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ガジェイレル-Right-  作者: 皆麻 兎
最終章 終焉
20/23

第20話 互いを想うひと時

今回はセリエル→ナチの視点で話が進みます!

 “世界統合”によって、レジェンディラスとアビスウォクテラの人間達は、事態を把握できずに混乱していた。セリエル達が暮らすギルガメシュ連邦では、何とか事の把握をして、事態の収拾に努めていたが――――――連邦にいる上層部の人間達は、復活した“8人の異端者”が各地で殺戮や破壊を行っているという事態だけは、未だ国民に公表できずにいた。


「う・・・・」

セリエルは重たくなった瞼をゆっくりと開く。

闇に覆われていた彼女の視界に、初めて入ってきたのは一人の女性だった。

「あなた・・・!彼女、目を覚ましたわ・・・!」

自分が目を覚ましたのに気がついたのか、その女性は部屋の外に向かって声をはりあげる。

頭の中がボンヤリしていたセリエルは、ゆっくりと上半身だけ起こす。

 ここは・・・どこなのかしら・・・?

辺りを見回すと、本棚や扉。自分が横たわっていたベッドの横には窓が見える。その状況から、どこかの民家だと、セリエルは推測した。

「・・・やぁ。目を覚ましたようだね・・・」

声の聴こえた方に振り向くと、先ほど声を張り上げていた女性と一緒に、50代くらいの男性がいた。

「・・・貴方は?」

「ああ、自己紹介がまだだったね。私はトキヤ・フラトネス。・・・ナチの父親だ」

「あ・・・!」

目を凝らしてよく見てみると・・・顔に輪郭や瞳が、どことなくナチに似ていた。

「・・・そして、こっちがうちの家内」

「ユカ・フラトネスです」

すると、隣にいた女性も挨拶をした。

「・・・いつも、あの子がお世話になっています」

「・・・こ、こちらこそ・・・」

2人の挨拶に対して、背筋を伸ばして聴いていたセリエルはしどろもどろになる。

状況を飲み込めていないセリエルの気持ちを察知したのか、トキヤは口を開く。

「ユカ。少し、席を外してもらえるかな・・・?」

「あ・・・そうね!じゃあ、夕飯の仕度でもしてくるわ・・・」

トキヤの表情から何を言いたいのかに気がついたユカは、ゆっくりとその場から去っていく。

そして、トキヤは深いため息をついた後、側にあった椅子に腰掛ける。


「えっと・・・。どういう経緯があって、現在いまに至るのか・・・教えていただいてもいいでしょうか?」

セリエルは、自分の目の前にいるのがナチの父親であることをはっきりと認識し、改まった口調で話す。

「・・・そうだね。わたしも、詳しくはわからないが、わかる範囲で説明しよう。まず最初に・・・君は、自分が深い眠りについていた・・・って自覚はあるかね?」

「・・・・・・はい」

セリエルは、その場で軽く頷く。

この時、彼女の頭の中ではもう一人の“世界のガジェイレル”であるアレンと肉体が入れ替わっていた時の事が浮かんでいた。

「・・・ナチの奴が任務先で何があったのか知らないが、虚ろな表情で抱きかかえられていた君を見た時・・・“軍の寮には置いとけない事情がある”と、わたしは察した」

「・・・そして、見ず知らずの私をここで匿う事にしたと・・・?」

セリエルは恐る恐る相手の顔を見る。

 嘘偽りのない表情かお・・・。そこから感じられる強い意志は、嘘をついているわけでもなさそうね―――――――

セリエルは疑っていた訳ではないけれど、見ず知らずの自分を匿うのに何か企みでもあるのかと考えていた。

「最初、虚ろな表情をした君に疑問を感じたが・・・」

途中まで言いかけた後、トキヤはセリエルの瞳から少しだけ目線を下げる。

「君の右目下にある痣・・・。それを見て、ピンときた。何故全く反応を見せず、人形のように横たわっていたのかを・・・!」

