてしまった事に気がついた天使は、白い翼をバサッと羽ばたかせる。
「と・・・とにかく、今日は暇つぶしでアビスウォクテラ(この世界)に来ただけだから・・・!」
飛びながら、堕天使はそう告げる。
「ちょっと・・・堕天使!!まだ話が・・・」
「・・・フリッグスよ!」
水色の髪をした堕天使フリッグスは、気がつくとセリエルの目の前から消えていた。
彼女の足許に天使の白い羽を残して・・・。
「あ、いた・・・!セリエルさーーーーーーん!!!」
気がつくと、後ろからナチの声が聞こえてくる。
「ナチ・・・」
「もう、セリエルさんってば・・・。他の人に聞いても、誰も“知らない”って言うから・・・どこに行ってしまったのかと・・・思いましたよ・・・!」
セリエルの目の前に来たナチはゼーゼー言いながら話す。
「ごめんなさい、ナチ。・・・心配かけて・・・」
セリエルは俯いて話しただけだったが、ナチはそれが悲しそうな表情をしているのではと勘違いをしていた。
「あ・・・あの2人も待っている事だし・・・早く戻りましょう・・・!」
ナチはあたふたしながら、クウラ達が待っている方向へ歩き出す。
彼の背中を見ながら、セリエルは考え事をしていた。
フリッグス・・・だったかしら・・・。あの堕天使、こっちには“暇つぶし”で来ていたと言っていた。・・・それって、本来の目的はレジェンディラス(あっちの世界)にあったと言う事・・・!!?
そして、セリエル達を照らす夕日を見つめながら、考える。
フリッグス(奴)が呟いていた“計画”というのも、引っかかるわね・・・
ナチが気まずそうな表情をしている中、セリエルはずっと考え事をしながら、仲間たちの下へ歩いて行く―――――――――――
いかがでしたか。
せっかくの休暇だったのに、セリエルやナチにとっては災難なかんじでしたね。
テロリストのリーダーを倒す辺りは省略してしまいましたが、最後の方を読んで、なぜ”操縦室奪還”のシーンだけしっかり書かれたのか、ご理解いただけたかと思います。
この作品では、一度出てそれで終わり・・・なキャラが多いですが、今回初登場となったフリッグスは、まだ今後も登場する事になっています。
それでは、引き続きご意見・ご感想をお待ちしています!