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第四十四話「逆転の情報戦」

「では、どう動くべきか」


 ルインが淡々と言う。彼の表情はいつも通り冷静だったが、その瞳は鋭く光っていた。


「まず、オーウェン伯爵にこちらの動きを悟らせないよう、情報を操作する必要があります」


「どうやって?」


 私が尋ねると、ルインは軽く指を鳴らした。すると、彼の部下が机に地図を広げる。


「偽の情報を流します。『王太子殿下は今回の襲撃で重傷を負い、しばらく表には出られない』と」


「俺は無事だぞ」


 殿下が不満そうに口を挟むが、ルインは微笑んで首を振った。


「殿下が無事なのは結構ですが、敵にとってはそのほうが厄介でしょう。『計画が成功した』と思わせれば、彼らは油断する。そして、その隙にこちらが動ける」


「……なるほど」


 アレクセイが納得したように頷く。


「つまり、オーウェン伯爵が次の一手を打つ前に、こっちが先に仕掛けるわけだな」


「その通りです」


 ルインは小さく頷いた。


「それに、オーウェン伯爵が動けば、彼と繋がる他の貴族たちの動きも見えてくる。これを機に、一気に網を張りましょう」


「つまり、罠を仕掛けるのね」


 私も理解し、思わず微笑んだ。


「面白そうじゃない」


「ソニア、楽しむことではないぞ」


 殿下が困ったように私を見るが、私は肩をすくめた。


「でも、今まではずっと受け身だったじゃない? たまにはこっちから攻めてもいいでしょう?」


 すると、アレクセイが声を上げて笑った。


「ははっ、お前、なかなか気に入ったぜ。そうだよな、守るだけじゃつまらねぇ」


 ルインも少しだけ口元を緩めた。


「では、決まりですね。オーウェン伯爵を泳がせ、彼の背後関係を暴く。そのために、殿下が負傷したという情報を流します」


「どこに流すの?」


 私が尋ねると、ルインは迷いなく答えた。


「宮廷の噂好きな貴族たちの耳に入れます。彼らは情報を広めるのが得意ですから」


「なるほど……」


 私は腕を組んで考えた。


「でも、それだけじゃ足りないわね」


「何か案が?」


「ええ。オーウェン伯爵が本当に関与しているのか確かめるために、彼を揺さぶるのよ」


 私は机に手をついて皆を見渡した。


「例えば、殿下が『エルフェルト王国との交渉に前向きになった』という話を広めたらどう?」


「……面白いな」


 アレクセイが興味深そうに言う。


「確かに、それを聞いたらオーウェン伯爵は何かしら動くはずだ」


「そうなれば、彼がどこまで関与しているかも分かる」


 ルインが頷いた。


「では、すぐに準備に取りかかりましょう」


「頼んだわよ、ルイン」


「お任せを」


 彼は静かに微笑んだ。



 ***



 私たちが反撃の準備を進める中、宮廷ではすでに噂が広まり始めていた。


 「王太子殿下が襲撃を受け、重傷を負った」

 「エルフェルト王国との交渉に前向きな姿勢を見せ始めた」


 貴族たちは興味津々といった様子でその噂を囁き合っていた。こういう時の情報の伝達速度は驚くほど早い。ルインの手腕によるものか、それとも宮廷という場がそもそもそういう場所なのか――


 そして、しばらくすると、オーウェン伯爵が動き出した。


「殿下、オーウェン伯爵が急ぎの使者を王宮に送りました」


 報告を受けたルインが小さく頷く。


「予想通りですね。彼がこの機に乗じて何をしようとしているのか、もう少し様子を見ましょう」


「それにしても、意外と早かったわね」


 私は腕を組みながら言った。


「余程、殿下の動きが気に入らなかったのかしら?」


「可能性は高いですね。彼にとって殿下がエルフェルトと接近するのは都合が悪いのでしょう」


「まあ、当然だろうな」


 アレクセイが口を挟む。


「グスタフ王子派の連中にとって、アルバートがエルフェルトと正式に手を結ぶのは致命的な一手になる。何としても止めようとするだろうよ」


「そうなると、伯爵が直接殿下に会いに来る可能性もあるな」


 私が考えを巡らせながら言うと、ルインが微かに笑った。


「ええ。ですから、こちらもそれを利用しましょう」


「どういうこと?」


「オーウェン伯爵を泳がせるのも手ですが……一気に確信を引き出すなら、直接誘い込むのが一番です」


「誘い込む?」


「ええ。殿下が"極秘裏にエルフェルトの使節と会う予定がある"という情報を伯爵に流しましょう」


「なるほど……伯爵がその場に刺客を送り込めば、関与が確定するってわけね」


「そういうことです」


 私は小さく息をついた。


「……やるなら慎重にね。殿下の身に本当に危険が及ぶ可能性もある」


「もちろんです。だからこそ、我々がしっかりと手を打たねばなりません」


「俺も動くぞ」


 殿下が真剣な表情で言う。


「これは俺自身の問題だ。隠れて見ているだけなんてできない」


「殿下……」


 その言葉に、私はほんの少し安心した。殿下は確かに甘さが残る人だけれど、それでも逃げるような人ではない。


「わかったわ。でも、無茶はしないで」


「約束する」


 彼が私をまっすぐ見て頷いた。


 こうして、私たちは次なる策を決行することとなった。


 ――果たして、オーウェン伯爵はどう動くのか?


 策はすでに仕掛けられた。


 あとは、相手がどう反応するかを見極めるだけだ。

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