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第三十二話「エルフェルト王子の真意、そして新たな疑問」

 お茶会が終わったあと、私はアレクセイ・フォン・エルフェルトの言葉を考えていた。


『今後の君の成長を楽しみにしているよ、アルバート殿下』


 ただの社交辞令にも聞こえるが、それにしては意味深な言い回しだった。


(……彼は本当に、殿下の成長を見届けに来ただけなの?)


 エルフェルト王国の王子が、わざわざこの国まで足を運ぶ理由がそれだけとは思えない。


「……殿下」


 私は、静かに紅茶を飲んでいるアルバート殿下に声をかけた。


「アレクセイ様の訪問について、何か聞いていますか?」


「えっ?」


 殿下は少し考え込み、やがて困ったように首を傾げた。


「……いや、特に詳しい話は聞いてない。単なる親善訪問だとしか……」


「本当にそれだけでしょうか?」


 私は慎重に言葉を選びながら問いかける。すると、横で話を聞いていたルインが静かに口を開いた。


「……確かに、腑に落ちませんね」


「ルイン?」


「エルフェルト王国は、ここ最近外交活動が活発化していると聞きます。王太子自らが他国を訪れるのは珍しいことではありませんが……」


「ですが?」


 ルインは私の言葉に目を細めた。


「彼の言動には、親善訪問以上の意図を感じました。アルバート殿下の成長を確かめるような態度……まるで、何かを試しているかのようでしたね」


「……試している?」


 殿下は少し顔をしかめる。


 その時、不意にエミリナがふんわりと微笑んだ。


「わたくし、少し気になることあります」


「気になること?」


「はい。アレクセイ様は、こちらの王国のことをよく知っているようでした」


 エミリナは紅茶を一口飲みながら、ゆっくりと話を続ける。


「普通、初めて訪れる国で、あれほど王宮の事情に詳しい方はいないと思いません?」


「確かに……」


 私は思い返す。アレクセイはお茶会の間、まるでこの国の貴族社会の空気を完全に理解しているように振る舞っていた。


「……つまり、彼は以前からこの国の情報を収集していた?」


 私がそう言うと、殿下は難しい顔をした。


「……もしかして、俺の即位に関わる何かを探っているのか?」


「……それも考えられますね」


 エミリナは神妙な顔をする。


 エルフェルト王国は、決して小さな国ではないが、我が国と比べれば国力はやや劣る。もし将来的に同盟を強化しようとしているのなら、次代の王となるアルバート殿下の力量を測るのは当然のことだ。


「……殿下、わたくし、少しお調べしてもいいですか?」


「調べるって?」


「アレクセイ様がこの国へいらした本当の目的です」


 エミリナが微笑むが、その瞳は冷静な光を宿していた。


「外交の場において、表に出ている情報だけを信じるのは危険ですから」


「……頼む」


 殿下は少し逡巡したが、最終的には頷いた。


「俺も、自分でできる限り調べてみる」


「……ようやく、王太子らしい発言が出てきましたね」


 ルインが微笑んだ。


 こうして、王宮に巻き起こる新たな波乱の予感とともに、エルフェルト王国の王子の真意を探るための幕が上がったのだった――



 ***



 アレクセイの訪問の真意を探るべく、私たちはそれぞれ情報収集に動くことになった。


「さて……どうやって調べましょうか?」


 私は部屋に戻ると、考えを巡らせた。情報収集といえば、まずは宮廷内の噂だが……。


(彼の動向を知るには、やはり直接会話するのが一番よね)


 そう考えていた矢先、ノックの音が響いた。


「ソニア様、少しよろしいですか?」


「エミリナ?」


 私は扉を開けた。エミリナが微笑んで立っている。


「先ほどのお話ですが、わたくしも何か情報を集められないかと思いまして」


「もう動き始めたの?」


「ええ。ですが、やはりアレクセイ様ご本人に直接伺うのが一番かと思いました」


「そうね。彼はむしろ、そういう駆け引きを楽しむタイプかもしれないし」


 私がそう言うと、エミリナは少し考え込むように視線を落とした。


「それにしても……アレクセイ様は、本当にアルバート殿下のことを『試している』のでしょうか?」


「どういう意味?」


「彼は殿下のことを見極めようとしているように見えましたが、それだけではなく、何か別の目的があるようにも感じました」


「……例えば?」


「そうですね……。殿下の実力を見極めること自体が、別の目的のための手段になっている、という可能性もあるかと」


「なるほど……」


 私は少し考え込む。


 その時、廊下の向こうから足音が聞こえた。


「おっ、いたいた」


 現れたのは、当の本人――アレクセイ・フォン・エルフェルトだった。


「……アレクセイ様」


 エミリナが小さく礼をする。私も軽く会釈した。


「よお、ソニアにエミリナ。ちょうどいいところにいたな」


 アレクセイは気軽な様子で近づいてくる。


「何かご用ですか?」


 私が尋ねると、彼はニッと笑った。


「別に用ってほどじゃないが、お前ら、俺のこと色々考えてるだろ?」


「……随分と察しがいいですね」


 エミリナが驚いたように目を瞬かせる。


「そりゃあな。俺のことを気にするなって方が無理だろ」


「……それは、どういう意味ですか?」


 私が問い返すと、アレクセイは少し口元を歪めた。


「俺がなんでここに来たか、知りたいんだろ?」


「ええ、もちろん」


「でもな、お前らに言えることと、言えねぇことがある」


「……言えないこと?」


「まあな。俺は単なる親善訪問で来たわけじゃない。だけど、全部話せるほどお人好しでもないんだよ」


 アレクセイはそう言うと、私たちを見渡した。


「だが……お前らがどこまで気づくか、ちょっと見せてもらうのも面白いかもな」


「……試すつもりですか?」


 エミリナが静かに言う。アレクセイは笑った。


「さあな? でもまあ、ヒントくらいはやるよ」


「ヒント?」


 私が眉をひそめると、彼は低く囁いた。


「"この国の未来" について、よく考えてみろ」


 その言葉を残し、アレクセイは踵を返して去っていった。


「この国の未来……?」


 私とエミリナは顔を見合わせた。


 アレクセイ・フォン・エルフェルトの目的は、まだ霧の中だった――


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