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第四十六話「迫る黒幕」

 捕らえた刺客たちはすぐに拘束され、王宮の地下へと連行された。


 彼らがどこまで情報を持っているかは不明だが、少なくともこれで背後にいる黒幕を探る手がかりにはなるはずだ。


 私は王太子殿下――本物の殿下が待つ部屋へと戻ると、安堵の息をついた。


「……無事だったのね」


「お前たちのおかげだ」


 殿下はそう言いながら、椅子に深く腰掛ける。


「ルインは?」


「今、護衛たちと共に刺客を尋問しているわ」


「そうか……」


 殿下は腕を組み、難しい表情を浮かべる。


 捕らえた刺客たちがすぐに口を割るとは限らない。しかし、いずれにしても背後にいるのがグスタフ王子派である可能性は高い。


 だが――私はどうしても引っかかることがあった。


(本当にそれだけなのかしら?)


 グスタフ王子派が王太子殿下を排除しようとするのは当然といえば当然だ。だが、今回の襲撃はあまりにも準備が整いすぎていた。


 まるで――王宮内の誰かが、内通していたかのように。


「殿下」


「……何だ?」


「この件、内部から情報が漏れていた可能性は?」


 その言葉に、殿下の表情が険しくなる。


「……お前もそう思うか」


「ええ。今回の刺客たちは、殿下の動きを完全に把握していたように思えるわ。もちろん、殿下が外交に関わるというのは周知の事実だけれど、"今夜の行動"まで読まれていたのは不自然よ」


「……確かにな」


 殿下は沈思するように目を閉じた。


 そして次の瞬間、扉が開かれ、ルインが姿を見せた。


「報告します」


「どうだった?」


「刺客の一人が、"命令を下した人物"の名を口にしました」


 私と殿下は息をのむ。


「……誰だ?」


「――宰相、グリフィス・フォン・ファイアストンです」


 部屋の空気が、一瞬にして凍りついた。


「宰相……だと?」


 殿下が低く呟く。


 グリフィス・フォン・ファイアストン――国王に仕える宰相であり、国内の政務を取り仕切る実力者。


 まさか、その彼が今回の暗殺計画に関わっていたというのか?


「証拠はあるのか?」


「証拠としてはまだ不十分ですが、刺客は"ファイアストン卿の使いの者から指示を受けた"と証言しています」


「……直接の関与ではなくても、関わっている可能性は高いというわけか」


 殿下は険しい顔のまま、眉間を押さえた。


 もし宰相がグスタフ王子派と結託しているとすれば、それは単なる王位継承問題を超えた国家の危機を意味する。


「どうするつもり、殿下?」


 私の問いに、殿下はゆっくりと目を開いた。


「まずは証拠を集める。それから――」


 殿下の瞳に、揺るぎない決意が宿る。


「――ファイアストン卿に、一度話をしよう」


 その言葉が告げるのは、単なる対話ではない。


 権力の最前線にいる者たちとの、本格的な戦いの始まりだった。



 ***



 翌朝、王宮の空気はどこか張り詰めていた。


 昨夜の襲撃の件はすでに一部の貴族たちの耳にも入っているらしく、宮廷の廊下ではざわめきが絶えなかった。


 私はルインと共に、王太子殿下の執務室へと向かう。殿下がグリフィス・フォン・ファイアストン宰相との会談をどう進めるつもりなのか、確認するためだ。


 扉の前に立つと、護衛の騎士たちが静かに扉を開ける。


「殿下、失礼します」


 室内では、すでにアレクセイ・フォン・エルフェルトも同席していた。


「来たか」


 殿下は机に肘をつき、深く考え込んでいるようだった。


「昨夜の襲撃について、国王陛下には?」


「まだ報告していない。すべての証拠が揃っていない状態で動くのは危険だ」


 殿下の判断はもっともだ。国王に報告する以上、それなりの証拠を持っていなければ、逆にグリフィスに隙を与えてしまう。


「今、刺客たちの証言をさらに引き出している。ルイン、そちらの進捗は?」


「まだ決定的な証拠は得られていませんが、一部の刺客が"王宮内の協力者"について言及し始めました」


「王宮内の協力者?」


 私が問い返すと、ルインは静かに頷いた。


「詳細はまだ不明ですが、どうやらファイアストン卿の指示を直接受けていた者が、王宮内にもいる可能性が高い」


「……つまり、王宮の誰かが内通していたということね」


 最悪の展開だ。外部からの刺客だけでなく、内部の者が協力していたのだとすれば、王宮はすでに危険にさらされている。


 アレクセイが腕を組みながら言う。


「ファイアストンってのは、どんな男なんだ?」


「国王陛下に仕える宰相であり、政治の手腕には定評がある人物だわ。財政や外交にも関わっているし、何よりも国王の信頼が厚い。正直、この国を動かしているのは彼と言っても過言ではないくらいよ」


「なるほどな。つまり、殿下が迂闊に動いたら、逆に追い込まれるってことか」


「……その通りだ」


 殿下が重く呟く。


 もしファイアストン卿の関与を証明できなければ、かえって王太子殿下が政治的に孤立する可能性もある。


「会談はどう進めるつもり?」


「まずは探りを入れる。ファイアストン卿がどこまで関わっているのか、直接話をして確かめるつもりだ」


 殿下の表情は険しいが、その瞳には揺るぎない覚悟が宿っていた。


「だが、会談にはお前も同席してほしい」


「……私も?」


「ファイアストン卿は手強い相手だ。言葉巧みにこちらを誘導し、真実を隠そうとする可能性がある。お前の目で、彼の言葉の裏を読んでほしい」


「……わかったわ」


 私は深く頷いた。


 こうして、王宮内の最も権力を持つ男との対峙が、静かに幕を開けようとしていた。

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