第7話 休暇の最中に
今回はセリエルやナチの腕の見せ所になる?ようなエピソードです。
でももちろん、ちゃんと本編と繋がりを持っています!
“レジェンディラス“―――――――――それは、セリエル達が暮らす世界”アビスウォクテラ“と違う次元ではあるが、見えない壁で結ばれているもう1つの世界。この2つの世界は、星を旅する民”キロ“に発見された当時は、1つの世界であった。しかし、古代大戦を機に、”星の意思“によって、2つの世界に分断される。
「なぜ2つの世界に分かれたのか」は、誰一人とて知らない。ただし、“アビスウォクテラ”において、セリエルだけが“レジェンディラス”の存在を知っていたのであった。
ガタンゴトンガタンゴトン・・・
大勢の客を乗せた列車が、ギルガメシュ連邦の国営鉄道を通り抜けていく・・・。天気は雲一つない快晴で、休日だったその日は、多くの人で賑わっていた。
「あーもう!!また負けちゃったじゃないの!!!」
「フラメン、君ってばカードを出すの遅いからだよ・・・」
カルメンという女性とトランプゲームをしていたナチが、ため息交じりで話す。
「確かに・・・横で見ていたけど、お前の“スピード”は遅い!!」
彼女の隣で、クウラが真顔で言い放つ。
トランプゲーム(スピード)好きねぇ・・・この子達・・・
セリエルは、ナチの隣で少し呆れた表情をしながら眺めていた。
この日は休暇だったセリエルは、ナチから1泊2日の旅行に誘われた。というのも、最初は彼の同期であるクウラと2人で行く予定だったのに、クウラの恋人であるフラメンが「どうしても行きたい」と駄々をこね・・・3人だと気まずいと感じたためらしい。
・・・旅行は嫌いではないけれど、この娘・・・フラメンは、少し面倒くさいかんじが・・・
この時が初対面であるにも関わらず、セリエルはこの茶髪の女性の性格を何となく見抜いていた。
2人の座席で向かい合って座っていた彼ら。セリエルを除く3人は、共に軍人学校時代からの同級生で、旧知の仲らしい。そんなつながりもあってか、セルエルは独り浮いていた。最も、彼女自身は他人に興味を持たないため、この状態については何も思うところはなかった。
ナチ達が他愛もない会話をする一方、セリエルは窓から見える外の景色を見ていた。遠くの方を見ながら、ボンヤリと考え事をしていると・・・
「!!!?」
何かに反応したのか、いきなり通路側を睨むセリエル。
その一瞬の動きに、クウラ達が驚きの余り、固まっていた。
「セリエルさん・・・どうかしましたか?」
「えっ・・・?」
ナチの台詞を聞いた途端、我に返った。
「いえ・・・なんでもないわ・・・・」
3人の視線が自分に向いていることに気がついたセリエルは、すぐに元向いていた方向に顔を動かした。
そして、再び世間話を始めるナチ達。
今、得体の知れない“何か”を感じたけど・・・気のせい?
彼女は窓ごしで前後の座席や通路側を見つめていたが、その“何か”が何なのかはわからずじまいだった。
この前の事件で“悪魔”と出会って以来、何か敏感になったような・・・?
セリエルは、以前に起きた猟奇殺人事件の事をしきりに思い出していた。
『・・・“8人の異端者”に用心することだな・・・』
悪魔が、去り際に述べていた一言・・・あれは一体・・・?
その台詞が頭から離れないセリエルは、深刻な表情をしながら、外の景色を眺めていた。
ドンドン!!!
すると、背後で銃声が聴こえてくる。
「えっ・・・!!?」
「なんだ・・・!!?」
銃声に反応したフラメンとナチが、聴こえてきた方を見る。
彼らの視線の先には、覆面をかぶり、拳銃を所持している男の姿だった。
「たった今、この列車は我々が占拠した!!!!」
覆面を被った男は叫ぶ。
「お前らは俺たちの目的を果たすための、人質だ!!だが、妙なまねをすれば・・・撃つ!!!」
横にいたもう1人の覆面を被った男が、乗客に銃口を向ける。
「どうやら・・・テロリストみたいですね・・・」
セリエルの側で、クウラが低い声で呟く。
クウラは憲兵司令部に勤めているが、それは表の顔。
裏では特務員として、普通の軍人が行わない仕事もこなしている。そのためか、このような非常事態でも、冷静に周囲を見つめていた。
「セリエルさぁーん・・・」
一方で恋人のフラメンは、自分たちと同じ軍司令部(の違う部署)勤務だが、実戦経験が全くといっていい程ないので、一般人と同じようにひどく怯えている。
その後、銃を向けられた乗客たちは、怯えながらも次々と手を上げていく。テロリストの一人が、銃を構えながら少しずつセリエル達が座っている後部座席へ歩いてくる。
「ナチ・・・クウラ・・・!」
「・・・セリエルさん?」
セリエルは搾り出したような小さな声でナチとクウラに声をかける。
「・・・畳み掛けるわよ」
「ええっ!!?」
「わかりました」
一言呟くと、ナチとクウラでそれぞれ違う反応をした。
「ちょっと・・・セリエルさん・・・!!?」
「この列車が目をつけられたという事は、どこかの車両に軍の関係者が乗車しているって事ね・・・。列車はおそらく、止まってはくれないだろうし・・・私達で、列車の奪還をするのよ・・・!」
「・・・・・」
呆れた表情でため息をつくナチ。
「おい!!お前ら、何コソコソと話している!!?」
気がつくと、目の前には銃を構えた覆面の男がいた。
銃口を向けられた彼らは、一瞬きょとんとした表情をしていたが・・・
ドガッ!!!!
