第12話 魔物退治
今回、始まりはナチ視点ですが、後半はセリエル視点で進みます。
"どちらの世界にも存在するモノ"―――――――それは、”レジェンディラス”と”アビスウォクテラ”の両方の世界に存在する土地や建造物を指す。古代大戦が起きる前、かつては1つの世界だった世界の中でも特殊な意味を持つ場所があった。その場所は、どういう訳か世界が分離された後も、両方の世界に存在するという。
しかし、これらの存在を確実に認知していたのは、絶滅寸前と言われてきた古代種”キロ”だけであった―――――――
「…フラメンが実家に?」
ナチは仕事の休憩時間に、通信機で友人のクウラと会話をしていた。
『…そう。なんでも、実家にいる母親が倒れたとからしい。…そのため、この1週間だけ休みを取ったらしいんだ…』
「そうか…。フラメンのお母さん、早く良くなるといいな…」
通信機で会話していた彼らの間では、家庭の事情で実家に帰っているフラメンの話をしていた。
「…彼女がいなくて寂しいかもしれないが…。帰ってきたら、暖かく迎えてやれよ?」
『ああ…。そういえば、君の方は大丈夫なのか?』
「どういう事…?」
『…いや、昨日セリエルさんを司令部で見かけたんだ。挨拶をしたら、あっちも返してくれたけど…何だか浮かない表情だったよ…?』
「セリエルさんが…?」
ナチはこの時、フッとセリエルの顔が浮かんだ。
…セリエルさん…
ナチは、以前に仕事で行ったシアのライブ以降、仕事はちゃんとこなしていても、どこか様子がおかしい彼女を気にかけていた。
休憩が終わった後、仕事場に戻ってきたナチは、上司に呼ばれる。「任務だ」と言い張る上司の表情が真剣だったので、これは通常業務ではない”別の任務”である事を、なんとなく予感した。
「それでは、今回の任務を説明する!!」
呼び出された先で、大佐くらいの男性が叫ぶ。
ナチの周囲には、多くの軍人たちが存在し、他の部署の人間が入り混じりであった。
「今回、我々に与えられた任務は、魔物退治と調査だ!!」
「魔物退治…」
任務内容を聞いたナチは、前にいる大佐には聞こえないくらいの小さな声で呟く。
その時、フッと視線をズラすと、その先にはセリエルの姿もあった。
セリエルさんも、呼ばれたんだな…
そう考えながら、大佐のいる前を向く。
一方、任務内容の説明は、世界地図を広げながら進められる。
「今回、任務で訪れる土地は、我がギルガメシュ連邦の植民地がある国”イレルパタン”だ」
ギルガメシュ連邦は、世界のど真ん中に位置するバツエラド大陸だから…この東にあるのが、”イレルパタン”…
ナチは世界地図を見つめながら考える。
ギルガメシュ連邦の世界地図では、連邦のあるバツエラド大陸が中心に描かれている。実際の地形がそうなのかは不明だが、他国もこの地形図の形を認めているため、このように描かれている。
そして、ギルガメシュ連邦は、過去でも現代でも戦争を繰り返し、バツエラド大陸以外でも、”植民地”という形で他国にも領土を持っている。今回の任務地は、その植民地のひとつである。
「大佐!”調査”とおっしゃられていましたが、何か異変でも起きたのですか?」
軍人の一人が大佐に質問をする。
「うむ。報告によると、大した異変ではないらしいが・・・普通だったらありえない事らしい。だから、念のため調査する事になったのだ…」
「季節外れの花が咲いた…とか、そのようなモノですか?」
一人の女性の声が聴こえたとたん、ナチはドキッとした。
「セリエルさん…!?」
挙手をした後、大佐に質問をしていたのは、紛れもなくセリエルだった。
「まぁー…そんな所かな?報告を聞く限りでは、命に関わる事でもないらしいし…」
「わかりました。…ありがとうございます」
上司に対して軽く会釈したセリエルは、一歩後ろに下がる。
セリエルは、基本的に上司に物言いをしたりしない。そして、軍事国家をあまり好んでいない事を知っていたナチ。
珍しい事もあるもんだな・・・・
