第21話 平穏の終わりを告げる炎
今回はセリエル→ナチの視点で話が進みます。
「ユカさん。・・・どうかしたんですか?」
ナチの家で夕飯を食べていたセリエルは、食後に慌てた表情で現れたナチの母親ユカに声をかける。
「ああ・・・何かね、うちの近くにある森林公園から火の手が上がっているの・・・!」
「え・・・!?」
セリエルは民家から出た火ではなく、森が火事になっている事に驚く。
「セリエルさん・・・!」
ユカが止める間もなく、セリエルはフラトネス家の扉を開けて外に出てみる。
「あれは・・・!!」
ナチの家から少し離れた場所にある森林公園から、確かに火の手が上がっていた。
このかんじ・・・ただの火事ではなさそうね・・・!
外に出たセリエルは、公園から微かに“殺気”のようなモノを感じ取っていた。それによって、人為的なモノだと悟り、その公園に向けて走り出す。火の手はまだ住宅街には届いていなかったが、民家に被害が出るのは時間の問題である。セリエルは辺りを見回しながら、少しだけ違和感を感じていた。
森林公園に近づけば近づくほど・・・初めてのはずなのに、どこかで感じた事のある気配を感じる・・・
“デジャヴ”を感じている自分を、不思議に思いながら、森林公園へと走ってゆく。
「はぁ・・・はぁ・・・」
森林公園に到着したセリエルは、ナチの家から止まらずに走り続けたため、息があがっていた。
「やはり、この炎・・・」
木々に燃え移る炎を見つめるセリエル。
その後、彼女は呪文の詠唱を始めた。すると、セリエルの周囲に氷が出現し、火が燃え移った木々を凍らせていく。
これで、少しは大丈夫かしら・・・
内心そう思ったセリエルであったが、これで終わりでない事も理解していた。
今唱えた魔法で、半分近くの消火は終わったものの・・・この火をつけた人間を探し出さないと、また同じような状態に戻ってしまう。・・・だから、犯人を捜さなくては・・・
そう考えながら、森林公園の奥へと足を踏み入れて行く。
「・・・あそこが、公園の中心となる場所かしら・・・?」
進んで行く内に、広場のような場所にたどり着く。
しかし、その場所には人の気配がなく・・・不気味なほど静かだった。
・・・逃げたのかしら・・・?
セリエルは周囲を警戒しながら、ゆっくると歩き出す。いつでも銃を構えられるような体勢で進んで行く。
「・・・?」
セリエルは、地面に生えている草が一部だけ変になくなっている状態に気がつく。
「あの炎は・・・魔術ではなく、武器から発した炎・・・?」
この不自然な状態になっている草に疑問を抱くセリエル。
「そういう事だぜ」
「!!?」
下を向いて呟いていたセリエルは、自分の背後に誰かがいる事に気がつく。
そして、腕に鳥肌が立ったのとほぼ同時に、彼女は瞬時に向きなおして声の聴こえた方角に銃を向ける。そして、銃を構えた後に少しだけ後ろに下がったセリエルは、背後にいた人物を睨む。
「あなたは・・・!!!」
セリエルの視線の先にいたのは・・・ガッチリとした体格に濃い茶髪と白銀色の瞳を持ち、その背中には身の丈並の大きさがある大剣を担いだ男が立っていた。
「ん・・・?俺様、あんたと会うのは初めてのはずだが・・・?」
セリエルの困惑に満ちた表情を見たその男は、首をかしげながら呟く。
アレンと肉体が入れ替わっていた時・・・夢の中に出てきた男・・・!!?
その姿を見て、なぜ“初めてではない感覚”を覚えていたのかに気がつくセリエル。しかし、驚きの余り、声を失っていた。
「この娘は、あの青年の“中”に一度いたらしいから・・・その時に君を見たんじゃない?」
「えっ・・・!!?」
横から見知らぬ男の声が聞こえてくる。
その直後、茂みの中から出てきたのは――――――燃えるような紅い髪をし、大剣を担ぐ男とは対照的でほっそりとした肉体。そして、ベルトのようなモノを身体に巻きつけたような・・・変わった風貌をしている男だった。
「貴方たち・・・まさか・・・!!!」
セリエルは目を凝らしてよく見た後、彼らが何者だという事に気がつく。
尖った耳と大剣・・・そして、この“獣に近い気”を感じる男・・・間違いない・・・!!
冷や汗をかきながら、静かに彼らを睨み付けるセリエル。
「・・・どうやら、あんたは“あいつ”よりいろいろ知っているというのは・・・本当のようだな・・・!」
「そうだね。“彼”と違って、魔法も使えるみたいだし・・・」
「・・・」
「まぁ、一応改めて紹介といこうか。俺様は、“8人の異端者”が1人、“魔人タイドノル”!」
「・・・同じく、“8人の異端者”が1人、“野獣ハデュス”だよ」
2人の男が名乗り出た後・・・少しの間だけ彼らの間に沈黙が走る。
その間、セリエルは内心でかなり動揺をしていた。そのため、無意識の内に銃を下ろしていることにすら気がつかないのであった。
「“8人の異端者”が復活した」というアレン(かれ)の話・・・本当だったのね・・・!!
