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ガジェイレル-Right-  作者: 皆麻 兎
最終章 終焉
23/23

最終話 心

 ドサッ・・・

ハデュスの刃に貫かれたナチが地面に倒れるまでの数秒間―――――これがセリエルにとっては物凄く長い時間のように感じられた。

「ナチ!!!」

地面に倒れたナチをセリエルは抱き起こし、必死になって揺さぶる。

その時、セリエルの両手にベットリとした感触の何かが付着したことに気がつく。

ドクン

セリエルの心臓が強く鳴った。

「あ・・・・・・ああ・・・・・!」

自分の両手を見つめたセリエルの表情かおは、見る見ると青ざめていく。

彼女の両手は、ナチの腹部から溢れる血によって真っ赤に染まっていた。

 私を・・・庇って・・・?

血を目にした途端、セリエルの頭の中は真っ白になり、何も考えられない状態になる。


「セリエル・・・さん・・・」

「!!!」

セリエルの眼下から、ナチの弱弱しい声が聞こえる。

彼が意識を取り戻したのを確認したセリエルは、今にも泣きそうな表情でナチの手を握った。

「どうして・・・どうして、私なんか・・・!!」

セリエルはなぜ、ナチが自分を庇ったのかが理解できなかった。

“この世で最も異質な存在もの”として生まれ、世界を滅亡させる道具としての価値しかない自分・・・。セリエルは自身のことをそういう捉え方をしていたのだ。すると、ナチは息切れをしながらゆっくりと口を開く。

