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ガジェイレル-Right-  作者: 皆麻 兎
第四章 黒髪の歌姫
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第11話 歌姫<後編>

<前回までのあらすじ>

セリエルとナチは、軍の仕事で歌姫の舞台であるホールを訪れていた。

そこで出会った歌姫シアの不可解な態度と、彼女に付き従っていた紅い髪のスタイリスト・コルテラに疑問を抱くセリエル。

その後、ひょんな事からコルテラと会話し始めたセリエルは、そこで驚愕の事実を知る事に―――――

「貴方が・・・!?」

自分の目の前にいる人間が、かつて世界を滅ぼそうとした「8人の異端者」の一人である―――――――その事実を知ったセリエルは、驚きの余りその場で呆然としていた。

しかし、以前任務で向かった古代遺跡での事を思い出す。


「でも…貴方達は確か、古代大戦の際、“時止まり(ストイム)空間フィールド”に幽閉されたのでは・・・?」

「ああー・・・。あれねぇ・・・」

セリエルの問い掛けの後、コルテラは目を細める。

しかし、何かをひらめいたのか、すぐに話し出した。

「さて、ここで問題!!・・・このギルガメシュ連邦にある職業“歌姫”は、どのような目的でできたのかしら?」

「え・・・?」

いきなり違う話題に変えられたため、セリエルは一瞬と惑う。

「軍人の士気を高める・・・ため・・・?」

「あったりぃー♪」

恐る恐る答えると、コルテラはウインクをしながら甲高い声で話す。

「・・・でもね、実は答えはそれだけではないのよ」

「何・・・?」

ふざけている表情から、一気に雰囲気の変わったコルテラに、セリエルは一瞬だけビクッとした。

「どういう事・・・!?」

セリエルは、なぜ“8人の異端者”であるコルテラが、歌姫の話をするのかが全くわからなかった。

 それに・・・あの“時止まり(ストイム)の空間フィールド”に閉じ込められた者が再び出てくる事なんて、可能なの・・・!!?

セリエルは、懸命に謎な部分を解明しようと考えていた。それを見ていたコルテラは、再び話し始める。

「ちなみに、”歌”は魔術にも精通するって事・・・知ってた?」

「いえ・・・今、初めて聴いたが・・・?」

自分ですら知らない事を教えられたセリエルの頭の中に、一瞬だけ歌姫・シアの顔が浮かんだ。そして、本番前に交わした会話の内容についても思い出していると・・・

「じゃあ、そろそろ解説に入ろうかしら!・・・古代大戦が終わった頃、あたしを含むあいつらは皆、人間共によって幽閉されたけど、あたしの種族は古代人“キロ”のように、絶滅の危機にまではいかなかった。一応言っておくと、あたしの一族は生まれつき強い魔力を持っていて、大きくなったら魔術師になる者がほとんどだった・・・。そして、皆が魔術に精通する“歌”を得意としていた・・・」

「・・・じゃあ、その貴方の一族を保護するために“歌姫”を作ったって事・・・?」

「んー・・・10%正解って所かしら」

セリエルの返答に、コルテラは一指し指を動かしながら語る。

すると、コルテラの笑みが少しずつ狂気じみた表情かおに変貌していく。

「そういえば、あんただったら、歌姫が皆、1度はこのホールで歌う事を知っているわよね?」

「・・・それが何・・・?」

「それと、歌姫(あの子達)が歌う歌は、連邦中のありとあらゆる所で放送されるって事も・・・」

「だから、一体・・・」

その先を言いかけた瞬間、セリエルは気がつく。コルテラが言いたい事を・・・

「・・・彼女達にやらせていたのね!!?」

「やぁねぇ・・・。そんな恐い顔しないでほしいわ・・・」

コルテラを鋭い眼差しで睨みつけるセリエル。

掌には電撃がバリバリといっていた。

「歌による魔力によって、ストイムフィールドの威力を弱めていたなんて・・・・!!」

この事実を知ったセリエルは、もう一つ重要な事に気がつく。

確か「歌姫」ができたのは、ギルガメシュ連邦が建国して間もない頃だったはず・・・。という事は―――――――

「連邦に、貴方達の手下がいて暗躍している・・・という事ね?」

「さぁ・・・その辺はどうなのかしらね?」

コルテラはニヤニヤしながら話す。

この時、セリエルはシアがなぜ浮かない表情をしていたのかが、理解できた。

 シア(あの子)はこの事を知っていたのね・・・

その場で考え事をしていると

「あとは、もう一人の「あんた」が“イル”に辿り着けば・・・!」

「うっ・・・!」

コルテラは一言呟いた後、セリエルの首を掴んで楽屋の壁に打ち付ける。

「賢いあんたなら、やらないとは思うけれど・・・。今日聞いた事は、他言無用でお願いね」

「・・・貴方の指図は受けないわ」

コルテラの首を絞める手が緩まず、2人はその場に立ち尽くす。

鋭い眼差しで睨み続けるセリエルに、コルテラは彼女の耳元で囁く。

「あんたとよく一緒にいる黒髪の坊ちゃん・・・。確か、ナチって名前だったかしら・・・?」

「・・・!!!」

コルテラの口からナチの名前が出た途端、セリエルの表情が一変する。

俯いたまま黙り込んだセリエルを見たコルテラは、パッと彼女の首筋から手を離した。そして、人気のない楽屋から去ろうと動き始める。

「待ちなさい・・・!!!」

去ろうとするコルテラをセリエルは引き止める。

「あんたは、逃げる事も死ぬ事も・・・そして、邪魔する事もできない・・・。アビスウォクテラ(この世界)の“世界ガジェイレル”らしく、おとなしくしている事ね・・・!」

そう呟いた後、コルテラは楽屋から去っていった。

その後、楽屋の中はセリエルだけとなり、静かさを取り戻す。

ガッ!!!

