第22話 生きるための戦い
「っ・・・」
閉じていた瞳を、恐る恐る開くナチ。
「クウラ・・・!!?」
ナチは、自分の上に誰かが覆いかぶさっている事に気がつく。
急いで起き上がると、クウラがナチを覆うような形でうつ伏せに倒れていた。
「クウラ・・・おい!!大丈夫か!!?」
倒れているクウラを揺する。
しかし、彼は全く反応しない。首筋を触ると、脈はあったため、気絶しているだけだとわかる。
「お前・・・俺をかばって・・・!!?」
気がつくと、彼らの側には倒れた木があった。
・・・あれが頭に当たったのか・・・
とりあえず、親友が頭をぶつけただけとわかったナチは少しだけ安心していた。
「コソコソしているから、何かと思えば・・・下等生物が、僕らに何の用かな?」
気がつくと、頭上には変わった風貌をした男がいた。
燃えるような紅い髪――――――そして、その瞳から見られる殺気は半端ではない。
なんだこいつ・・・!!?
恐怖にも似た殺気に、鳥肌の立ち始めるナチ。すると・・・
「ナチ・・・伏せて!!!」
「!!!」
男の背後からセリエルの叫び声を感じたナチは、瞬時に顔を伏せた。
ドカカカカッッ!!!
何かが突き刺さる音が聴こえた後・・・後ろを見ると、背後にあった大木に氷の槍のようなモノが突き刺さっていた。
「あ・・・」
ナチは、森林公園の入り口で見つけた氷を放ったのがセリエルだと気がつく。
また、自分たちの目の前にいた男が、少し離れた場所に移動していた。目の前を見ると、そこには汗だくになっていたセリエルの姿がある。
「セリエルさん・・・これは一体・・・!!?」
ナチは何が起こっているかわからず、食い入るようにセリエルを見つめる。
必死な表情をしているナチにセリエルは口を濁すが、すぐに口を開く。
「・・・とにかく、クウラを連れて逃げて・・・!!!」
「・・・!!?」
セリエルの背後に、ガッチリとした体型の男が大きな剣を構えていた。
パン!!!
セリエルの背後にいた男が彼女を攻撃しようとしていたのに気がついたナチは、反射的に銃を放つ。その銃は、男の首筋を僅かにそらし、後ろにあった木に当たった。
一瞬の出来事で呆気に取られていたセリエルは、瞬時に後ろを振り向く。
「動くな!!!」
セリエルの背後にいた男に、ナチは再び銃を向ける。
事情はわからないけど・・・クウラが言っていたように、セリエルさんはこいつらに襲われてるようだな・・・!!
手に汗を握りながら、敵に銃口を向けるナチ。
「・・・人間にしては、腕の立つようだな・・・」
銃を向けられた男は、ニヤニヤした表情でナチを睨む。
「セリエルさん・・・早くこっちに・・・!!」
「ナチ・・・」
用心をしながら、歩き出そうとするセリエル。
「次は・・・当てるぞ・・・!!!」
そう叫んで相手を威嚇するナチは、気絶したクウラが所持していた銃を、紅い髪の男の方にも向ける。
その後、ナチの元へセリエルがたどり着く。
「ナチ・・・あなた、どうしてここに・・・!?」
「セリエルさんこそ・・・!!一体、ここで何・・・」
ボタッ
ナチが両腕で銃を構えている体勢で、言葉を言いかけていた時だった。
無意識の内に咳をしたと思った瞬間―――――――ナチの視界に、紅い液体が入ってくる。
そして、それは口から頬をつたり、地面に1滴2滴と落ちて行く・・・。
「あ・・・・」
「ナ…チ…!!?」
ナチの異変に気がついたセリエルの表情が、見る見ると青ざめていくのが見える。
ここ数日、任務で忙しかったナチは、自分が犯している病魔が進行している事をすっかり忘れていたのだった。
そして、血を吐いた状態をそれを見てしまった状態で固まっている2人は、ナチの前方にいた男が、大剣を振ろうとしている事に気がついていなかった。
「!!!」
「きゃぁぁぁっ!!!」
男が持つ大剣から、衝撃波のようなモノが生まれた直後・・・ナチとセリエルの身体が飛ばされる。
ナチの吐血という一瞬の隙をついて、敵は攻撃してきたようだった。
「ぐっ・・・!!?」
大木ぶつかったのか、頭に強い痛みを感じるナチ。
く・・・そ・・・っ・・・!