「!!!」

その台詞を聞いたセリエルは、思わず自分の右手で目下にある痣を隠す。

しかし、トキヤの真剣な表情かおを見た瞬間、セリエルは気がつく。

 そういえば、この男性ひと・・・

「ナチ・・・息子さんから聞きましたが、星命学者・・・だそうですね」

セリエルの台詞を聞いたトキヤは、黙って頷いた。

「そうですか・・・」

この時、セリエルは星命学者である彼だったら、自分が“世界のガジェイレル”だとわかるのも道理だと考えていた。

「そういえば・・・息子さんは?」

「ああ・・・。あいつはまだ、仕事中です。交渉術を身につけ、多言語を話せる若手の軍人はあまりいない・・・。そのため、最近は上からの仕事が多くて忙しくしているみたいだね・・・」

多くの仕事を与えられるのは、優秀な証拠であり、軍人としても名誉な事ではあるが・・・そんな息子の事を語る父親は、複雑そうな表情かおをしていた。

すると、セリエルの視線に気がついたトキヤは、笑顔に戻って話し出す。

「・・・いや。息子が前線で活躍してくれているのは嬉しいんだ。・・・わたしがこんな事言える立場ではないが、今のあいつには、どんどん上を目指してほしいし・・・」

「トキヤさん・・・。もしかして、貴方は・・・」

セリエルはこの先の台詞を、口には出さなかった。

「ははは、面目ない。一応、ガシエルアカデミーに在籍しているものの・・・いろいろとゴタゴタがあって、少し遠ざけられている状態でね・・・」

苦笑いをしながら、自分の状態を話すトキヤ。

 ゴタゴタ・・・。でも、ナチの父親であるこの人だったら、ありえる話かも・・・

セリエルは内心でそう思いながら、ナチの事を思い浮かべていた。

「あなたー!夕飯できたわよー!!」

「・・・おお。今行く・・・!」

扉ごしに、ナチの母親――――ユカの声が響いてきた。

すると、トキヤはゆっくりと立ち上がった後、セリエルを見て言う。

「さて!!辛気臭い話はここまでにして・・・夕飯にするか!・・・君も、ずっと眠っていたのだから、腹が減っただろう・・・?」

「あ・・・すみません・・・」

セリエルは、今にもお腹が鳴りそうなくらい、自分が空腹だという事に気がついた。

そしてセリエルは、ベッドから降りた後、トキヤと共に扉の向こうへと歩いていく。


          ※


 セリエルがナチの家で夕飯を食べていた頃――――――未だに軍司令部にいたナチは、やっと仕事を終えて、友人のクウラと共にいた。


「それにしても・・・憲兵おもての仕事ではなく、特務員こっちの仕事で、君と組む事になるとはなぁ・・・」

ナチの横でクウラが呟く。

「・・・何にせよ、安心したよ。自分の護衛兼補助に、クウラがついてくれた事には」

微笑みながら話すナチ。

イレルパタンからギルガメシュ連邦に帰還した後、ナチは上層部からの任務を数多くこなすようになっていた。しかも、扱う内容のほとんどは国民に公表できない事が多い。そのため、万が一を考えて特殊任務を扱う“特務員”を上層部から派遣されていた。・・・それが、彼の友人でもあるクウラだったのだ。

 軍の命令とはいえ・・・クウラと一緒に仕事ができるのは、嬉しいな・・・

ナチは、見ず知らずの人間が自分の護衛を勤めるより、顔見知りであるクウラが一緒にいてくれる方が信頼できるし、とても安心できる。

「そういえば・・・フラメン、まだ見つかってないのか?」

その一言が、友が不快にさせるのはわかっていたが・・・クウラの恋人でもあると同時に、自分の友人でもあるフラメンの事を、ナチは少なからず心配していた。

すると、クウラはため息をついて、重たくなった口を開く。

「・・・まだだ。でも、特務員うちの情報網によると、フラメン(あいつ)の実家がある村は、何かの襲撃で崩壊はしたものの・・・死体は見つかっていないから・・・どこかで、生きているはず・・・!」

