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第五十二話「囚われた影と新たな手がかり」

「囲まれたか……」


 ルインが低く呟きながら剣を構え直す。


 暗闇の中から現れた黒ずくめの男たちは、まるで夜の影そのもののように静かに私たちを取り囲んでいた。見たところ、訓練を受けた兵士というよりは、暗殺者か密偵といったところだろう。


「さぁ……ここからが本番だ」


 偽グリフィスが不敵に微笑む。


「……余裕ね。でも、すぐにその笑顔を消してあげるわ」


 私は剣をしっかりと握って戦闘態勢を取ると、黒ずくめの男たちが一斉に襲いかかってきた。


「来る!」


 私は剣を横に振り、最初に飛びかかってきた敵の武器を弾いた。激しい金属音が響く。


「チッ……!」


 敵が後退するのを確認し、すぐに次の相手に備える。


 ルインと殿下もそれぞれ剣を振るい、敵を迎え撃っているが、数が多すぎる。


「くっ……!」


 私の肩をかすめるように短剣が飛んできたが、間一髪で避ける。


「殿下、大丈夫!?」


「まだ平気だ!」


 殿下は敵の剣を受け止め、勢いよく蹴り飛ばす。


「ソニア様、後ろです!」


 エミリナの叫びと同時に、私は背後からの斬撃を受け流し、すかさず反撃する。


 しかし――


(まずい……数が多すぎる!)


 徐々に押され始め、敵の包囲がさらに狭まっていく。


 このままでは……!


 そのとき――


「おいおい、随分と楽しそうなことをやってるな?」


 低く響く声が、闇の中から聞こえた。


「えっ……?」


 私は思わずそちらを振り向く。


 次の瞬間、風を切る音とともに、無数の矢が飛来し、黒ずくめの男たちの間に突き刺さる。


「なっ!?」


 敵たちが動揺する。


「遅くなったな、ソニア」


 そこに現れたのは、青い軍服を纏った男――アレクセイ・フォン・エルフェルトだった。


 彼の背後には、十数名の騎士たちが剣を構え、整然と並んでいる。


「増援……!?」


 偽グリフィスの表情が一瞬にして険しくなる。


「ちょうどいいところに来たわね!」


 私は息を整え、剣を握り直した。


「そろそろ終わりにしようか?」


 アレクセイはニヤリと笑い、剣を抜くと、一気に敵陣へと斬り込む。


 その勢いに乗じて、私たちも再び攻勢に転じる。


「囲め! 逃がすな!」


 アレクセイの指示で騎士たちが次々と黒ずくめの男たちを制圧していく。


「くっ……!」


 偽グリフィスが後退しようとした瞬間、ルインが素早く動いた。


「――お前の逃げ道はない」


 ルインの剣が偽グリフィスの腕を捉え、彼は武器を落とした。


「ぐっ……!」


「観念しろ。貴様の計画はここで終わりだ」


 ルインが冷たい声で言い放つ。


 偽グリフィスは歯を食いしばり、悔しそうに唇を噛んだが、もはやどうすることもできない。


 騎士たちが彼を取り囲み、しっかりと拘束する。


「さて、色々聞かせてもらおうか」


 アレクセイが肩を回しながら、にやりと笑った。


 私はようやく剣を下ろし、大きく息をついた。


 ついに……偽グリフィスを捕えた。


 だが、これは終わりではない。これで問題が解決するわけではないのだから。



 ***



 偽グリフィスを捕縛し、場は一旦の静けさを取り戻した。


 私は大きく息をつき、剣を鞘に収める。エミリナも安堵の表情を浮かべながら、私のそばに寄ってきた。


「ソニア様、大丈夫ですか?」


「ええ、なんとかね。エミリナもよく耐えたわ」


「いえ……私は何も……」


 彼女は謙遜するが、私たちを支えてくれたのは間違いない。


 そんなエミリナの手を、私はそっと握った。


「ありがとう、エミリナ」


 彼女の頬がかすかに赤くなり、小さく頷く。


 さて――


 私はアレクセイの方へ視線を向けた。彼の率いる騎士たちは、すでに黒ずくめの男たちを拘束し、周囲の安全を確保している。


「……で、どうしてあなたがここにいるの?」


 私は問いかけた。


 アレクセイは不敵な笑みを浮かべ、私の方へ近づいてくる。


「そりゃあ、お前たちが怪しげな動きをしてたからな。つい気になっちまったんだよ」


「……私たちが?」


「ああ、というより……グリフィスが、だな」


 アレクセイの言葉に、一瞬息をのむ。


「どういう意味?」


「少し前から、王宮内で妙な噂が流れてたんだよ。グリフィスが密かに何かを探している、だとか、こそこそと地下の倉庫に出入りしているだとか。正直、俺は最初、アイツの趣味の悪い遊びかと思ってたんだが……」


 彼は一度、本物のグリフィスの方を見てから続ける。


「でも、お前たちが本物を助け出したって聞いてな。それなら、この偽者が何をしてたのか気になってくるだろ?」


 アレクセイは肩をすくめる。


「だから、ちょっと増援を連れて様子を見に来たってわけさ」


 なるほど、王宮内の騎士たちも私たちの動きに気づいていたのか……それなら、アレクセイが察知するのも当然だろう。


「まぁ、結果的にはいいタイミングだったみたいだな」


 彼は軽く剣を回しながら言う。


「ええ、間違いなく助かったわ」


 私はそう返した。


 そして――


 私は捕えられた偽グリフィスに向き直った。


 彼は手を後ろで縛られ、騎士たちに囲まれているが、その目にはまだ余裕の色があった。


「さて、あなたが本物じゃないことは分かっているわ。だから、質問に答えなさい。あなたは何を探していたの?」


 私の問いに、偽グリフィスはふっと笑った。


「……さてな」


「惚けるつもり?」


「いや、本当に知らないのさ」


 彼は肩をすくめる。


「俺はただ命じられた通りに動いていただけでね。王宮に潜り込み、グリフィスの名を騙るようにと。それ以上のことは聞かされちゃいない」


「誰の命令で?」


「さぁ……それを俺が言うとでも?」


 ニヤリと笑う彼の態度に、私は無性に苛立ちを覚えた。


 しかし、その時だった。


「――お待ちください」


 静かな声が響く。


 本物のグリフィスが、一歩前に出た。


「私が、直接尋ねます」


 偽グリフィスは本物の姿を目にすると、一瞬だけ目を見開いた。


「へぇ……本物さんのご登場か」


「君は一体、何者なんだ?」


「俺か? さぁな……少なくとも、お前じゃないことだけは確かだな」


 本物のグリフィスは、静かに彼を見つめる。


 その視線の奥には、複雑な感情が渦巻いているようだった。


「……今はこの男を王宮に引き渡し、詳しく調べるべきですね」


 ルインが静かに言った。


「そうね。尋問すれば、何かしら情報を引き出せるはずだわ」


 私は頷いた。


 アレクセイが剣を軽く振りながら言う。


「じゃあ、こいつは俺の方で預かるぜ。お前らも疲れただろうし、少し休めよ」


「助かるわ」


 私は一つ息をついた。


 この偽グリフィスが何者なのか、そして彼が何を探していたのか――


 まだ解決すべき謎は多い。


 でも、確実に前へ進んでいる。


 私は夜空を見上げ、小さく呟いた。


「……ようやく、ここまで来たわね」

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