21. ダメな大人たち
プラットフォームの問題は、それまで使用していた、トゥインクル資本でアメリカが拠点のYに代わり、日本が拠点のNを使用することで解決した。
しかしNの利用者の総数はYに遠く及ばず、収入の大幅ダウンは避けられない。
スポンサー探しも遅々として進まない。
日本の企業を当たればよいではないかと思ったが、ヒロミは海外暮らしと宇宙暮らしが長く、日本での知り合いが少ないため、難航している。
見かねたイラさんがインドの企業を紹介してくれたが、インドでのプラットフォームNの利用者は少なく、少額しか出せないという何ともつれない返答が返って来た。
「仕方がない。俺も探すか。」
そうは言っても俺も大したコネがあるわけではない。
昔の知り合いを当たれば一人くらいは大都市圏の大企業の関係者に当たりそうなものだが、学生時代の友人は皆、長らく連絡を取っていない。
それに若返ったので忘れがちだが、皆、70歳近い。そもそも生きているかどうかも怪しい。
「消去法で残るのは地方の中小企業か・・・。」
地方の中小企業なら、伸び盛りで文化活動への出資や支援も盛んだ。
ここで現在の日本の地方について説明しておこう。
過疎化や高齢化が進んだ昔からは想像もつかないが、今は都市部より平均年齢が若く、子供が多く、活気がある自治体が多い。
こうなったのにもわけがある。
世界的に耕作地や安全な飲み水が不足していることは以前にも述べた。
水なんて日本なら豊富にあるから例外だと思うかもしれない。
だが雨水を地下水として貯める機能の山林が荒れたらどうか。
つい数十年前、日本はまさにその問題に直面していた。
政府も手をこまねいていたわけではない。
まず、山林や田畑、原野にかかる相続税が廃止され、固定資産税が軽減され、保全のための補助金が森林税から賄われることになった。
同時期に、少子化によって相続先が見つからなかったり、特定の個人に相続が集中するといった問題も起きる。
そこで政府は次に、自然や水源、生態系などを一定の基準、保全したうえで、土地を自由に活用できる法律を制定した。
災害や戦争で、食料自給率を上げるための政策、企業の「疎開」で地方の土地の活用需要ができたことも大きい。
戦後は黒岩教授たちが古い技術を研究し、保護する運動を起こす。
特にアナログ技術は災害時のバックアップとして地方で中小企業の研究開発が盛んになり、戦争でインフラがズタズタになった他国へ輸出して一大産業にまで成長した。
そんなわけで裕福になった地方都市の中小企業の中には音楽や映画といった文化活動に資金提供を惜しまないところも多い。
VRアイドルのスポンサーになってくれる企業もあるかもしれない。
俺はスマートグラスの通話アプリを立ち上げ、黒岩教授に連絡を取った。
「いいアイディアだね。地方ではプラットフォームYよりもNの方が人気だ。いくつか企業に当たってみよう。アポが取れたら後日お知らせする。」
これは期待できそうだ。
昼ごはんの時間に、俺は上機嫌で、黒岩教授を通じて地方企業に声をかけていることを報告した。
「中小企業じゃあトゥインクルみたいに気前が良くはないだろうなあ。ないよりはまし。」
ヒロミの反応はあまりよくない。
対照的にディアナとアザミは、「スポンサーに挨拶を兼ねていったことのない場所へ旅行もできる!」などとはしゃいでいる。
「浮かれてばかりはいられないわよ。」
イラさんがくぎを刺す。
「あなたたち、まだ両親や親族があきらめていないとは限らない。ネットを通じて監視されているかもしれないわよ。」
それを聞いた二人は、「大変だ!!」と、慌てだす。
「すぐにセキュリティレベルを上げないと!」
「ネットのアクセス解析を!」
お昼ご飯もそっちのけでそれぞれの端末キーボードをたたきだす。
「えーっと、外部からの侵入の痕跡はないけど・・・何これ!うちから怪しいサイトにアクセスしてるじゃないの!」
アカウント乗っ取りか何か・・・背筋がうすら寒くなる。
「違う違う、これ、この前見ていたアンドロイドのカタログサイトだから!」
ホッとすると同時に、「お前ら、一体、どんな怪しいサイトでアンドロイドを探していたの?」という疑問が沸きあがる。
「ほかにも怪しいアクセス先がこんなに!」
今度は別の意味で背筋がうすら寒くなる。
「ちょっと待て。俺も一応、解析の経験はある。それにそのアクセス先、俺が先に見ておきたい・・・。」
だが俺が話し終わるより早く、無情にもアザミによってアクセス先が読み上げられてしまう。
「えーっと、「VR18禁・やさしい姉ギャル学園」・・・?アゲハって差出人から怪しいメールが届いているけど・・・。」
「・・・すみません、それ、俺です・・・。」
うなだれながら俺は白状する。
「こんなのもある。「髭と上腕二頭筋」。」
「それ、私・・・。」
ヒロミもうなだれる。タイトルからして、ゲイ向けのサイトなのが丸わかりだ。
「なになに?これはボーイズラブだね。いや、どちらかというとおっさんずラブかな?「ジジイと若造」・・・。」
「・・・し、知らないわ。ヒロミさんじゃないの?」
イラさんの目が泳いでいる。
だがヒロミは「私じゃない!そもそもBLを嗜むゲイは少ないよ!」と即座に否定し、イラさんは絶望のどん底に突き落とされたような顔になった。
言っておくが、こうなったのはイラさんがセキュリティ云々について言い出したせいだからな。
ここにはダメな大人しかいないのか!!
「ふうん。じゃあ試しにサイトを調べてみようか。」
そう言って、ご丁寧にアザミがアクセス先を開いてくれたので、東洋人の老紳士が困り顔で、白人や黒人、南アジア系などの若者に囲まれた画像が映し出された。
「いやあっ!!見ないで!!」
小さく悲鳴を上げてイラさんは顔を覆う。
ふと、俺が若返った時にイラさんが発した「前の方がよかったのに」という言葉を思い出した。
違うとは思うがイラさん、まさか俺をそんな目で見ていたのか?!
俺は青い顔のイラさんを横目でちらっと見る。
一瞬、顔を覆う手の指の間から目が合ったが、イラさんはすぐに視線をそらしてしまう。
嫌な予感的中だ。
一体、イラさんの中で俺は誰とカップリングされていたのだろうか・・・いいや、考えたくもない。