そう語るクウラの表情が、とても真剣で「今すぐにでもフラメンを探しに行きたい」と言いたげな表情をしていた。

「・・・すまない」

「あ・・・。でも、ナチが謝る事ではないから・・・・!」

申し訳なさそうな表情かおをするナチに気がついたクウラは、少し慌てる。

「・・・っ!!?」

俯いていた状態から、ナチはそのまま咳をする。

彼が抑えた右手を離したのを見たクウラは、表情を一変させた。

「ナチ・・・君、まさか・・・!!」

ナチの右手には、紅い血が少しついていた。

 ・・・こんな所で、クウラにバレてしまうとはな・・・

息切れをしながら、ナチは内心でそう考えた。

「誰にも・・・言わないでくれ・・・!」

ナチは、息切れしながらクウラを鋭い眼差しで見る。

 余計な心配、かけさせたくないし―――――

この時、ナチの頭の中にはセリエルの事が浮かんでいた。


「そういえば・・・」

ポツリと呟くクウラ。

「セリエルさん・・・調子はどうだい?」

「・・・うん。まだ、体調が思わしくないみたいだ・・・」

「そっか・・・」

元の体勢に戻ったナチは、クウラと共に歩き出す。

 クウラを疑っている訳ではないけど・・・ジェンドさんが「セリエルさんの事は内密にしておけ」って言っていたしな・・・

セリエルはここ数日間、仕事を休んでいた。クウラには「体調が悪くて寝込んでいる」と言ってあり、本当の事・・・つまり、物言わぬ状態になっている事を話していないのであった。

「今は忙しいから難しいけれど・・・事が落ち着いたら、お見舞いに行くよ」

「ああ・・・ありがとう」

その台詞を聞いたナチは、胸が少しだけチクッとした。

言えない事情があるとはいえ、親友に対して嘘をついている事に対し、良心が少し痛んだからである。

「・・・あれ?」

何かに気がついたクウラが、目を細めながら周囲を見渡し始める。

「クウラ・・・どうした?」

「ナチ・・・あれ・・・!!!」

クウラは、ある方向を指差す。

彼らのいた場所がちょうど小高い場所だったため、市街地の景色がよく見える。そして、クウラが指差したのは・・・住宅街のすぐ側にある森林公園だった。

「・・・赤い・・・まさか、火事・・・!!?」

「ナチ!!!」

嫌な予感がしてきたナチは、全速力で走り始める。

すると、クウラも走り出した彼を追いかけた。

「ナチ・・・もしかして、あの場所って・・・!!」

「ああ!!あそこの住宅街は・・・俺の実家がある地区だ・・・!!!」

走りながら、2人は会話をする。

 ・・・民家からの火だったら、普通の火事だろうけど・・・。何か、嫌な予感がする・・・!!

ナチは走りながら、心臓をバクバクと言わせていた。

そうしてナチとクウラは、陽の落ちた街を駆け抜けて行く―――――


毎度、ご一読ありがとうございます。

おそらく約10日ぶりの更新になるかと思います。

やっと20話目まで来ましたが、実は最終話に近づきつつあるかんじです。

ただ、この『ガジェイレル-Right-』が同タイトルの『Left』より早く終わるというのは、連載開始前から考えていた事で・・・打ち切りとか、そういう事情では全くありません。


今回、ナチの両親であるトキヤとユカが初登場しましたが、名前を見てお気づきになられた方も多いかもしれないです。

主要キャラであるナチの名前を決めた時、「彼の家族が登場したら、彼みたいに日本人みたいな名前をつけよう」と連載前から考えていたのが、ようやく形になったという所でしょうか?

トキヤの仕事についてあまり深くは触れませんでしたが、一応、現役の学者。ただ、今は謹慎状態?みたいなかんじなので、なかなか仕事に行けない状況って所ですかね★


次回は、その火事の正体がわかるかと・・・でも、察しのいい方でしたら、この原因が何となくわかるかもしれません。

では、ご意見・ご感想をお待ちしてます(^_^)


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