第17話 宣戦布告
今回も当然ナチ視線ですが、最後の方で全く異なる視点が少しだけ入ります。
「8人の異端者」・・・その言葉はもう、歴史上でしか上がらない名称だとナチは考えていた。しかし、何がどうなったのか、幽閉されていた彼らが自分達の目の前にいる――――――その事実が、未だに信じられなかった。
「あたしも自己紹介するわ・・・!古代大戦前後に“8人の異端者”って呼ばれていた、魔術師のコルテラです!よろしくぅー♪」
堕天使ミトセの横で、紅い髪をしたニューハーフが自己紹介をしていた。
「古代大戦・・・!」
コルテラの台詞を聞いたナチが、目を見開いて驚く。
しかし、事情を飲み込んでいるのはナチだけで、ゲヘナの技師や、一緒にいたラスリアは何の事だか、さっぱりわからないでいた。
「えー!誰もあたしたちの事知らないのー??」
「・・・あれから数百年は経過しているのだ。当然だろう・・・」
地団駄するコルテラを、ミトセは静かに諌めた。
その後、ミトセは自分達の周りに集まっている人々を見て呟く。
「数百年ぶりに動くから、身体が訛っているかもしれないが・・・始めるか」
「了解♪」
そんな彼らの台詞を聞いた途端、ナチの全身に鳥肌が立つ。
空気が・・・変わる・・・!!?
嫌な予感がしたナチだったが、相手の行動を見てすぐに気がつく。
「危ない!!!!」
ドォォォォォォォォォォォン!!!!
コルテラの掌から炎が現れ、それはラスリアのいる方向に向けられていた。
「うぁぁぁぁぁっ!!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
コルテラの放った炎に当たった人々は、うめき声をあげながら、真っ黒に焦げていく。
一方、ナチはラスリアを抱えて、ギリギリ避ける事に成功していた。地面に転げ落ちるナチとラスリア。
「・・・大丈夫かい?」
「は・・・い・・・」
ナチは息切れをしながら、ラスリアの無事を確かめる。
それにしても、今のは一体・・・!?
ナチは、生まれて初めて見たモノに動揺を隠せなかった。地面からゆっくり起き上がると、そんな彼の心情を読み取ったのか、コルテラは狂気じみた声で話す。
「そういえば・・・ここにいる連中のほとんどは、魔法を知らないんだったかしらね・・・」
「!!!」
「魔法」・・・これも、ナチにとっては文献にしか出てこない古代の人間しか使えないモノと捉えていた言葉だった。
どうやら、今手のひらから出した炎の事を「魔法」というみたいだな・・・。だけど、そんな事よりも・・・!!
真っ直ぐな瞳で相手を見つめた後、ナチはつばをゴクリと飲み込んだ後に話し始める。
「おい!!コルテラ・・・とかいったな?」
「あら?」
「・・・なぜ、彼らを殺した!!?しかも・・・今の炎は、ここにいる彼女に向けて撃ったようにも見えたぞ!!?」
ナチは、炎に焼かれて灰になってしまった人々を一瞬見つめた後、はき捨てるようにしてコルテラを睨む。
そんな彼を見たコルテラは、軽いため息をつく。
「そぉーねぇ・・・。まぁ、そこにいる小娘が、シアっていう裏切り者の女じゃなかったから・・・憂さ晴らしって所かしら?」
「!!!」
コルテラに睨まれたラスリアは、身体をビクッとさせる。
「・・・あんたらが何を企んでいるか知らないけど・・・一般市民に手を出すな!!!」
そう叫んだナチの右手には拳銃が握られていた。
「・・・あんたねぇ・・・。いくら拳銃持っているからとはいえ、あたしたちに勝てるとでも思っているの?」
コルテラは皮肉るような口調で呟く。
「・・・貴様ら人間ごときでは、我々は倒せない・・・」
その横で、ミトセが鋭い眼差しでこちらを見ながら呟く。
そして、気がつくとミトセの右手が、何か赤黒い何かで染まっていた・・・・それは、血だった。
「・・・んなっ・・・!!?」
ナチとラスリアが辺りを見回すと・・・アレス達ゲヘナの技師や、ラスリアが言っていたライトリア教団と呼ばれる組織の人々も、半分以上が地面に横たわって死んでいたり、怪我を負わされている状態になっていた。
そして、怪我をしていない人達は、死んだ者達の返り血を浴びたせいか、恐怖の余り、その場に座り込んでいる。
「くっ・・・!!」
ナチは両手で握り締めた拳銃の銃口を、この堕天使達に向ける。
しかし、彼の手は震えていた・・・。軍人としての日が浅い彼は、訓練では優秀でも実戦経験はあまりない。それゆえに、本物の敵を目にしたせいか、手が震えてしまっていたのだ。
ミトセはなぜか一点を見つめながら、こちらに近づいてくる。
「・・・?」
堕天使の様子がおかしい事に気がついたナチ。しかし、ミトセが持つ金色の瞳から目をそらすことができず、ただただ相手を見つめていた。すると・・・
「うぁぁぁっ!!!」
ミトセが自分の右腕を掴んだかと思うと、ナチの身体は近くにあった木に飛ばされる。
「っ・・・!!」
木に激突した背中から、物凄い痛みを感じる。
「・・・ラスリアちゃん・・・!!!」
ナチが顔を上げると、彼を吹き飛ばしたミトセは、ゆっくりとラスリアに近づいていた。
「あ・・・」
白い翼を見せ付けるかのように羽ばたかせる姿に、ラスリアの表情は恐怖で青ざめていく。
ミトセは、そんな彼女の顎を指で持ち上げ、そのまま動きを止めていた。
あのミトセとかいう奴・・・何をしているんだ・・・・!!?
