第16話 言語の壁
休憩として立ち寄った海岸にて、黒髪の少女ラスリアに出会ったナチ。彼女をバイクに乗せた後、目的地であるゲヘナへ到達していた。機械づくりの盛んなゲヘナは、位置的に言うとイレルパタンの領土だが、実際はいろんな国との取引が多く、1つの国ともいえるような都市である。
さて・・・とにかく、大佐が言っていた知り合いの技師を探さなくてはな・・・。だけど・・・
ナチは周囲を見渡しながら考える。
ナチが出会ったこのラスリアという少女は、自分の名前以外はほとんど覚えていない、いわゆる記憶喪失の状態であった。そのため、どの国出身かはわからない・・・。とりあえず、ナチは彼女をゲヘナにある国の役所に行けば、ラスリアを保護してもらえるだろうと考え、そこまで同行するという目的も出来ていた。
「ナチ・・・さん・・・」
「ん・・・?」
歩いている途中、その場に立ち止まったラスリアは、思いも寄らない台詞を放つ。
「さっき聞いて思ったんですけど・・・。“機械”って・・・何ですか?」
「へ・・・!!?」
予想すらできなかった質問に、ナチは目を見開いて驚く。
「機械を・・・知らない・・・!!?」
驚いた表情で彼女を見つめるナチ。
・・・機械はギルガメシュ連邦(自分達の国)に関わらず、どの国でも日常的に利用されている物・・・。記憶喪失だから・・・?
機械を知らないのが記憶喪失のせいかと最初は考えたが、そうではない確証があった事を思い出す。
記憶喪失って・・・確か、2種類あったはず・・・。一つは、食べ物といった知っていて当たり前のモノが何かすらわからないタイプ・・・。でも、さっき彼女が“スト”とかいう地名を口走っていた所を見ると、それには当てはまらなそうだが―――――――
「ねぇ!君って・・・」
口を動かしながら、ナチは後ろを振り向くと、ラスリアの姿がなかった。
「あれ・・・?」
その場にいたのが自分一人だったので、少し慌て始める。
「おーい!!ラスリアちゃーーーーん!」
街の周囲を見回す。
「そういえば・・・あまり人気がないのは、なぜだろう?」
ナチがラスリアを探しながら、独り言を呟いていると・・・
「あ!いた・・・!」
ナチの視線の先には、何かを覗き込んでいるラスリアの姿が目に映る。
「どうしたの・・・?」
「あ・・・」
ナチは、後ろからポンと肩を叩くと、ラスリアは身体をビクッとさせる。
彼の方に向きなおした時、ラスリアの怯えた表情に、ナチは違和感を一瞬感じた。
「あそこ・・・。何か、人々が集まって、何か話をしているみたいです・・・」
「喧嘩かなぁ・・・?」
そう呟きながら、ナチはラスリアが眺めていた人だかりの方を見る。
「だーかーらー!!!そんな怖い顔をされても、あんたらが何を言っているのか、理解できねぇって!!!」
そこにいた人だかりは、2つの勢力が存在するかのように向かい合った状態で言い争いをしていた。
あの男性・・・!!
人だかりの真ん中にいる、金髪の男が、大佐の知り合いであるアレスという技師だという事に気がつく。
アレスという技師を見てもわかるが、彼の後ろにいる人達は、おそらくゲヘナの職人達である。一方で・・・仏頂面をして、おかしな格好をしている連中が、何者か理解できなかった。
「なんだ?あの白衣みたいな変な服装の奴ら・・・」
「・・・あれは多分、ライトリア教団の僧侶ですね・・・」
「え・・・?ライ・・・何?」
ナチと一緒に聞き耳を立てていたラスリアが、口を開く。
「ライトリア教団・・・。“星命学”を主にして作られたライトリア教を広める教団の事です。・・・ご存知ないですか?」
「初めて聞いた・・・。っていうか、現代はどの国も無宗教のはず・・・」
そう言って続く二人の会話は、どこか絡み合っていなかった。
どういう事なんだろう・・・?