セリエルの方をチラリと見ながら、ナチは考え事をしていた。
その後、ナチ達は連邦の港から出発し、軍艦でイレルパタンへ向かう。この日の天候は快晴で、船に乗るには絶好の天気であった。
「セリエルさん・・・!」
「ナチ・・・」
軍艦での作業を終えて自由時間になった頃、ナチは甲板にいたセリエルに声をかける。
「潮風・・・気持ち良いですよね・・・」
セリエルの横に立ったナチは、フッと笑顔で呟く。
「・・・どうかしたの?」
「え・・・?あ、いや・・・特に何か用があったわけでは・・・」
横から見えるセリエルの視線が冷たく感じたナチは、身体をビクッとさせる。
「シアさんのライブの日・・・なにかあったんですか・・・?」
「・・・貴方には関係のない事よ」
「え・・・」
厳しそうな声で言われたナチは、次の言葉が出ずに黙り込んでしまう。
そんなナチの様子を見たセリエルは、ハッと我に返る。その後、フッと笑顔になって言う。
「ごめんなさいね、ナチ・・・。でも、今は・・・少しの間だけ、放っておいてほしいの・・・」
笑顔で話すセリエルだったが、その表情が無理して笑っているのは一目瞭然だった。
しかし、これ以上訊くのは良くないと感じたナチは、お辞儀をした後、セリエルと別れて自分の持ち場へ戻った。
※
ナチ・・・ごめんなさい・・・
セリエルは歩きながらナチの事を考えていた。
あれから、目的地であるイレルパタン国にある連邦の植民地へ到達していた。
現地の担当軍人の話によると、植民地の北にある森に魔物が多く発生しているという。そして、本国から来た軍人達は、森に入って魔物退治に参加する者と、その場に残って一般人の保護と補助する者へと二分される。
あら・・・
二分された時、セリエルはナチがこの場に残る組だという事を知る。本人は自覚なしであったが、セリエルは格闘術に優れ、銃の扱いも出来て、それなりの知識を持っている事から、軍人としての実力は高く評価されていた。しかし、優れているにも関わらず、出世しようと成果をあまり出さなかったため、今の少尉という地位が続いているのだ。
「貴女が、噂の女性少尉・セリエルさんですね!・・・一緒の任務につけて、光栄です!」
魔物退治のために森へ入ると、何人かの見知らぬ軍人がそのような台詞でセリエルに声をかけてくる。その中には、セリエルよりも上の大尉・少佐などの地位の人間もいた。
「皆がどう思ったとしても、私は何もできない女に過ぎない・・・」
「・・・?何かおっしゃられましたか?」
「いや・・・なんでもない・・・」
話をしていた軍人達に不思議そうな表情をされたため、何とかゴマカす事に成功した。
ガサガサガサッ
草むらから何かが蠢く音が聞こえる。
「何・・・!!?」
その音に気がついたセリエルは、辺りを見回す。
「皆・・・警戒しろ・・・!!!」
隊を率いる大佐が銃を構える。
そして、軍人達は分散しないで一つに固まりながら、森の中を進む。
すると、一人の軍人が何かに気がついたのか、皆とは違う方向を慎重に進んでいく。
「おい・・・どうした・・・!!?」
大佐がその軍人に声をかけるが、全く返事がなく、振り向こうともしない。
セリエルはこの時、全身に鳥肌が立つ。
このかんじは・・・殺気!!?
それを感じた瞬間、セリエルは叫ぶ。
「ダメよ・・・戻って・・・!!!!」
そう叫んだのとほぼ同時に、軍人の悲鳴が森中を駆け巡る。
「・・・なんて大きさ・・・!」
セリエルはつばをゴクリと飲み込みながら、自分の視線の先にあるものを見つめる。
彼女達の視線の先にいたのは・・・体中が草のような緑色をし、何本もの触手のようなモノが存在する、植物のような形をした魔物だった。
その大きさは、大人3・4人くらいの高さを持つ。そして、牙のないその口には、先ほど悲鳴をあげた軍人がゆっくりと飲み込まれていた。
「草木に混じって・・・擬装していたという事か・・・!!!」
セリエルの近くにいた軍人が深刻な表情をしながら呟く。
ブン!!!