頭をぶつけた衝撃のせいか、ナチの意識が少しずつ薄くなり―――――――再び、彼の視界は真っ暗になるのであった。
※
「痛っ…」
大剣を持った男――――――タイドノルが放った衝撃波で飛ばされたセリエルとナチ。
「・・・ナチ!!!」
気がつくと、自分を庇うようにしてナチが倒れていた。
気絶してる・・・
本来だったら、木に激突しているはずが・・・ナチがいたおかげで、軽い打撲程度で済んだことにセリエルは気がつく。
バチバチバチッ!!!
ハデュスがセリエル達に向けて放った矛が、彼女の結界に弾かれる。
「あーあ・・・弾かれちゃったかぁ・・・」
軽いため息をついたハデュスは、自らの指から伸びた矛を伸縮させて元に戻す。
その場からゆっくりと立ち上がったセリエルは、この2人の敵をギッと睨み付ける。
「・・・てめぇはなぜ、俺達と対峙しているのか・・・全部知っているんだろう?・・・これ以上被害を大きくしたくないなら、おとなしく捕まった方がいいんじゃねぇか?」
タイドノルが持つ白銀色の瞳が、セリエルの顔を捉える。
「そうだよ。どんなに足掻いても・・・君と彼が再び(・・)一つになる事で、最終兵器が発動し、世界は滅亡する・・・。この事実は変えられないのだから・・・!」
ハデュスの台詞に耳を傾けながら、深刻な表情をするセリエル。
やっぱり、“8人の異端者”と呼ばれていた彼らの目的は・・・・私とアレン(彼)を利用して、世界を滅ぼす事・・・。でも、私は――――――――――
心の中で叫びながら、セリエルは重たくなった口を開く。
「・・・たとえ自分が、世界を滅ぼす兵器の鍵であろうとも・・・大切な人々を守り、人間として生きる・・・。そう誓ったのだから・・・!!!」
真剣な表情で、今思っている事を口にするセリエル。
「・・・お前たちの好きにはさせない!!」
覚悟したような瞳になったセルエルは、敵に目掛けて走り出す。
・・・私一人で、この2人を倒す事は厳しいかもしれない・・・。だったら、彼らを道連れにし、地獄への旅路につきあってもらうわ・・・!!!
セリエルは、自分のせいで世界が消えてなくなる事を何よりも恐れていた。「自分には心なんてない」・・・最初はそう考えていても、ナチやいろんな人々と関わる内に―――――“心”の在り処を知った。
彼らが私を生きたまま捕らえるつもりという事は、まだ100%の力を出し切っていないということ。・・・それなら、こちらにも勝機はある・・・!!!
セリエルはまず、気絶しているナチやクウラを彼らから離そうと考え、木々の生える場所へと走りこむ。
「待ちやがれ!!!」
タイドノルは、この真相に気がついていないようで、釣られるかのようにしてセリエルを追いかけ始める。
セリエルは、攻撃を仕掛けないで、ずっと森の中を逃げ続ける。
ここと、ここと・・・あとは・・・!!!
走りながら、時折地面に一瞬だけ触れていくセリエル。
「この・・・ちょこまかと・・・!!」
セリエルを追いかけるタイドノルが、少しイラついているのが口調から聞いて取れる。
タイドノルは、力こそ強そうだけど、スピードであったらまだセリエルの方が優れている。そういう相手は、自分と戦うには相性が良いと彼女はわかっていた。
「агдё…!!!」
後ろを振り返って立ち止まったセリエルは、呪文らしき古代語を口走る。
すると、セリエルが先ほどまで手をついていた場所が、瞬時に光を放つ。そして、光と同時に・・・地面から木の幹でできた縄のようなモノが出現する。
「・・・なんだこりゃあ!!?」
セリエルが地面に打ち付けていた魔方陣から現れたモノは、タイドノルの巨体をがん柄締めに縛り上げ、拘束する。
これまで使用していた魔法と比べて少し高度な術を使ったセリエルは体力を大きく消耗し、息切れを起こしていた。
「あんたたちなら知っている・・・魔法よ。・・・馬鹿みたいに着いてきてくれて、助かったわ・・・」
「この女―――!!!」
タイドノルは鋭い瞳でセリエルを睨み付けるが・・・魔術で出現した幹のようなモノで全身を拘束され、そう簡単には抜け出せない状況になっていた。
あと・・・一人・・・!
