第3話 ”星の意思”と古代遺跡<後編>
セリエルとナチは、ジェンド博士と共に声の聴こえた方へと歩き出して行く。セリエルは歩いて行く内に、妙な悪寒を感じていた。
「ジェンド博士!これを見てください」
セリエル達の視界に入ってきたのは、祭壇らしき台の下に出てきた隠し階段。
「・・・どこかに触ったのか・・・?」
「あ・・・はい。手探りで軽く触っていたら、台座を形作る石が引っ込むような仕掛けになっていたみたいで・・・・」
学者とジェンド博士が話している一方で、セリエル達や他の軍人は隠し階段に釘付けとなっていた。
遺跡内の造りから言うと、これはヴェスペディラ暦(=かなり昔の暦)の時代に生きていた人間たちが造ったモノ・・・・。“8人の異端者”の文字があったとすると、もしや―――――――
嫌な予感のしたセリエルは、ナチの隣に寄って小さな声で呟く。
「この先・・・進まない方がいいかもしれない・・・・」
「・・・・どうしてですか?」
「それは・・・・・」
その時、セリエルは一瞬考える。
この“8人の異端者”とは、かつてヴェルペディラ暦だった頃、世界を滅ぼそうとした者たちを指す。彼らは皆、異民族で8人で行動していた事から、その名前がつけられた。しかも、過去の歴史で普通の人間達に迫害され、忌み嫌われていた者が多かったため、人類に対する恨みの念は相当なモノであった。そしてヴェルペディラ暦500年、ついに全人類を敵に回して大戦争を引き起こす。
彼らは1人1人が強力で、その圧倒的な力によって大地は裂かれ、多くの生き物が死に絶えた。
しかし、それも長くは続かなかった―――――――
“世界の滅亡”を予感した“星の意思”と人類が最後の力を振り絞り、この戦争を終結する事ができた。
ギルガメシュ連邦の歴史書には書かれていないために一般人は知らないが、敗北をした彼らは、時間の流れない特殊空間にて幽閉されたという事実をセリエルは知っていたのであった。
「よし!!この先が安全だろうと危険であろうと、調査しなくては何もわからない!!よって、今からこの隠し階段の先の調査を開始する!!!皆、心して任務に当れ!!!」
「はっ!!」
ガンツ大尉の指示にセリエル達は敬礼をする。
そして、念のため軍人を一人その場に残し、隠し階段の奥へと進む一行。降りた先の通路は彼らの想像より狭く、軍人と学者の合わせて8人で何とか入れるくらいの広さだった。
「扉を・・・開けます・・・!」
身構えながら、一人の軍人が目の前にある扉に触れる。
ギギギギギギギギギギ・・・・・
硬そうな扉の割りには、成人男性1人の力で開けることができた事に対して、セリエルとナチは2人とも違和感を感じていた。
「これは・・・・!!」
ナチが呆気に取られたような表情で、視線の先を見つめる。
しかし、驚いているのは彼だけではない。
扉の先にあったのは、底が見えないくらいの穴・・・そして、下からは紫色の光の渦が見える。
「もしや・・・・“時止まりの空間”・・・・?」
ジェンド博士がボソッと呟く。
その表情が青ざめていくのに気がついたナチは、ジェンド博士に声をかける。
「ジェンドさん・・・すごい汗ですよ・・・!!大丈夫ですか・・・!?」
「“時止まりの空間”だって・・・・!!?」
他の学者達がざわつく。
何の事だかわからない軍人側は、そんな彼らの様子を見て首をかしげる。
これが“時止まりの空間”なのね―――――――――――
周囲がざわついている中、セリエルは独り深刻な表情で考え事をしていた。
それから2時間後、遺跡調査を終えた一行は連邦司令部に戻り、各自解散をした。任務が終了し、通常業務も終えたセリエルとナチはジェンド博士の研究室へ向かっていた。
「ジェンド博士、あれ以降ずっと深刻そうな表情をしていた。・・・それだけ、あそこにあったものがすごかったんだろうな・・・・」
「そうね・・・。だから博士はあの場所を“一般公開できない危険のある場所”と認定したのでしょうね・・・・」
歩きながら会話をする2人。
私には“人間の気持ち”をあまり理解はできないが・・・おそらく、ナチ(この子)はあの空間が何だったのかという好奇心よりも、博士の方が心配なのかもね―――――
ナチの後姿を見ながら、ラスリアはふとそう考える。
「失礼します、ジェンド博士!俺です・・・ナチ・フラトネスです」
博士の研究室の扉の前で、ナチはノックをしながら言う。
「・・・おお、ナチ君か・・・!」
扉越しで声が聞こえた後、パタパタと音が聞こえ、中からジェンド博士が顔を出す。
その後、ジェンド博士の研究室に入らせてもらうナチとセリエル。お茶を飲んで一息ついた後、ナチは口を開く。
「ジェンドさん・・・。あの時おっしゃっていた“ストイムフィールド”って、何の事なんですか・・・・?」
その問いかけに対し、一瞬驚くが、ため息をついてから口を開く。
「本当は国家機密の一部であるが、仕方がない・・・・。君は私が世話になっている友人の息子だからね・・・」
2人の会話に、黙って耳を傾けるセリエル。
すぐに話を開始するかと思いきや、博士はセリエルの方をチラッと見る。
この視線はおそらく――――――――――――
「私は失礼しますね」
セリエルはお辞儀をした後、すぐさま研究室から出た。
無論、そのまま居座って彼の話を聞く事も可能であったが、セリエルは“ストイムフィールド”が何の事だと理解していたため、聞く必要もなかった。
