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第三十話「お茶会修行の始まり」

「――というわけで、殿下には今日からみっちりお茶会の作法を叩き込むわよ」


 私は腕を組んでアルバート殿下を睨みつけた。


「……そんな大げさな……。お茶を淹れるだけだろ?」


「何言ってるのよ。お茶会はただの優雅な時間じゃないの。貴族社会における交渉の場でもあるのよ。そんな大切な場で、お茶をぶちまけるなんて前代未聞よ」


「ぐっ……」


 殿下は昨日の失態を思い出したのか、顔を赤くして口をつぐんだ。


 その様子を見ていたエミリナが、心配そうに口を開く。


「そ、ソニア様、あまり厳しくなさらないでください。殿下も努力しようとなさっているのですから……」


「努力するのは当然よ。次のお茶会でまたやらかしたら、王太子としての威厳が地に落ちるわよ?」


「うぅ……」


 殿下はぐったりと肩を落とした。まったく、自覚が足りない。


「さて、まずは基本から始めるわ。エミリナ、紅茶を準備してちょうだい」


「はい!」


 エミリナは嬉しそうに微笑むと、手際よくティーポットと茶葉を用意し始めた。


 その時だった。


「おや、お二人とも楽しそうですね」


 優雅な声が響き、ふと振り返ると、ルイン・ベイレフェルトが涼しい顔でこちらを見ていた。


「……ルイン?」


「聞きましたよ、殿下が茶会で大失敗なさったとか」


 彼はにこやかに笑いながら、さらりと核心を突く。殿下の顔がみるみる赤くなる。


「そ、そんなことはない! ただ少し、手が滑っただけだ!」


「ええ、ええ、"少し"ですよね。貴族たちにお湯をぶちまけて、皆さんが悲鳴を上げたと聞いていますが」


「ぐはっ……」


 殿下はルインの容赦ない言葉に撃沈した。


 私はため息をつきながら、ルインに向き直る。


「あなた、何しに来たの?」


「ふむ、これは王太子殿下の更生計画と見ましたので、興味が湧きましてね」


「更生計画って……」


 エミリナが困惑したように小さく笑う。


「別にいいわよ。どうせなら、あなたにも協力してもらうわ」


「おや、それは光栄ですね」


 ルインは微笑みながら席についた。


「では、まずは基本的な紅茶の淹れ方から始めましょうか。殿下、私の動きをよく見てくださいね」


「……お、おう」


 こうして、アルバート殿下の"本気の"お茶会修行が始まったのだった――



 ***



「――本日はお集まりいただき、ありがとうございます」


 アルバート殿下がぎこちなく挨拶をすると、招かれた貴族たちは微笑みながら応じた。前回の失敗を踏まえ、殿下はこの日のために私とエミリナ、そしてルインの指導のもと、みっちりとお茶会の作法を学んだのだ。


(さて……今回こそは失態を見せずに終えられるかしらね)


 私は殿下の様子を横目で確認しながら、自分のカップにそっと手を添えた。エミリナは緊張した面持ちで殿下を見守り、ルインは優雅に紅茶を楽しんでいる。


「さあ、殿下。ぜひお手ずから紅茶を淹れていただけませんか?」


 前回と同じように、貴族の一人がそう促した。殿下は少し肩をこわばらせたが、深呼吸をして頷く。


「もちろんだ」


 そして慎重にポットを手に取り、静かにお湯を注ぎ始めた。


(落ち着いて……いいわ、その調子よ)


 私は心の中でそっと応援する。前回のように慌てることもなく、今度はきちんと茶葉の蒸らし時間も計っている。


「さて、そろそろいい頃合いですね」


 ルインが微笑みながら言うと、殿下は頷き、丁寧に紅茶をカップに注ぎ始めた。こぼさないよう慎重に――。


(……やった)


 今回は成功した。私は密かに安堵の息を吐く。


「では、皆様もお召し上がりください」


 殿下の言葉に合わせ、貴族たちは一口ずつ紅茶を口にした。そして――


「……これは、美味しいですわ」


「ええ、まさか殿下がここまでお上手とは」


「前回とは比べ物になりませんね」


 次々と好意的な感想が飛び交い、殿下の顔がぱあっと明るくなる。


「ほ、本当か!?」


「ええ、とても素晴らしい出来ですわ」


 エミリナが優しく微笑む。


「……やればできるじゃない」


 私は思わず小さく笑ってしまった。殿下は照れくさそうに鼻をこすりながら、得意げに胸を張る。


「ふふ、これでようやく“まともな”お茶会ができるようになりましたね」


 ルインが満足そうに微笑むと、殿下は不満げに唇を尖らせた。


「お前な……俺だって努力したんだからな!」


「ええ、よく頑張りましたよ。……しかし、まだまだこれからです。次は、お菓子の選び方についても学ばなければなりませんね?」


「うっ……」


 殿下が顔を引きつらせる。


(まあ、ひとまずは合格点ってところね)


 私はそんな彼を見ながら、そっと紅茶を口に含んだ。温かく、香り豊かな紅茶が喉を通る――まるで、殿下の成長を祝うかのように。


 こうして、アルバート殿下の“リベンジお茶会”は、見事成功を収めたのだった。

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