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ガジェイレル-Right-  作者: 皆麻 兎
第一章 任務で垣間見る世界のほころび
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第1話 ”この世で異質な存在”

この作品は魔法があまり出てこないので、ジャンルは”SF”に相当するかもしれませんが、今後の展開で、魔法が出てくる可能性も高いので、作品のジャンルを”ファンタジー”とさせていただきました。

「それにしても、凄かったよなぁ・・・昨日の“星降り”!!」

軍人達が多く集う食堂の中で、一人の男が感激したような声で話す。

「学者連中曰く、文献で書かれていたモノよりも凄かったとか・・・!」

「落ちてきた星の光によって、湖が黄金色に輝いたとか・・・!」

多くの軍人が昨夜に起きた“星降り”の噂話をする。

 そんな会話に黒髪の青年ナチ・フラトネスは、食事をしながら耳を傾けていた。彼はここギルガメシュ連邦の軍人であり、20歳という若さで少尉となった青年である。しかし、この物語の主人公は彼ではない。


「あ、ナチ少尉!ご機嫌いかが?」

「こんにちは。ルナ少尉」

「今日、仕事が終わったら飲みに行かない?」

「・・・ありがとうございます。でも、自分はお酒弱いんで・・・」

そう言ってすんなり断ったナチは食堂を出て行く。

周囲でヒソヒソ声が聞こえるが、彼自身は全く気にしていない。

 “星降り”か――――――――

彼は先ほど、食堂で軍人達が話していた内容について考えていた。

 俺も昨日見たが、文献でしか聞いた事のなかった“星の光が地上に降り注ぐ”だなんて・・・生まれて初めて見たモノだったよな・・・・。

そう考えながら、ナチはバタンと外階段がある方の扉を開けた。

 

「セリエルさん!・・・もう少しでお昼休みが終わってしまいますよ?」

彼が声を掛けた先には、一人の女性が階段の所に寝そべっていた。

階段に寝転び銀色の髪を靡かせるこの女性こそ、この物語の主人公であるセリエル・ヒエログリフである。

「・・・寝てます?」

ナチは横からこの仰向けに寝転がっているセリエルの顔を覗きこむ。

「・・・目を閉じているだけど、起きているわ」

彼女の呟きに気がついたナチは、その隣に座る。

「昨晩の“星降り”・・・見ましたか?」

「・・・ええ」

寝転んだまま、セリエルは答える。

「ヴェスペディラ暦・・・じゃなかった。このヴェスライン暦25年の昨日に“星降り”が起こるのを予測できたなんて、流石はセリエルさん♪」

「・・・ナチ。あなたまた、星命学の暦と間違えた・・・」

セリエルはクスッと笑いながら起き上がる。

「だって、俺の実家は星命学者一家なんです!だから、ヴェスライン暦(今の暦)よりも、そっちの方が聞き慣れちゃってて・・・」

セリエルの台詞に対し、ナチは口をプクリと膨らませた。


「私が普通の人間ならば・・・貴方みたいな反応が出来たのにね・・・」

セリエルは自分の右目の下に刻まれている紋章のような痣を触りながら呟く。

「“ガジェイレル”・・・。“星の心”・・・ですか」

ナチの台詞の後、二人の間に沈黙が起こる。

数秒後、セリエルはスクッと立ち上がる。

「行きましょう、ナチ。上官あのおっさんに怒られるのはご免だしね」

「・・・はい!」

深刻な表情をするセリエルの赤紫色の瞳を、ナチは見逃してはいなかった。


          ※


 “何も知らない”というのも何かと不便だけど、逆に“何でも知っている”というのも、考え物よね――――――――

自分より4つ年下のナチと歩きながら、セリエルはふと思う。

 彼女はこの世界“アビスウォクテラ”がなぜ、科学による発展を遂げたのか。なぜ、昨日に“星降り”が起こったのか。なぜ、自分の顔には“星の心”という意味を持つ紋章のような痣を生まれつき持っているのか――――――全てを知っていた。

当然、自分が何者だと言う事も―――――


「諸君!3日後に催される世界会議で、我がギルガメシュ連邦も参加するが・・・場合によっては、休戦していた敵国アルテミセとの戦争が再開される可能性もある!!なので、日々の訓練をしっかりと行うように!!!」

セリエルが「おっさん」呼ばわりしている50代くらいの上官が部下達に向かって叫ぶ。

 室内だというのに、相変わらずうるさい男・・・

セリエルはそう考えながら、ため息をつく。

彼女とナチが所属するのは、軍関連施設を管理する“軍事施設課”。それは弾薬や武器倉庫、軍人が宿泊するホテルや利用する病院など、様々である。しかし、これはあくまで“普段”の仕事であり、任務の際は軍人として最前線に送り込まれる・・・。