捕らえた獲物を飲み込んだ魔物は、植物の茎のような触手を振り回し始める。
「皆、銃で応戦しろ!!!あの触手に絡め取られるなよ!!!」
大佐が部下達に向かって、一斉に攻撃するよう命じる。
多くの軍人が、銃を発砲するが、振り回す触手に弾かれているのか、なかなか本体には当たらない。
全く・・・ナチだったら、正確に敵の急所を狙えるのに・・・!!
セリエルは心の中でそう思いながら、応戦していた。
本来だったら、自分が使える炎の魔法を使えればこの魔物を倒す事が可能である。しかし、魔術の存在しないこの世界で自分が使ってら、どんな目で見られるかわからない・・・。そのため、セリエルは魔術を使いたくても使う事ができない状態。
「これでも、くらえ・・・!!!」
炎を吹くバズーカを取り出した軍人が、魔物に向かって撃つ。
しかし、魔物はしゃがみこんだかと思えば、一瞬にして木の上に移動する。
「素早い・・・!!」
セリエルが上を見上げるが、木々の葉に隠れたのか、魔物の姿が見当たらなかった。
「奥の方へ逃げていくぞ・・・!!!」
上から聞こえるガサガサという物音で、魔物が木々の葉っぱをつたいながら移動している事に気がつく。
「追うぞ!!!」
大佐の声と共に、隊の全員で魔物を追う。
セリエルも息を切らしながら進んでいくと、その視線の先には大きな樹が見えてくる。
彼らがたどり着いた場所は、森の中にある花畑と、その中央に大樹が聳え立っている不思議な場所だった。
「ここは・・・?」
「すごく・・・綺麗・・・」
セリエルや何人かの軍人達は、この森の中にある不思議な空間に見ほれていた。
ここはきっと・・・人間達に荒らされず、“星の意志”がまだ働く場所なのかした・・・
この景色を見つめがら、セリエルは不思議と懐かしい気持ちになっていた。
「おい・・・避けろ!!!」
「え・・・?」
誰かの声を聴いた直後、セルエルは我に返る。
「きゃぁぁぁっ!!!」
景色に見とれていたセリエルは、周囲で魔物が潜んでいることに全く気がついていなかった。
魔物の触手に絡め取られたセリエルは、気がつくと宙に浮いていた。そして、目下には大佐を含む他の軍人達が見える。彼らは銃を構えるが、魔物はセリエルを自分の目の前に突き出す事で、盾にするような態勢を取る。
「くっ・・・!!」
そのまま発砲すると、セリエルに当たってしまう事を悟った大佐は悔しそうな表情で舌打ちする。
「大佐・・・私に構わず、発砲してくださ・・・!!!」
触手によって締め付けられる痛みを堪えながらセリエルが叫んでいると・・・
『抵抗しないで』
頭の中に、見知らぬ声が響く。
「!!?」
ギョッとさせた表情でセリエルは、頭の中に響く声を聴いていた。
何これ・・・。まさか、魔物が・・・?
なぜ自分に語りかけるのかと考えていると、さらに新たな一言を発する。
『そのまま・・・意識を風に委ねて・・・!』
「え・・・?」
セリエルが呟いたのと同時に、魔物はセリエルの身体を勢いよく吹っ飛ばしたのだ。
その台詞に従っていたのか、風に対抗しない気持ちで吹き飛ばされ、セリエルの身体は大樹の元へ飛ばされる。
ガッという音と共にセリエルの身体は大樹に衝突し、地面に墜ちる。
「一体・・・これ・・・は・・・?」
大樹に衝突した時に頭を打ったのか、徐々にセリエルの意識が薄れていく。
『よし、繋がった・・・。これで、ようやく・・・』
頭の片隅に、先ほど響いてきた声が聴こえる。
時間が数秒ほど流れ、セリエルは完全に意識を失ってしまう。
しかし、その直後、彼女がもたれかかっていた大樹が、僅かに白い光を放つ。
いかがでしたか。
話についてですが、この回に登場する魔物は、ファイナルファンタジーシリーズに出てくる植物みたいな魔物がモデル。
そして、この回に出てくるそれとない文が”Left”とリンクするきっかけに・・・。それがどこかについてが、今後”Left”の方でわかるように書くつもりです!
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