セリエルが、男のみぞおちに一発の拳をぶつける。
「がはっ・・・!!」
その後、男は地面に倒れて気絶してしまった。
いきなり何が起こったのかと、目を見開いたまま声を失っている乗客たち。
「この女・・・ぐっ!!!」
もう一人の男がセリエルに銃を向けた直後、同じようにして地面に倒れてしまう。
「・・・流石だね、クウラ・・・」
テロリストの男を背後から気絶させたクウラを見ながら、ナチは呟く。
「な・・・なんなんだ、あんたら!!」
「こいつらに手を出したら・・・今度は、他の仲間たちが報復に来るんじゃないのか!!?」
テロリストが気絶した途端、乗客たちが騒ぎ始める。
・・・うるさい連中ね・・・
内心でそう思いながら、セリエルは乗客たちを睨みつける。
「セリエルさん・・・!!」
険しい表情になっているのに気がついたナチが、彼女の制止に入る。
「セリエルさん!・・・乗客を怖がらせるようなことは避けたほうが・・・」
ナチは小さな声で彼女に耳打ちした。
「・・・驚かせてしまい、申し訳ありません!僕たちは、軍人です・・・!だから決して、怪しいものではありませんので、安心してください」
少し柔らかい口調で乗客たちを宥めるナチ。
すると、乗客たちは安心したかのように黙り込んでしまう。
ナチは、父親から心理学や交渉術を学んだことがあるって言っていたけど・・・効果抜群ね・・・
そんな彼の様子を見ながら、セリエルは内心思った。
「さて、どうやって攻めようか・・・・」
気絶させたテロリスト2人を拘束した後、セリエル・ナチ・クウラの3人は考え事をする。
力ずくで問い詰めたところ、敵の数は全部で9人。彼らがいる車両と他4車両で6人。そして、特別車両である一番前の車両には司令部の将軍一家が人質となっており、操縦室に1人・・・といった具合らしい。
よほど怖かったのか、どこで学んだのかは不明だったが、なぜか敵に情報を吐かせるという面ではフラメンが活躍していた。
逆に、あそこまでされてたテロリスト(奴ら)に同情するわ――――――――
泡吹いて気絶している彼らを見て、セリエルはふと考えた。
「・・・では、僕とナチが下から。フラメンは、ここの乗客を保護してあげてください。・・・お手数ですが、セリエルさんは上から攻めてもらってもいいですか?」
真剣な表情で話すクウラを見たセリエルとナチ。それと、フラメンが黙って頷く。
「じゃあ、私は行くわ」
「セリエルさん・・・日頃から、それを持ち歩いているんですか・・・?」
「?ええ・・・そうだけど?」
セリエルは腕の中に仕込んでいた小さなピストルの銃弾数を確認した後、窓を開ける。
その様子を見ていたナチは、驚きながらも心配そうな表情で言う。
「・・・気をつけてくださいね」
「ええ・・・そっちもね!」
そう告げた後、セリエルはヒラリと窓の外へ出て行った。
「では、僕らも・・・」
縛り上げたテロリストたちが所持していた拳銃や銃弾を服の中に隠したクウラは、ナチに合図をする。
その後、彼ら2人も列車奪還のために動き出す。
「あの子たち・・・軍人だって言っていたけど、大丈夫かしら・・・?」
「・・・大丈夫です!彼らは・・・私なんかより、ずっと強いから・・・」
不安な表情で呟く女性の側で、フラメンが笑顔でそう述べた。
「・・・・・・」
彼らがいなくなるまでの一部始終を、黙って見ていた人物がいた。
「あの銀髪の女性・・・」
水色の髪をしたその女性は、他の人に聴こえないくらいの小さな声で、ボソッとつぶやいていたのであった――――――
いかがでしたか。
この作品のエピソードは、どこかしらで同タイトル『Left』と関連があるように書いていますが、まだこの段階ではどこがどうなっているか、わからないかと思います。
でも、ちゃんと次回以降でわかるように書きますので、お楽しみに♪
ちなみに、今回のエピソードは「ハガレン」こと「鋼の錬金術師」のとあるエピソードを参考にさせて戴きました(^^
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