「・・・周囲がどう言っても・・・貴女を愛しいと思う気持ちに・・・嘘・・・偽りはないんです・・・。それに・・・」

「それに・・・?」

ナチに問いかけるセリエルの声は、ひどく震えていた。

「どうせ死ぬなら・・・大好きな女性ひとのために・・・死にたい・・・。だか・・・」

「ナチ・・・!!?」

何かを言いかけた直後、ナチは苦しそうな咳をする。

それとほぼ同時に、口から吐き出される血・・・それを見たセリエルは、ナチの身に何が起きたのか、唐突に理解をした。

「不治の病に・・・冒されて・・・いたのね・・・」

現代の科学では治せない奇病――――――――それに冒されたことを理解したセリエル。

「それだったら、尚更、生きて・・・生き抜かなきゃ・・・!!!あんな・・・あんなに素敵なご両親を残して先に逝くなんて・・・私が許さない!!!」

思いのたけを叫ぶセリエル。

彼女にとっては、産まれて初めて・・・感情を露にした瞬間だった。その瞳からは、涙がとめどなく流れる。それこそ、産まれたての赤子のように――――――――――

その涙は、ナチの頬をくすぐる。セリエルの表情をジッと見つめていたナチは、右腕をゆっくりと持ち上げ、彼女の目尻にある涙をすくう。

「・・・っ・・・」

セリエルは、今にも泣き叫びそうな自分の口を歯を食いしばって開かんとする。

ナチが差し伸べてくれた右腕を、彼女は両手で強く握った。


「セリエル・・・さ・・・ん」

「ん・・・?」

「自ら・・・の・・・宿命に・・・、負けないで・・・ください・・・ね・・・」

「え・・・?」

「あなたは・・・1人じゃない・・・か・・・ら・・・・」

大人が子供をなだめるような優しい口調で言った後・・・セリエルの涙をすくっていたナチの右手が、地に落ちるかのようにして倒れた。

最期の言葉を言い残したナチは――――――――微笑を顔に浮かべながら、眠るように息を引き取った。


 その後、どれくらいの時間が経過したのかはわからない。そもそも、時間が流れている事すら忘れてしまうほど、辺りは静かになっていた。

瞳を閉じたナチの顔を、セリエルはただ呆然と見つめている。

「ナチ・・・」

今、目の前で起こっている事が・・・夢ではないかと錯覚するセリエル。

しかし、自分が握り締めていた彼の右腕を離した途端、支えを失った塔のようにナチの脇をつたい、地面に落ちた。

「ナチ・・・。ねぇ・・・起きてよ・・・」

呼びかけても、返事が返ってこない。

いつもだったら、笑顔で呼びかけに応じてくれるナチ。その瞳も眉すらも動かない状態に、セリエルは恐怖する。

 人は皆、いつかは死を迎え、土に還る―――――――それはわかりきっている事なのに・・・

「胸が・・・苦しい・・・!」

軍人として、今までいろんな人間の死を間近で見てきたセリエルだったが、なぜ今回はこんなに胸が苦しいのか・・・今にもはち切れそうなくらいの痛みを感じるのか・・・理解しようとする余裕が、彼女にはなかった。

「あ・・・・」

その時、セリエルの頭の中には、ナチが自分を庇って敵の刃にかかった光景が浮かぶ。

「私の・・・せ・・・い・・・?」

セリエルの鼓動が段々強くなる。

「私が・・・“世界のガジェイレル”・・・だったから・・・」

思ったことを口にするセリエル。

再び俯くと、そこには物言わぬナチの姿があるだけ・・・

「いや・・・いやよ・・・!」

セリエルが初めて・・・心を開き、共に歩んできた男性ひとの死を受け止められない状態だった。今まで押さえてきた感情が胸から弾け、その想いは声となって周囲にこだまする。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」

涙に濡れて真っ赤となった表情かおで、セリエルは絶叫する。

その叫びは、今にも消えてなくなってしまうかのように、悲痛な叫びだった。

しかし、現実は彼らを放っておいてはくれなかった。

ただひたすらに泣き叫ぶセリエルの前後に、鋭い眼差しで見下ろす敵が彼女を囲む。




その後、セリエルの視界は光も音もない漆黒の闇に包まれるのであった―――――――――――




          ※



 それから数時間が経過し、誰一人いなくなった森林公園を1人の青年が訪れる。長い紺色の髪に黒い瞳を持った男は、以前にセリエルが異空間で出会った青年――――ラゼだった。

彼は、周囲を見渡す。魔術によって凍った木々や、何かの衝撃で破壊された木。そして、地面に僅かに残っていた血痕・・・

「“8人の異端者”・・・。やはり、彼らの目的は・・・」

ポツリと呟いた後、惨劇の起きたこの場所をただ見渡すラゼ。

「もう一人の“世界のガジェイレル”アレン・・・。この世界の行く末は、あとは君次第・・・だよ」

意味深な台詞を告げたラゼは、そのまま森林公園を後にし・・・いずこかへと去っていった。


 その後、セリエルの行方を知る人は誰一人としていない。「心がない」と考えていたセリエルは、自分の心の在り処を知り、人間ひととしての人生を歩むことができた―――――しかし、それ故に愛する人を失う悲しみを味わい、セリエルの心は完全に閉じられてしまったのだ。

 

“世界のガジェイレル”として、世界を滅ぼす最終兵器ファイナルウェポンの“鍵”という宿命を背負っていたセリエル・・・。彼女が敵の手に落ちた事で・・・世界の行く末は、一人の青年の手に託されたのであった―――――――――






                                   <完>


いかがでしたでしょうか。

大抵、最終回を執筆した後は達成感を感じるものですが・・・この物語の終わり方は、あまりにもせつない結末です。

サブタイトルにつけた”心”とは、初めて、人としての人生を歩むきっかけとなった、セリエルの”心”。彼女を愛しく想い、精一杯生きて欲しいと願うナチの”心”・・・・そういったいろいろなモノや人々の想いをこめて、今回はつけさせていただきました。


こんな終わり方ではありましたが、第1話からご一読戴いた皆様、最後までご覧戴き、誠にありがとうございました。

また、同タイトルの『Left』はまだまだ続きますので、引き続き応援をよろしくお願い致します。

それでは、また・・・

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