セリエルは悔しさの余り、壁に拳をぶつけていた。

 全てをわかっていながら、どうする事もできないなんて・・・!!!

胸の中がもやもやとし、悔しい想いをかみ締めながら、セリエルはその場に立ち尽くしていた。


          ※


 セリエルが楽屋で立ち尽くしていた頃、ナチは舞台袖で待機をしていた。シアのライブも全曲が歌い終わり、フィナーレを迎えていた。

 ・・・そろそろこっちに来るかな・・・?

ホールの備品管理も、軍事施設課の仕事の一つ。そのため、戻ってくる歌姫からマイクを受け取る役目をナチは担ってきた。舞台からはシアの声と共に、観客の物凄い歓声が聴こえる。

 そういえば・・・セリエルさん、お手洗いに行ってから戻ってきていないけど・・・大丈夫かな?

ナチは舞台袖で待機しながら、セリエルの事を考えていると・・・


「お疲れ様です!」

スタッフである自分の部下達に挨拶しながら、舞台からシアが戻ってくる。

「お疲れ様でした・・・!」

ナチはシアに対して挨拶をしながら、マイクを受け取ろうと手を差し出す。

 ん・・・?

マイクを受け取った時、彼女の掌から紙のような感触をナチは感じる。その後、パッとシアの顔を見たとたん、彼女の表情がとても深刻そうだったのに気がつく。

「・・・お疲れ様です」

しかし、すぐに元の笑顔に戻ってシアはナチに挨拶をする。

「あ・・・」

その後、声をかける間もなく、シアは護衛達がいる方向へと歩いていってしまった。

ナチの掌にはマイクと一緒に、小さなメモが存在していた。

 こんな場所で渡してきたという事は・・・

ナチは自分に渡された紙切れが他の人には見られたくないものだと察し、マイクを片付けた後に、1人男子トイレに向かった。

そうして、お手洗いの個室に入り込んだ後、小さく折られていた紙切れを広げる。

 “銀の髪をした右目下に痣のある少尉さんに会ったら、「ごめんなさい」と伝えてください”

その一言を、ナチは心の中で読み上げる。この時ナチは、なぜ「ごめんなさい」なのかが理解できなかった。しかし、あんな状況で頼まれたのだから、とりあえずは本人に伝えようと考え、トイレの個室から出て行った。


シアのライブが終わり、ナチ達がホールの片付けを終わらせた頃には既に深夜となっていた。そのため、セリエル率いる部隊は、ホールで一夜を明かしてから解散となる。軍人達はこの日、ホールの楽屋で寝泊りをしていた。皆が寝静まった頃、ナチはセリエルを連れてホールの屋上に来ていた。


「セリエルさん・・・。お疲れの所呼び出して・・・申し訳ないです」

「・・・いいのよ。私もちょっと、眠れなかったから・・・」

ナチがセリエルに話しかけると、少し萎れた口調で彼女は話す。

屋上にはセリエルとナチの2人だけで、周囲には涼しい風が吹いていた。ナチは心臓をドキドキさせながら、その重たくなった口を開く。

「実は・・・ある人から、伝言を預かっているんです」

「え・・・?」

ナチの台詞を聞いたセリエルは、彼の方へ振り返る。

「“ある人”って・・・誰?」

「それが・・・歌姫シアさんなんです・・・」

「・・・・!!」

弱弱しい表情から一気に変わったセリエルを見たナチは、そのまま話を続ける。

「彼女は、この紙切れを使って貴女にこう伝えてくれと言われました」

「・・・・なんて・・・言われたの・・・?」

深刻そうな表情かおで、セリエルはナチを見つめる。

この時、なぜそう伝えてほしいと言っていたシアの心情を考えながら、ナチは答えた。

「ただ一言・・・「ごめんなさい」と・・・」

ナチがシアからの伝言を伝えた後、彼らの間に沈黙が流れる。

セリエルもナチも、口を開かずにただ黙り続けていた。

「そう・・・」

「え・・・?」

「あの子が・・・シアが・・・そう言っていたのね・・・」

「セリエルさん・・・?」

ボソッと呟いたセリエルをナチが見つめた瞬間、彼女が自分の手をギュッと握り締めているのが見えた。

「わかったわ・・・。ありがとう・・・」

そう呟いた後、セリエルはそのまま屋上から去っていった。

気がつくと、屋上にはナチ1人だけが取り残されていた。彼は、セリエルが歩いて行った方向を見つめながら、呟く。

「セリエルさん・・・。俺は・・・」

目の前で大切な女性ひとが思い悩んでいるのに、それがなぜかすら理解してあげられない自分に・・・ナチはもどかしい気持ちでいっぱいであった―――――――


いかがでしたか。

今回は、最初の設定通りだとセリエル視点だった所までだったのですが、「これでは流石に味気なさすぎる」と考え、ナチの視点の方を追加しました。

ここでは、どのような仕組みで”時止まりの空間”を弱めていたのかを具体的には語られていませんでした。

とりあえず言えるのは、歌姫の歌声は連邦中のありとあらゆる場所で放送され、視聴できるようになっているため、”時止まりの空間”がある古代遺跡(第2~3話参照)にも届くといったかんじです。

実は、この”国中に声が届く”という発想は、漫画『ふしぎ遊戯-玄武開伝-』から来ています。

さて、この後に描く『Left』の方も急展開を迎えるため、こちらの更新頻度が更に悪くなりそうな予感がしそうですが・・・頑張って執筆していくので、よろしくお願い致します。


引き続き、ご意見・ご感想・評価をお待ちしてます!

悪いところの指摘でもいいから、何かしらほしいです(ToT)



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