今、目の前で起こっている言い争いの原因すらわからず、ナチの頭の中は混乱を極めていた。
「でも、ここで何もしないでは戻れないよな・・・」
低い声でボソッと呟いた後、人ごみの中へ入っていくナチ。
それを見たラスリアは、最初は驚いていたものの、恐る恐るナチに着いていくのであった。
「・・・お話中、すみません!わたし、ギルガメシュ連邦のナチ・フラトネス少尉と申しますが・・・。アレス・タトレクさんで間違いはないですか・・・?」
人だかりの中心に辿り着いたナチは、金髪の男性に、自己紹介をする。
「ああ・・・。俺だが・・・」
「・・・貴方が、わたしの上司であるオノレルダン大佐のお知り合いだと聞きました。それと・・・大佐からこの書類を預かっているのですが・・・」
そう話すナチは、口を動かしながら、自分の荷物の中から書類を取り出す。
「悪いが、今はそれ所じゃないんだ!」
「・・・何かあったんですか・・・?」
「・・・あれを見てみろ・・・!」
そう言って、アレスは少し離れた場所を指で指す。
「!!!?」
指している方向を見ると―――――そこは、今まで見たことのない異様な光景だった。
ナチ達から見て左側には、普通の家屋や機械の部品を扱っているお店などが見える。しかし、右側には・・・今まで見たことのない建造物。・・・どちらかと言えば、古代の遺跡のような建造物が、半壊した状態であったのだった。
「これは、一体・・・?」
「昨日、地震が起きたんだが・・・。気がついたら、こんな状況になっていた・・・」
「なっ・・・!!?」
ナチの質問に答えるアレスは、深刻な表情そのものだった。
そして、続けて話す。
「そうしたら、この半壊した建物の裏側から、こいつらが現れた・・・って事だ」
「・・・・」
技師の言葉に、思わず考え事をするナチ。
イレルパタンの最南部であるこの都市でも・・・あの地震は起きていたのか・・・。
ナチは腕を組みながら考えていると、自分の後ろにいたラスリアが、ゆっくり歩き出し、仏頂面した連中の下へ行く。
「ラスリアちゃん・・・!!?」
銃ですら持っていない彼女が、丸腰で相手の下へ行くのを見たナチや技師達は驚く。
「What・・・・・」
すると、彼女は聞きなれない言葉を使って、何やら話し始めた。
この訛りは、さっきの・・・?
ナチは浜辺でラスリアと出会った時の事を思い出す。
そして、数分が経過した後、ラスリアはアレス達を向いて言う。
「彼らは・・・どうやら、あの建造物を壊した貴方達に・・・弁償してほしい・・・と、言っているみたいでス…」
自分達の方に振り向きながら話すラスリアは、どこか堂々としていた。
「なんだと・・・!?」
それを聞いたアレスは、顔をしかめる。
そんな彼に圧倒されながらも、ラスリアは話を続ける。
「・・・私も、貴方たちがこの寺院を破壊したとは思えません。ただ・・・」
そう言うと、ラスリアは顔を下に伏せる。
「俺達が、あんなよくわからない建造物を破壊するとでも思っているのか!!?」
「それより、いきなりしゃしゃり出てきたあんたらは一体、何なんだよ?」
後ろから、他の技師達による罵声が聞こえる。
・・・この一連の流れを見ていたナチは確信した。どうなっているかはわからないが、彼女のおかげで、喧嘩が収まるかもしれない・・・と。
「アレスさん・・・それに、皆さんも!!少し、静かにしてもらえませんか?」
ナチは大声で、ゲヘナの職人達をなだめようとする。
そして、得意の交渉術による柔らかい口調で話す。
「どうやら、あの人達は、こちらの言葉が通じない相手のようです!!かといって、濡れ衣を着せられるのは、我慢できない事でしょう・・・。だから、皆さんの言い分を聞かせてください・・・!!それを、彼女が訳して相手に伝えるので・・・!」
そう叫ぶナチは、ラスリアの方を見る。
「ナ・・・ナチさん・・・?」
おどおどした表情で彼を見つめるラスリアに対し、ナチは耳元で囁く。
「君・・・俺が話す言葉も、あのライトリア教団・・・とかいう連中の言葉もわかるんだよね?」
「・・・はい」
「・・・会って間もない君に頼むのは図々しいかもしれないが・・・。彼らの間に立って、言葉を訳してもらえるかな?」
そう囁くナチに、呆気に取られながら、頬がほんのり赤くなっているラスリア。
「・・・わかりましタ。貴方にハ、助けていただいた恩もありまスシ・・・手伝いマス」
そう言って、真剣な表情をしながら、ラスリアは縦に頷いた。
それから2時間程経過し・・・
「いやぁー・・・本当に助かったよ!」
ラスリアの力を借りて、何とかあの場を収めたナチは、アレスを含むゲヘナの職人達と一緒に酒を飲み交わしていた。
「君が交渉術を得意としていたとはな・・・!あの大佐が、君をここへ寄こした理由が理解できたよ!!」
「いや、俺は別に・・・」
ナチは少し照れながら、窓の外に見える月を眺める。
話し合いがまとまった頃には、日も沈みかけていた。大佐の命は達成できたが、バイクが太陽による熱でないと動かないため、連邦の植民地へ戻るのは、翌日にするという事になった。
「・・・それにしても、あのお譲ちゃんも凄かったな!!歌姫のシアにもそっくりだから戸惑ったけれど、あの仏頂面した連中と普通に会話していたしな!」
「はい・・・。彼女の語学力は、物凄いな・・・って、見ていて思いましたね・・・」
酒の入ったコップを片手に持ちながら、ナチは考える。
俺も一応、諸外国の言語を勉強した事があったけど・・・。彼女が、連中と話していた言葉は、おそらく古代語・・・。どう見ても学者ではなさそうだし・・・本当に、彼女は何者だろうか・・・?