まあ、“国家機密”の情報のため、赤の他人には知られたくない雰囲気を博士の視線から感じたしね・・・・
そう考えながら、セリエルはジェンド博士の研究室を後にする。
※
「では、”ストイムフィールド”について話そう・・・」
セリエルが研究室を出て行った後、話し始めようとするジェンド博士に対し、ナチもしっかりと聞く体勢を取る。
「ナチ君。君ならば“8人の異端者”が何か・・・知っているかね?」
「あ・・・・はい。この世界がまだ本来の姿だった頃、世界を破滅させようとした、異民族達の集まり・・・ですよね?」
「そうだ」
博士はゆっくりと頷く。
「“彼らは「星の意思」と、最後の力を振り絞った人類によって敗北を余儀なくされた”・・・ここまでは、一般人も知っている史実。しかし・・・」
「しかし・・・?」
「ここから先は、一般的に公開されていないのだが・・・。奴らに勝ったとはいえ、異端者たちを完全に倒したわけではなかった・・・。“完全に滅ぼす”ことが叶わなかった人類は、その優れた科学力にて「時の牢獄」を作り上げた・・・」
「それが・・・・“ストイムフィールド”・・・ですか?」
ナチは恐る恐るジェンド博士に尋ねる。
「ああ。この“ストイムフィールド”とは、その中では全く時間が進まないようになっている。そういった空間に“8人の異端者”を閉じ込める事で封印し、2度と出て来れないようにしたのだ・・・・」
“時の止まった空間”・・・当時の人々に、そこまでの科学技術があっただなんて・・・・
ナチは驚きと戸惑いの表情でいっぱいだった。
「では、今日調査したあの遺跡は・・・・・」
「おそらく、ストイムフィールドを封印していた場所なのだろう・・・。ただ、こうも簡単に中に入れた事だけが腑に落ちないが・・・」
その台詞を聞いた瞬間、ナチは身を乗り出して話し出す。
「やっぱり、ジェンドさんもそう思われていたんですね・・・!!?」
急に身を乗り出してきたので、驚いた博士は一瞬オドオドしていたが、すぐに元の表情に戻る。
「・・・・“ストイムフィールド”を作り出すくらいの科学力を昔の人間(彼ら)は持っていた・・・。例えその時から数百年経っていようと、そう簡単に中へ入れるのはおかしいからねぇ・・・・」
その場で沈黙が続く。
ナチは何から話し出せばいいかわからなくなりつつあったが、ふと思い出した事を口に出す。
「正確には・・・その事に気がついたの、俺ではないんです・・・・」
「ほぅ・・・」
恥ずかしそうな表情で離すナチに、興味深そうな表情をするジェンド博士。
「セリエルさん・・・・俺と一緒に貴方を護衛していた女性の少尉が言っていたんです。“こうも簡単に入れるのはおかしい”と・・・」
「・・・あの銀髪の女性が・・・?」
ナチの台詞を聞いて、博士は呆気に取られる。
「ナチ君」
「あ・・・はい!なんですか・・・?」
我に返った博士は、ナチに真剣な表情で話しかける。
「セリエル少尉・・・といったかね。彼女の右目下にあるあの痣・・・・。あれはもしや、生まれつき持つものではないかね?」
「あ、はい。そうで・・・・」
頷こうとした瞬間、「しまった!」と気まずいような顔をするナチ。
そうだ・・・これは、セリエルさんから内緒にしておくよう言われていたんだ・・・やばい・・・!!
言ってはいけない事を言ってしまったナチは何て言えば良いかわからなくなる。それを見かねたジェンド博士は、ため息をついた後に口を開く。
「大丈夫、君から聞いたとは本人には言わないよ。ただ、あの痣が気になっていたからね・・・・」
「・・・もしかして、ジェンドさんはあの痣が何なのか知っているのですか・・・・?」
再び、彼らの間に沈黙が流れる。
「これはわたしの直感と憶測だが・・・・」
「え・・・?」
いきなり話し出したので、ナチはドキッとした。
「セリエル少尉・・・・だったね。彼女には今後、何かとてつもない危険が迫ってくるかもしれない・・・。そんな気がするのだよ・・・」
ナチはこのジェンド博士が言う直感による憶測を聞いた事があった。
そして、過去においてその憶測が的中した事もあったので、冗談とは全く思っていないようだ。
「・・・はい」
低い声でナチは頷く。
「だから、もし彼女が君にとって大切な人ならば・・・・わたしみたいな老いぼれの直感だけれど、気にかけてやってくれんかね・・・・?」
“とてつもない危機”か――――――――――
夜空に浮かぶ満点の星を眺めながら、ナチは考え事をしていた。ジェンド博士の憶測は、学者的にちゃんと考えて言う言葉なので外れないとは思われるが、必ずしも当るというわけではない。ナチはひたすら、この平和な生活が続く事を祈りながら、帰宅していく。
しかし、後にセリエルには重大な危機が訪れ、ナチ自身もそれに巻き込まれるとは、この時の彼は当然知るよしもなかったのだった――――――――――
いかがでしたか。
ちなみに、内部調査を行った遺跡はエジプトのピラミッドの中のようなイメージを持って書いていました!
書いていて思った事は、「人間の直感って馬鹿にはできないな」という事です。この”Right”が同タイトルの”Left”とどう絡んでくるかはおおよそ考えてあります。なので、Left⇔Rightと交互に読んでいただければ、幸いです。
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