とりあえず敵の一人を押さえつける事に成功したセリエルは、もう一人の敵であるハデュスを見つけようとする。
「・・・!!!」
タイドノルから視線をそらしたその時だった。
何かがチラッと見えたかと思うと・・・セリエルの首筋を2本の矛が挟んでいた。鋭く伸びた矛は後ろにあった大木を貫き、僅かにかすった首筋からは血が少量垂れていた。
「何かあるとは思っていたけど・・・君、なかなかやるねぇ・・・」
ひょうひょうとした口調で話しながら、ハデュスが近づいてくる。
しかし、その瞳は決して笑っていなかった。
「・・・・」
「さて・・・」
大きなため息をついた後、ハデュスの口が開く。
「君はおそらく、“自分は殺されない”と思っているよね・・・?確かに、君を生け捕りするように言われてはいるけど・・・それはあくまで、“殺すな”・・・ってだけのこと」
その鋭い眼差しで見つめられた時、セリエルは悪寒を感じる。
「・・・・要するに、君が死にさえしなきゃいいんだから・・・。多少傷がついても、問題ないって事なんだ」
「ああああっ・・・!!!」
2本の指から放たれた矛でセリエルを捕らえているハデュス。
そこから更に小指から放たれた矛が・・・セリエルの左手の甲を貫く。その苦痛によってあげられた悲鳴が、周囲に響く。
「・・・いいねぇ、その声。やっぱり、女性をいたぶる時に聴ける悲鳴は最高だね・・・!」
そう呟くハデュスの表情は狂気に満ちていた。
痛みのせいで・・・呪文の詠唱に集中できない・・・!!!
致命傷ではないとはいえ、掌を貫かれた痛みは半端なかった。本来なら、自分の首を挟んでいる矛を魔術で破壊したいのに、敵の攻撃でそれすらできない・・・。悔しくてたまらないセリエルの視界には、鋭い矛が伸縮する左手が振り下ろそうとしているのが見えた。
「!!!!」
死など恐れていないはずなのに・・・セリエルは、振り下ろされる矛に対して、無意識の内に目をつぶる。
ズバッ
刃が肉体を切り裂く音が、セリエルの周囲に響く。
・・・痛みが・・・な・・・い?
確かに、斬られたような音はしたのに・・・セリエル自身は全く痛みを感じていなかった。
何が起きたのかわからないセリエルは、恐る恐る目を開く。
「え・・・?」
セリエルの瞳に入ってきたのは、見慣れた軍服を身にまとう黒髪の男性。
その見覚えのある人物の顔を見た途端、セリエルの心臓がドクンと鳴る。
「ナ……チ・・・・・・?」
なんと、セリエルの目の前に立ちふさがっていたのは・・・気絶しているはずのナチであった。
「セリエル・・・さん・・・」
安堵したような微笑みをセリエルに見せるナチ。
「・・・!!!」
驚きの余り、声を失うセリエル。
目の前に現れたナチの腹部には・・・自分を痛めつけていた矛先が食い込んでいる。
「・・・よかった・・・」
セリエルに精一杯の笑顔を見せたナチは・・・ハデュスが矛を抜き取るのとほぼ同時に、地面へと倒れこむ。
ブチン
セリエルの中で何かが音を立てて崩れたような瞬間であった―――――――
いかがでしたか。
今回に関しては・・・なんと書けばよいのか・・・です。
これを読んだ方はなんとなくわかるかもしれませんが、この作品・・・恋愛漫画のようにハッピーエンドでは終わりません。
・・・次回は最終回となりそうです。
ではまた・・・