ナチは考える。
それに、ライトリア教団の言葉より、連邦の言葉の方が堪能ではないようなかんじが・・・発音から見て取れる。・・・もしかしたら、あいつらと同じ民族だ・・・と、考える方が、よっぽど自然なのかも・・・?
頭がこんがりながらも、ナチは考え事をしていると・・・
「ぐわぁぁぁぁっ!!!」
「!!?」
外から、誰かの悲鳴が聞こえる。
「あ・・・アレスさん!!?」
その悲鳴を聞いたアレスが、物凄い動揺した表情のまま、外へ出て行く。
ナチも、彼の後を着いていってみると・・・
「・・・これは・・・!!?」
外に出たナチ達の目に飛び込んできたのは・・・血まみれになって倒れているゲヘナの技師。そして、その傍らで必死に呼びかけているラスリアの姿だった。
「なんで・・・なんで、こんな事を・・・!!?」
黒い瞳が潤み、その視線は2人の人物に向けられていた。
「・・・?」
ナチも同じようにして、その2人の人物を見る。
月夜の光に照らされた中に立っていた2人の人物・・・。一人は、金髪金眼で初めて合わす顔をした男だったが・・・。もう一人は、紅い髪を持ち、女性のような化粧をした男性・・・。
「貴方は確か・・・」
ナチはポツリと呟いた後、思い出す。
その紅い髪に人物は以前、シアのコンサートでホールを訪れた際・・・一緒にいる所を見た、彼女のスタイリストをやっている人だった。
「?どこかで、お会いしたかしら・・・?」
「止めておけ。無駄話をするために、我々は来たわけではないからな・・・」
甲高い声で話す紅い髪の男とは裏腹に、金髪の男は、物凄い低い声で話す。
・・・なんだ、このかんじは・・・?
一見しただけでは、変わった人のようだが、彼らの雰囲気は、殺気にも似た圧力を感じさせる。
「・・・おい、あの女が、貴様の言っていた“歌姫シア”か・・・?」
「シア・・・!!?」
その言葉を聞いたナチは驚く。
ここにいるのはラスリアだ・・・。もしや、こいつらの狙いはシア・・・!!?
つばをゴクリと飲みながら、彼らを睨むナチ。
「・・・いえ。あの娘、顔は瓜二つだけど、シアではなさそうよ?」
「・・・なるほど。それでは・・・」
紅い髪の男の台詞を聞いた金髪の男は、ゆっくりと瞳を閉じる。
バサッ
一瞬、鳥が羽ばたくような音が聞こえた直後・・・
「なっ・・・なんだこいつ・・・!!?」
その場にいたほとんどの人間が、その姿を見て驚く。
瞳を閉じた金髪の男の背には―――――――俄かに紅で染まってはいたが・・・白い翼が生えていた。
「天・・・使・・・!!?」
ナチは、無意識の内にその言葉を発していた。
白い翼・・・羽・・・人間にあらず・・・異民族・・・!!?
ナチの頭の中には、いろいろな言葉が行き交う。なぜ、自分の目の前に天使が現れたのか・・・。その理由を探っていく内に、嫌な予感がしてきた。
「まさか・・・あんた達って・・・!」
ナチの表情がみるみる真っ青になっていく。
「おい・・・大丈夫か・・・?」
青ざめていくナチを見たアレスが、心配そうな表情で彼を見る。
「宣戦布告・・・って所かしら?」
「!!?」
紅い髪の男が呟いた後、隣にいる天使も、その重たくなった唇を開く。
「・・・わたしは、貴様ら人間共に“異端者”呼ばわりをされ、屈辱を遭わされていた・・・“8人の異端者”が一人、“堕天使ミトセ”だ・・・!」
そう名乗るミトセという堕天使の瞳は・・・深い憎悪が満ちていた――――――
いかがでしたか。
作中でラスリアが口にしていた言語は、一部英語を含ませてみたといったかんじです!
また、堕天使ミトセのモデルは、ゲーム『テイルズオブシンフォニア』に出てくるユグドラシルです。
最も、ミトセは敵役の一人に過ぎませんが・・・
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