「もう!なんでったって、今年は世界会議をギルガメシュ連邦こっちでやるんですかね!?おかげで、俺らの部署はてんてこ舞いじゃないですか!!」

「・・・つべこげ言わない!ほら、ちゃんと持つの!!」

セリエルは会議で使う大量の資料を、ナチと2人で運んでいた。

「でもね、ナチ・・・。確かにこれだけ忙しければ、疲れるかもしれない。でも、“忙しくて疲れる”というのは、人として充実した生活が送れている・・・っていう何よりの証なのよ」

セリエルの呟きに、ナチは少し黙り込んでから答える。

「・・・すみません・・・」

「・・・いや、貴方が誤らなくても・・・」

廊下には2人の足音のみが続く。


「やぁー、お二人さん!仕事ははかどっているかーい?」

この時、茶髪で眼鏡をかけた、いかにも偉そうな男が彼ら2人の前を通りかかる。否、「待ち伏せしていた」という表現の方が正しいかもしれない――――――

「インテリト中尉・・・」

ナチが不味いモノを食べたような表情をする。

「ご機嫌用、麗しきセリエル嬢。・・・今日のお勤めが終わりましたら、僕とお食事などはいかがでしょうか?」

このインテリト中尉は年齢はセリエルと同じ24だけれど、噂では金で今の地位を買ったと言われている、要は“世間のクズ”を代表するような男である。

「・・・それより、そこをどけて戴かないと、通れないのですが・・・」

セリエルは静かに答える。

「・・・これは失礼」

口をつぐんだような表情かおをしたインテリト中尉は、そそくさと塞いでいた進路を開ける。

 その後、2人は歩き始めたが、セリエルはすぐに立ち止まって、インテリトの方を向いて口を開く。

「時に中尉殿。貴方は星命学のように考古学に関係してくる話はお好きですか?」

セリエルの質問を聞いたこのナンパ男は、すぐに答えを出す。

「僕は過去には興味のない性格たちなんで」

その直後、ナチの視線はセリエルの方へ向く。

「そう言う愚か者とお付き合いするほど、私は暇ではないので・・・これにて失礼致します」

ナチが口で「ひゅー♪」と音を立てながら、2人は歩いていく。


「全く・・・あのインテリト中尉、絶対下心ありまくりですよ!!」

「・・・そうね」

 仕事を終えた後、セリエルとナチはバーでお酒を飲んでいた。

「・・・否定はしないんですね」

「そうね・・・。最も、恋愛に興味のない私を口説こうだなんて、100万年早いけれど・・・」

「・・・なかなかはっきりと言いますね・・・」

そう言いながら、ナチはノンアルコールのカクテルを一口飲む。

「私の事を慕っても、幸せになんてなれないのに・・・」

セリエルはボソッと呟く。

それを見たナチはそのせつなそうな表情にドキッとした。

「他人と違う事に・・・」

「?」

ナチの呟きで我に返ったセリエルは、彼の方を見る。

「“自分は他人とは違う”っていう事に対して・・・あまり深刻に考えない方がいいですよ?」

ナチの優しげな声を聴いても、セリエルの表情が緩むことはなかった。

「でも、私は・・・普通の人間とは違う“この世で最も異質な存在モノ”。そして、違う世界に存在するという自分と瓜2つの人間が何をしようとしているのかを知っているのに、何もできない・・・。そんな自分が情けなくて仕方ないんだ・・・」

数秒ほど、彼らの間で沈黙が続いたが、ナチはすぐに口を開く。

「他人は他人。自分は自分・・・。そう言ってくれたのはセリエルさん、あなたでしたよね・・・?」

「ナチ・・・・」

 よく考えてみれば、こんな話をマトモに信じてくれるのは、ナチ(この子)だけ・・・。自分が世界を破滅させる最終兵器の“鍵”である事も、“人の子”ではない事も・・・

そう考え始めると、セリエルの胸の内はいくらかすっきりしたのだった。


「今は、俺らができる事を精一杯やっていきましょう!」

ナチが意味深な台詞を述べた後、2人はバーを出て、それぞれ帰宅するのだった―――


お初な方は、はじめまして。

作者の皆麻 兎です!

この度はガシェイレル-Right-をお読み戴き、誠にありがとうございます。

この作品以外の小説を読んでいただいた方はお気づきだと思いますが、最近連載を開始した作品とほぼ同じタイトルになっています。

その事については同タイトルの「Left」第1話の後書きを読んでいただければわかると思うので、ここでは割愛させていただきます。


今後について言える事は、この物語は「Left」の次に・・・といった形で、交互に呼んでいただけると、よくおわかり戴けるのではと思います。

本当は1つにまとめるべきか悩んだのですが、やはり時代背景がだいぶ異なるので、1つにまとめるのは困難だと判断し、今のようになりました。

今後とも、よろしくお願いいたします。


そして、ご意見・ご感想がありましたらお願いします。

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