ラスリアを見つめたまま動かないミトセに、ナチは違和感を覚える。
その時だった。
「がっ・・・・!!!?」
ラスリアやミトセに夢中だった余り、ナチはコルテラの存在を忘れていた。
彼がナチの腹部に、一発の拳を入れる。
それをまともに受けたナチは、苦しそうな表情をしながら地面に倒れ伏す。
「あんたは、ここでお寝んねしてなさいな・・・!」
「・・・てめぇ・・・っ・・・」
ナチは意識が遠くなりながらも、コルテラを睨みつけようと上を見上げようとする。
「その顔と軍服を見て思い出したけど・・・あんたは、“生かされている人間”だったわね・・・」
「!?」
「どういう意味だ」と問いただしたい所だったが、ナチにはその台詞を口にする事ができなかった。
その後、ナチの視界は真っ暗になっていく。
腹を殴られた事で気絶したナチは、意識と無意識の狭間で、彼らの会話をおぼろげに聴いていた。
「それにしても・・・まさか、この・・・とあの坊ちゃんが・・・って・・・とはね・・・」
「・・・とは不思議な・・・だな・・・」
僅かに聞こえた会話なのか、具体的な内容は不明であった。
「なんにせよ、この・・・・今は接触・・・・ではない・・・ね」
「ああ・・・」
ミトセの頷くような声が聞こえたと思うと、ナチの方に近づいてきたのか、足音が聞こえる。
そして、ナチの周囲には、本当に何も聞こえなくなっていく・・・・。
「う・・・・」
地面に倒れていたナチは、ゆっくりと瞼を開く。
「・・・大丈夫か?」
頭上には、ゲヘナの技師で、上司の知り合いでもあるアレスの顔があった。
「アレスさん・・・俺は・・・?」
頭がボンヤリした状態で起き上がったナチは、アレスに何が起きたのかと問いかけるような表情をする。
すると、彼はバツが悪そうな表情をしながら話し出す。
「あー・・・街がこんなになっちまったが・・・。とにかく、これらを片付けたら、君の用件を聞こう・・・!・・・可能な範囲までしか対応できないが・・・」
「・・・・はい・・・・」
虚ろな表情で返事をしたナチは、ゆっくりと自分の後ろを振り向く。
「あれ・・・?」
頭の中がボンヤリするが、なぜそう感じるのかが、ナチは全く思いだせなかった。
俺の後ろに誰かいた・・・ような?
少し真剣に考えてみたものの、何も思い出せない。
「アレスさんが言うには、“8人の異端者”と名乗った奴らがここを襲撃してきたみたいだが・・・」
当然、“8人の異端者”と名乗った連中がこの街に訪れたのは知っていたが、どんな顔の奴らだったのか、全く思い出せないナチ。
・・・まぁ、いいか・・・
とりあえずは、「来の目的を果たそう」という想いを抱きながら、彼は立ち上がっていく。
※
ナチが、技師達の下へ向かい始めた頃・・・彼らを襲撃した当の本人達は、気絶したラスリアを抱えて移動していた。
「さて・・・ここいら辺でいいか・・・」
ミトセは、抱えていたラスリアを地面に下ろす。
「ねぇ、ミトセー・・・本当に“あの人”に報告しなくていいの・・・?」
不安そうな表情でミトセに尋ねるコルテラ。
質問の後、一瞬黙り込んだミトセは、ラスリアを見下ろしながら呟く。
「この娘が“あの方”と同じ、“古代種キロ”ならば・・・いずれわかる事だ」
「ふーん・・・」
コルテラは、堕天使を物珍しいような表情で見る。
「・・・いくぞ。“宣戦布告”するのは、ゲヘナ(あの街)だけではないからな・・・」
「はいはい・・・」
ミトセとコルテラは会話を終わらせた後、ラスリアをその場に置き去りにして、森の奥深くへと姿を消したのであった――――――――
いかがでしたか。
ナチが聴いていたコルテラとミトセの会話の具体的な内容は、後に『Left』か、この『Right』のいずれかで書く事になりますので、お楽しみに☆
この回では、あくまでナチの視点で物語を進めているため、”何された”とは書きませんでしたが・・・。一応補足をしておきますと、彼と・・・そして、ラスリアという少女の2人は、ミトセ達の手によって、一部分だけ記憶を消されたという事になります。
さて、世界が一つに戻った事すらも理解していない彼らは、今後どうなるのか!?
お楽しみに♪
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