この時、セリエルは世界統合と同時に、忌まわしき存在の者たちが復活してしまった事を改めて認識する。その後、セリエルは動揺を相手に悟られないように、冷静のような口調で話しだす。
「・・・公園とはいえ、街中でこんな火事を起こすなんて・・・何が目的!!?」
セリエルが持つ赤紫色の瞳が、2人の“異端者”を睨み付ける。
周囲は緊迫した空気が広がり、今すぐにでも戦闘が始まりそうな状態であった。
「フフ・・・」
「!!?」
「フフフ・・・アハハハハハハ!!!」
何がおかしいのか、ハデュスが高らかな声で笑い出した。
その笑い声を聞いたセリエルは少しムッとする。
「何がおかしいの!!?」
「・・・察しのいいあんたが、そんな事ほざくからじゃねぇのか?」
笑いをこらえようとしていうハデュスの隣で、タイドノルが答える。
そう答えたタイドノルの表情が他人を馬鹿にしているような雰囲気だったため、セリエルは更に不快感を強める。
「ああ・・・ごめんごめん。だって、なぜこの国の(・・・・)こんな場所で火事を起こしたなんて・・・考えればすぐわかるのに・・・!」
「・・・!?」
辺りの空気が・・・変わる・・・!!?
周囲の空気が変わったように感じたセリエルは、再び銃を向けて2人を睨む。
「僕らがこんな事したのは・・・君をおびき出すためだよ。・・・“世界の心”」
「!!!」
驚きの余り、身体を硬直させるセリエルの事はお構いなしに、タイドノルは担いでいた身の丈ほどある大剣を掴む。
「俺達と一緒に、来てもらおうか・・・!!!」
※
「これは・・・一体・・・!!?」
軍司令部から、自宅近くにある森林公園まで走ってきたナチとクウラ。
周囲を見渡すと・・・入り口付近にある木々のほとんどが、氷で固まっていた。
「これってまさか・・・魔術・・・?」
「魔術って・・・?」
信じられないような表情で呟くナチに、クウラは首をかしげながら問いかける。
すると、ナチは氷で固まった木に手で触れながら答える。
「文献でしか見たことしかなかったんだけど・・・なんでも、特殊な言葉“呪文”を発する事で、火や水・・・風や雷といったモノを出現させるモノらしい」
「・・・要は、特殊な武器・・・といった所か?」
「・・・だな」
半信半疑の状態だったクウラは、辺りを見回しながら奥へと進んで行く。
ドンドンドン!!!
「銃声・・・!!?」
少し離れた場所から、銃声が聞こえてくる。
「この先は確か・・・」
ナチは、走りながらこの先に広場のような場所がある事を思い出していた。
「ナチ!隠れろ!!」
「えっ!!?」
クウラが突然、ナチに向かって叫ぶ。
その後、木陰に隠れた2人は恐る恐るその先にあるものが何かと覗き込む。
「・・・!!?」
すると、2人の視線の先にいたのは――――――私服を着たセリエルと、見知らぬ男達であった。
さっきの銃声・・・。もしかして、セリエルさん・・・!!?
ナチは目の前で起きている事に驚きつつも、セリエルの腕にある拳銃が目に入る。
「彼女が戦っている相手・・・何者だろう?」
隣の木に隠れているクウラが、小声でナチに話しかける。
「わからない・・・。ただ、俺の予想があたっていれば、あいつらはきっと・・・」
戦いの様子を見つめながら、ナチは考え込む。
あの茶髪で耳が尖った奴は、数百年前・・・一族の中で“禁忌”を犯し、追放された巨人族の男・・・。
「やっぱり・・・」
ナチはその先を口にしなかった。
深刻な表情をして考えるナチを見ていたクウラは、意を決したかのような表情で口を開く。
「僕が見る限り、セリエルさんは奴らに襲われているかんじだな。だからナチ、僕は彼女の助太刀をし、そのまま逃がす!・・・君には、銃での援護を頼みたい」
「クウラ・・・!でも・・・」
「応援を呼べばいい」と言おうとしたが、ナチはそれが厳しい事を状況から見て悟った。
そうだよな・・・。あの2人の男、人間離れした力をもっていそうだから、人を呼びに行っていたら最悪の事態になる可能性もある・・・。だから・・・!
ナチは両手に拳銃を握り締める。
「情けないけど・・・俺は近距離戦の向いてない人間だからな。でも・・・もし、奴らが君やセリエルさんを手にかけようとしたら・・・何がなんでも阻止する・・・!」
「・・・頼もしいね」
真剣な表情で断言したナチを見たクウラは、微笑んだ。
「じゃあ・・・行くよ!!」
「ああ」
つばをゴクリと飲み込んだ彼らは、目での合図と共に動き出す。
ナチは狙い撃ちをするのにちょうどよい場所へ。クウラは敵の死角へと回ることに。2人とも気配を消しながら移動していた。しかし―――――
「さっきから、なにコソコソやってるのかなぁーー?」
移動中に、一人の男の声が聞こえてくる。
ザン!!
その一言を言い終えたのとほぼ同時に、ナチやクウラの頭上に何かが切り裂かれる音がする。
「ナチ・・・危ない・・・!!!」
少し離れた場所から、クウラの叫び声が聞こえたかと思うと・・・ナチの視界が真っ暗になる。
いかがでしたか。
多分、今回は最後の一文からナチに何が起こったのか、はっきりとはわからないかと思います。一応、「いろんな場合を想定できるだろう」という趣旨でこういう終わり方をしたかんじですね☆
さて、次回はどう話が進むか・・・そして、セリエルやナチはこの”8人の異端者”の一部であるタイドノルとハデュスを倒せるのか!!?
そして、彼らがセリエルを連れ去ろうとしている目的は!!?
・・・次回をお楽しみに♪
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